エピソード2:まんじゅうの香りに誘われて2
ユリーナからの突然のキスで思考を停止してしまった俺はそのまま腕を引かれて、メラクルとユリーナに連れられて行く。
あれ? 俺もしかして子供扱い?
向かう場所は最近、引越ししてきたばかりのメラクルの実家。
公都の開発区の一画にある庶民の中でも中堅層に位置する普通の家だそうだ。
メラクルの親は大公国で騎士爵。
ハバネロ公爵領に吸収されることになっても大半の者の爵位や地位はそのまま維持されている。
これが大きく変動すると不満の温床となってしまうからでもある。
幸いと言ってよいかわからないが、大公国で大きな地位にあったガーラント公爵や文句を言いそうな貴族は消え、王国の意向に従う貴族が生き残った。
それと同時にメラクルの立場はただの聖騎士から公爵の第2夫人となったのだから、実家の立場も跳ね上がりそうなものだがそうはなっていない。
その理由はメラクルの両親がその手の権力欲が無いこと。
なにより騎士爵というのは貴族としては準男爵より下の爵位で、貴族ではない聖騎士がなれる一代限りの名誉職でしかないことも大きい。
それでも実際はメラクルは公爵の第2婦人だし、弟のクロウは俺の側近。
立場はすでに中堅層ではない。
それでメラクルの実家に何かが起こることがないのが公爵領の治安の良さを示していて、ちょっと嬉しい。
あと、もしかしたらもしかするが。
コーデリアのこの反応からして、メラクルの両親は娘の結婚相手が誰か知らないんじゃないかって話も流れてきた。
はっはっは、まさかなぁー。
直接、顔を合わせてはいないが父親も公爵家に仕えているし、少なくとも弟は俺に直接仕えているのだ、それは無かろう。
それでも俺はずばりとメラクルに事実確認を行った。
「おい、おまえ結婚したこと言ってないとかないよな?」
「はぁ? 子供まで出来たんだから言ってないわけないじゃない」
なに言ってんの、バカじゃないの?
そんな副音声すら聞こえてきそうな顔で俺を見るメラクル。
「あぁん?」
ちょっとムカついた。
それを見て苦笑するユリーナ。
あわわと動揺するコーデリア。
腹いせにわしゃわしゃとメラクルの頭を撫でる。
「わわ、なにすんのよ! 私のキューティクル昼寝無造作ヘアを!」
「おしゃれみたいに言ってるが、それは寝ぐせと言わんか?」
「てへへ」
笑って誤魔化すメラクル。
それを見て、まだアワワしているコーデリア。
あー、となにかを悟ったユリーナ。
このトライアングルに不安を感じてしまうのは俺だけだろうか。
侯爵の娘になっているのは通達しているのでメラクルの両親もそれについては知っているはずだ。
そうはいっても、それも大した反応を示さなかったそうだ。
娘に興味がないのではなく、当時は死んだと思っていた娘がまず生きていた喜びと、侯爵の養子縁組も仕事上のことだと思われたためだ。
大公国からではなく、王国からの通達だったこともそう考えた要因でもあっただろう。
その通達も大公国吸収の混乱の中で行われたこともあってか、理解を困難にさせのだろう。
メラクルもそうだったが、メラクルの両親はそもそも貴族の家同士の結婚におけるアレコレに考えが至るはずもないのかもしれない。
そんな俺の懸念もどこ吹く風か。
メラクルは呑気な様子で、以前、コーデリアの部屋に行ったときに買っていた肉まんの店に立ち寄り、山盛りの肉まんを注文。
「はい」
「お、おう。ありがとう」
俺はメラクルに渡された肉まんをじっと見る。
俺はなぜ、肉まんを渡されたのだろう?
食うためなのはわかるが……。
「メラクル? 今から家に行くんじゃないの?」
ユリーナが俺の心をそのままに代弁してくれる。
「ふぃくよ?(行くよ?)」
すでに肉まんを口に頬張り、もぐもぐとさせながらキョトンとした顔で答えるポンコツ。
こいつ、親になるんだよな?
俺がしっかりしないとと思ってしまう。
「タイチョ〜、イイもの食べてますね〜」
「ここの肉まん美味しいですよねぇ〜」
「どうしようかっなぁ〜、午後からデートなんだけどなぁ〜」
「……いらないなら私がもらう」
「あー、いるいる! デートとかないから!」
唐突にキャリア、クーデル、ソフィア、サリーのポンコツたちが湧いて出た。
メラクル隊はそのままメラクルの護衛兼側付きになったから、最初から近くに隠れてはいたんだが肉まんの香りに誘われて出てきた。
わらわらと。
おまえらはアリか!?
そしてメラクルから肉まんを受け取り、ポンコツどもは並んではむはむと肉まんを食べだした。
なに、この光景?
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