第289話最後に頑張ったと笑うため
『ありがとう』
聞こえない誰かの声が届く。
それは魔導機から届く通信に似ていた。
あー、全てを終わらせるにはこんな日がいい。
大体において、それは雲一つない青空のときだったりする。
晴天って嫌いなんだけどな。
それでも晴れやかな日ってのは、無意識に心に影響するらしい。
魔神とモンスターの群れをかいくぐり、他人事のようにそんなふうに思う。
魔神は確かに最強と呼べる力を持っている。
だが乗り越えられる。
剣においての最強の魔神がいるとする。
それらはスキルモーションと呼ばれる一定の型がある。
万のパターンを作ろうとも、それらは一定の型の範囲内でしか示さない。
3体の魔神の剣が同時に上から俺に迫るが、それを俺は剣1本で弾き返す。
限られた動きを予測して誘導すればタイミングを合わせ、こんな芸当も可能なのだ。
魔神は生きている人のように感情で意図せぬ道筋を導き出したりはしない。
正解の動きのみでは最強には至れない。
ときに自身の死さえも、想いを引き継ぐ者がいる限り敗北ではないのだ。
最強とはその心があってこその最強だ。
ただの暴力装置の最強とは
「ガイア、おまえにもできるだろ?
見せてやれ、本物の最強ってやつをよ」
剣を振り抜き、ときに魔神を蹴飛ばし、並んで前に進むガイアを挑発する。
しかし挑発を受けてガイアは口の端を吊り上げ笑う。
「言ってくれる……、
黒騎士もロルフレッドもそれに合わせて並走する。
それを見ながら俺は魔神を挑発する。
「おら、来いよ借り物の最強どもが」
なぜか、その挑発にだけは魔神が反応したように殺到する。
だがそいつらがどれだけ集まろうと。
負けるはずがない。
そこで俺は剣を振りながら息を一定のリズムに整える。
慌てるな。
どうせ焦ったところで人は人の限界を超えて力を発揮することはできない。
少し離れたところで、カリーたち2人が戦場でうずくまる子供を見つける。
「なんでこんなところに子供が。
おい、大丈夫か?」
「カリー!
そいつは違うぞ!」
「えっ?」
吹き飛ばされるカリー。
助けに行く余裕はない。
魔神化するのが成人だけとは限らない。
むしろ子供の方が最強という言葉に強く憧れを抱いてしまう。
その仮初の最強に。
「
アルクが呟くと剣が光り、竜巻のような小さな風が発生して魔神を切り裂く。
そしてカリーの手を引き起こす。
どうやら無事のようだ。
「バカもの、こんなところに子供がいるか!
子供たちのところに行かないように、こうして俺たちが護ってるんだからな」
「ですね!」
さらにそれとは反対側で並走する一団。
「ラビットさーん、ふぁいとです!」
「ラビットだなんて他人行儀な、レイア。
リュークと呼んでくれ」
ラビットたちだが、どうにかこうにかモンスターをかいぐくろつつ、魔神を乗り越えている。
「ぎょひー!
甘い!?
甘過ぎる!?
ハバネロ公爵様みたいです!
辛みを下さい!!」
「ハバネロ、だと!?」
「おい、ラビット!?
戦闘中になに変な顔してんだ!」
「ラビットさんも激おもタイプだったんですね」
こんなときでもレイアとラビットたちが寸劇を繰り広げている……。
ポンコツ隊の他にもポンコツ隊がいたんだなぁと、なんとなくしみじみと。
事前の計算もあって教会のは辿り着けた。
すでに後方から追い縋るように魔神たちが迫る。
「足止め、頼んだぞ」
ガイアが笑みだけで応えアルクが頷く。
俺は黒騎士とロルフレッドだけ伴い教会の中に。
入った瞬間、空間が歪んだ気がした。
ゲーム装置が正しく起動したのだろう。
おそらく世界は半現実ともいえる空間になり、悪魔神にも剣が届く。
ユリーナたちが上手くやってくれたのだ。
あとは少しでも早く悪魔神を倒すだけだ。
悪魔神は巨大モンスターと同じような大きさで、幾本もの触手と黒い大きなツノを持ったケモノ。
ラスボスらしい威容を放ってはいるが……それだけだ。
この世界はゲームではない。
バトルを楽しむ必要もなく、その存在を消すだけだ。
だが悪魔神の前には鉄仮面騎士。
名は知れず、だけどいつかの時代のどこかの最強の騎士で英雄だろうと想像がつく。
どうでもいいがな。
「倒さないと先には行かせないってか?」
黒騎士とロルフレッドが2人で同時に左右から鉄仮面騎士に斬りかかる。
鉄仮面騎士は剣1本だけかと思いきや、どこかから取り出した隠し剣でロルフレットを跳ね飛ばす。
黒騎士も斬られたが、その斬られた自分の血で鉄仮面騎士に目潰し。
さらに懐に入り込み、いつか俺がガイア相手に見せた無手技で騎士を転がし、そこにロルフレッドが必殺技を叩き込む。
その間に俺は悪魔神に相対する。
巨大な触手の化け物。
触手をいくつも飛ばしてくるが、素早く避ける。
悪魔神本体に絶対的な力があるというわけではない。
魔神一体ずつよりは強いが、その程度。
俺は懐から例の金属片の爆弾を7つ取り出し悪魔神に放り投げる。
それぞれの個性を表す魔導力が光となり混ざり合い、カラフルな光の渦が悪魔神を包み込み爆弾する。
爆発音と共に悪魔神は大きく揺らぐ。
効いてないことはないが、致命的ではない。
だが少なくともその動きは鈍る。
その時間で十分だった。
俺はサンザリオンXを掲げる。
かつて正しく使われることなく、誰も救えずに終わった世界。
その世界を救うために全てを賭けるために作ったその剣。
ゲーム設定の記憶の中で俺がこの剣を暴走させた。
暴走した理由は単純だ。
俺の魔導力不足だ。
今度はそれに足る魔導力が俺の中にある。
悪魔神を破壊するために公爵家の全てを持って。
「あばよ、繰り返しを産む機械。
面白くもない、辛い人生かもしれねぇけどな。
俺は……俺たちはそれでも前に進むよ」
必死で大切な人と生きるということを。
ようやく終わらせられる。
終わりは哀しいことではあるけれど、それがなくば新しい何かは始まらない。
そのために紡いでいくために、人は生きるのだ。
そしてその精一杯の生き方に泣き、楽しみ、怒り、哀しみ……最後に頑張った!
そう言って笑うのだ。
そのために
そこに一本の
あとついでに
「『
そして光があふれた。
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