第288話幼馴染の幼馴染ができる
メラクルはどこ?
キョロキョロと見回す。
きっと常識で考えてはいけない。
メラクルがメラクルらしくいられる場所。
キュピーーーーーーン。
それは遠い記憶。
レッドを含め、私たちはもしかしたら幼馴染と言えるかもしれない。
そんな交流の日々。
あの日もあそこにいた。
そう、それは!!
うん、メラクルは屋根の上にいる。
「姫様ァァアアアアア!!
たーすけにきたよー!!」
屋根の上でぶんぶんと元気良く剣を振って知らせる。
屋根の上だからわかりづらいが、隊のみんなはメラクルの足下で倒れている。
一体、屋根の上でなにが起きたのだろう。
「メラクルさん!
エネルギーこれに注いでくださーい」
手を振るメラクルの後ろからDr.クレメンスが、人ほどの大きさのあるアンテナを持って姿を見せた。
なにあれ?
メラクルがそのアンテナについたコードの先にある四角い箱に手を添える。
なんだか痺れるみたいにビクビク震えてない!?
メラクル大丈夫?
「よっしゃぁあ!
魔導力満タン!
いっくよぉぉおおおお!!
ポンコツ時空発動ーーーーー!!!」
「ねえ!?
ツッコミどころいっぱいなんだけど、ポンコツ時空ってなに!?
なんなの!?」
屋敷の上に登ってこようとする魔神たちを、ヒカゲやメラクルの弟のクロウが弾き返している。
ガタイの良い大男の兵もいる。
たしかカンパーニという元大公国の兵士だ。
魔導力のない一般兵でも魔導器を使い魔導力を使えるようになったので、早速戦力として応援に来てくれたようだ。
カレシーズとでも言おうか。
文官のキャリアの従兄弟は、流石に前線には出ずに後方で書類と戦っているはずだ。
あと1人足りないことは触れないでおこう。
ミヨォンミヨォンと気が抜けるような音が辺りに響く。
するとどうだろう、目に見えて魔神たちの動きが鈍くなった。
「嘘!?
ほんとにポンコツ時空発生してるの!?」
私は魔神に剣を振りながら思わず叫んでしまう。
「姫様!
騙されちゃダメよ!
正式名称は魔導力誘導装置、魔導力の影響を平均化することで魔神の力を弱め、必殺技を使わなくても、ゲーム装置の影響力の強いこの地域一帯の魔神なら倒せるようになる!
そんなすごい装置だけど、Dr.クレメンスがノリでそう言っただけなんだから!!」
「ああ、うん。
メラクル説明ありがとう」
なんとなく私は考えることをやめてしばらく剣を振るった。
確かに必殺技を使わなくても魔神を倒せるようになった。
しかも魔導力の減少した魔神は大半は素人同然の動きで、1対1なら誰もがそうそう負けることはない。
問題は1対1どころか無限湧きしているので、ひどいときには1対10とか。
さながらホラーパニックのよう。
「ユリーナ様、ここに留まってたらキリがない。
なんとか突破口を開いて脱出しないといけません」
援軍の部隊を指揮していたエルウィンがそう言ってきた言葉に私は頷く。
「そうね、その隙間がないことが大問題なんだけど」
私たちは屋敷を中心に魔神たちを押しとどめている。
モンスターはほぼおらず、ただひたすらに魔神との戦いだ。
魔導力誘導装置のおかげで均衡は保っている。
そうは言っても数に押されて全滅は間違いない。
脱出する方向はハッキリしている。
ルークたちが屋敷からの脱出ルートを確保しており、魔神が発生した際にはそこに向かう手筈だった。
屋根からシュタッと飛び降り、私に並んで魔神に剣を振るうメラクルとキャリア、クーデル、ソフィア、サリー、コーデリア。
「そういえばメラクルたちはよく屋敷に辿り着けたよね?」
「いやもう、びっくり。
ここについた途端に魔神が溢れるもんだから、慌てて屋根に登ったら戦闘が始まっちゃって」
なんで屋根に登ったんだろうとは聞かない方が良いのだろうか。
「あ、Dr.クレメンスと魔導誘導装置を安全な場所に運ぶためと、周りの状況を見るためだかんね?
私がポンコツだとかじゃないからね!?
ハバネロのやつなら、すーぐに私をポンコツポンコツポンコツって!
あいつ、自分が言い出したのに、いつからポンコツと呼ばれ出したんだっけ、とか言い出して!」
「せせせ、せんぱーい!
いまそういう状況じゃないですよ!?」
「タイチョー、なんとかしてー!」
「隊長〜、これジリ貧ってやつですよー」
「ヒー君!
こっちこっち!」
「私だけ彼氏いないのどう思います!?」
コーデリア、キャリア、ソフィア、クーデル、サリーが剣を魔神に振りながら次々とまくし立てる。
まだ余裕があるから今のうちになんとかしないと……。
あとサリー、別にいますぐ出会いを求めなくてもいいと思う。
性格が悪いわけでもないし、ふとしたときに大切な誰かに出会えるよ。
たとえば初めてのキスの相手が赤騎士とか名乗って、ピンチのときに助けに来てくれたり。
さすがに今日は助けには来れないだろうけど。
むしろ私が助けに行かないと。
こんなときだというのに、私は思わずクスリと笑ってしまう。
『そこぉおおおお!
こんなときに乙女の顔しない!』
すぐそばで剣を振るミヨちゃんがこちらを凝視していた。
『ごめん、ごめん』
ミヨちゃんはムーと口を膨らませて不満顔から一転真剣な顔をして。
「でも実際、どうする?
ポンコツ隊の言うようにジリ貧だよ。
私、必ずロイドのところに帰りたい」
ミヨちゃんって、時々とても素直になるんだよね。
「ポンコツ隊言うなぁ!」
「ポンコツ言う方がポンコツなんですー!」
「間違わないでください!
私たちはポンコツ隊じゃなくて、ポンコツメイド隊です!」
「私もヒー君と生きる!」
「ぐぬぬ、ここで散ってなるものか!
私は必ずやイケメンをゲットして故郷に
サリー、あなたがイケメンをゲットしても大公国に
そこでメラクルから通信。
『姫様、私に1つアイデアがある。
私の全力の必殺技で突破口を開いてそこを全員で撤退する。
後方で罠を張っているルークたちと合流できればなんとでもなるでしょ?』
『そうね、でもそれだけの必殺技を放てる?』
それができれば苦労はない。
メラクルもすでに私たちを助けるのに極大の必殺技を放ち、ポンコツ発生装置……ではなく魔導誘導装置に魔導力を注いでいる。
すでに魔導力も空っぽのはずだ。
『それを含めてアイデアがある。
ただし……』
通信で近づかなくても会話できるのに、大事な話だからか、メラクルが私のすぐそばにまで来る。
メラクルはさらに、コーデリアたちに少しの間、私たちに魔神が近寄らないようにカバーしてくれるように指示。
さらにさらにエルウィンにも連絡して、魔神に隙を作るからタイミングを見て一斉に脱出を図ることまで指示した。
『ただし?』
私は目の前にまで来たメラクルの目を見て尋ねる。
真剣な目だ。
おそらくかなりの一か八かの作戦なんだろう。
『ハバネロに一緒に謝って』
そう伝えて、メラクルは私の口に口を重ねた。
「むぐっ!?」
口を離すとぺろっと自分の唇を舐めて、メラクルは最強魔剣ガンダーVを構える。
「いっくぞぉぉおおおおお、皆!
タイミングを合わせて全員走れぇぇ!!
『
辺り一面を覆うほどの光が真っ直ぐに伸びる。
いままで見た中でも1番の巨大な閃光。
レッドから魔導力を吸収するのと同じ要領で、私に蓄えられた魔導力を使い必殺技を放ったのだ。
レッドと私たちは魔導力の相性がとても良い。
試したことは当然なかったが、同じ繋がりで私とメラクルも魔導力の相性がとても良かったのだろう。
こんなときではないと絶対試さなかっただろうけど。
大海が割れて、その先に私たちが通れる大きな道ができるかのように。
私たちはメラクルが作った大きな道を全員で駆け抜ける。
魔神も動揺するのか、私たちを止めることはできない。
あとは、レッドたちが悪魔神を討伐するだけ。
『絶対、絶対、絶対、一緒に謝ってよね!?』
メラクルの目の端にキラリと涙。
うん、よっぽど怖いんだね。
心配しなくても、事情と相手が私だからレッドは怒らないと思う。
……でもそれを口実に部屋には連れ込まれると思うけど。
私は自身のお腹にそっと手を触れる。
幼馴染ができそうだね。
……それ以前に兄弟か。
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