第287話舞い散る華のように
世界が戻ると同時に魔神が部屋に溢れた。
祈りの剣プレイアはその役目を終えたということだろうか、女神とともに消失した。
ゲーム装置も同時に。
もう後戻りは一切できない。
「ローラ、セルドア!」
咄嗟のことに驚きの表情を見せるローラとセルドアを叱咤し、愛剣グリアネスを振り抜く。
「『
部屋の中にいた魔神のうち、扉側の魔神を吹き飛ばす。
必殺技の威力が大きく増している。
お腹の子のおかげか、女神の力を吸収したのか、あるいは両方か。
さらにミヨちゃんが扉を蹴破り、部屋の外への退路を確保。
迫り来る魔神をセバスチャンが食い止めている間に転がるように部屋の外に出る。
「ほんと、お腹の子に悪い魔神だこと!」
妊娠初期にさせていい運動ではない。
ローラが続いて部屋から出てくるセバスチャンを援護しながら、私の言葉に同意する。
「きっと魔神になるのは、子育て1つしたことのない男どもなのでしょう」
「かもね」
私たちもまだ子育てをしたことはないが、モノの例えというものだ。
部屋を出ても、廊下の左右に魔神が待ち構える。
なので私は屋敷の壁をぶち破り外に脱出する。
通信機で連絡を取り、レイルズとシルヴァたち銀翼騎士団と合流する。
「まずいです、想定を超えて集まってきてますね……」
ローラが状況を確認して報告してくれる。
その間も私たちは近づく魔神を押し返す。
私も再度グリアネスに力を込めて魔神を吹き飛ばす。
「魔神も同士討ちをすることなく迫ってきています。
どういうことでしょう、魔神どもは己と似たタイプのもの同士で潰し合うはずでは……」
セルドアが額に汗を浮かべ、疑問を口にしたところをレイルズがチラッと私を見て答える。
「魔神たちは自分を超える最強を許したくないんだろうねぇ〜。
そんなわけで魔導力に溢れたユリーナ様を狙ってる……ってことだろうよ」
魔神は最強に集まってくる。
妄執だ。
「最強最強最強、どうでもいいわ!
なにがそんなにいいのよ、暴力で優位に立つというだけじゃないの!」
魔神を必殺技で切り捨てながら、レイルズが軽い口調で言う。
「そう言ってくれんなよ、ユリーナ様。
最強って男のロマンの一つなんだよ〜。
暴力でしかないってのは賛成だけど、ね!」
しかもその最強というのも、所詮借り物の力だ。
だから悪魔神にも女神にも抗おうとしない。
最強に執着するくせにより上位の存在に与えられて満足するような、稚拙な精神性の存在でしかない。
「ああ、もう!
数が多い」
そうは言っても自ら魔神になった存在はどれほどいたのか。
すでに過去の英雄が悪魔神に、死後も魔神として利用されていることはわかっている。
それは怨念があるほどに強い魔神となって甦るとも。
怨念のない英雄などいないのではなかろうか。
英雄もまた最強と同様、争いの中から生まれる。
その時点で光ある末路はひどく困難なことだ。
「ユリーナ様!?」
ローラの叫びと同時に私の身体が弾かれる。
かろうじて剣を盾に防ぐことはできたが、あまりの衝撃に吹き飛ばされてしまった。
「……最悪、お父様」
黒くずんぐりとしたケモノ。
熊のようなヒョウのような、1番近いのはやはり想像上の悪魔。
「グガガガァアアアアア!!」
ケモノは魔神と一線を画した姿であり、それでもこれもまた魔神なのだろう。
ミヨちゃんが剣で背後から不意打ちを喰らわそうとするが、俊敏な動きでそれを横に避ける。
避けた動きのままに私に巨体の体重の勢いで突撃してくる。
「ぐっ!」
今度は剣に力を込めて巨体を迎え撃つ。
さすがにこの巨体に暴れられたら分が悪すぎる。
いままでなら弾き飛ばされ、なす術もなくやられていただろう。
だけどいまはなんとか拮抗に持ち込んでいる。
私が父であったケモノに足止めされているうちに、他のメンバーも数の勢いで押されだす。
そこに。
「パールハーバー……」
鎧騎士の魔神。
妖しい漆黒の瞳の騎士。
それが私に切りかかってきた。
「させませぬ、ユリーナ様!」
セバスチャンが私とパールハーバーの間に割って入る。
斜めに剣が走り鮮血が飛ぶ。
それでもセバスチャンは倒れ込むことなく、魔神であるパールハーバーを押さえ込む。
「……させませぬ。
この方はレッド様の大事なお方、貴様などに!」
セバスチャンに気を取られ、父であったケモノに押し込まれながら私は叫ぶ。
「セバスチャン!」
「セバスチャン殿!」
セルドアが他の魔神を蹴飛ばし、パールハーバーとの間に割って入ろうとするが別の魔神が飛び込んできて一緒に転がる。
その上にさらに別の魔人が殺到する。
「セルドア!?」
ローラの絶叫が響いた。
そのとき。
「
誰かの絶叫とともに走る巨大な閃光。
それと同時にセルドアに飛びかかろうとした幾匹もの魔神が消し飛ぶ。
スッとセバスチャンの隣に誰かが。
「
その誰か……エルウィンが呟き剣をきらめかせる。
パールハーバーの首元を光が横切った。
緩やかにパールハーバーだった魔神の首が落ち、その構成した身体がチリとなっていく。
そのパールハーバーのあとに視線を送ることもなく、エルウィンは言葉を吐き捨てた。
「閣下の大事な人たちに近づくな、下郎が」
「エルウィン殿……助かりましたぞ」
セバスチャンが傷を手で押さえながらもエルウィンに礼を言う。
「セバスチャン殿、御老体が無理するものではないですよ?」
エルウィンの軽口にセバスチャンがしてやられたと
「エーーーールウィイン!!
姫様無事!?
無事じゃなかったらぶっ飛ばぁぁあああああああす、よ?」
どこからかメラクルが叫ぶ声にエルウィンが慌てて反応する。
「あっ、やべ!?」
エルウィンがようやく父であったケモノとぶつかっている私の方を振り返る。
その刹那。
「
音を置き去りに誰かが横を走り抜ける。
剣線が父だったケモノの腕をなぞると、その腕が切り離された。
「トマーーーーーーーース!!
よくやった!
トマーーーーーーーース!!!」
また何処かからメラクルの声が。
「トーマスです!!
トマースじゃないですから!?」
シリアスだった世界がポンコツ空間に
私は刹那のときを逃さず、緩やかに動き剣を構える。
そこで父だったケモノが私を見て動きを止めた……気がする。
「『
静かに、まるで静かに散る華と同じ運命を受け入れるように、ケモノは目を閉じ。
やがてチリとなり消えていった。
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