第283話あのときと……別れ
ユリーナと別れ、俺たちは悪魔神のところに真っ直ぐ向かった。
連絡は日に1回は取り合っているが、移動する先々で戦闘に巻き込まれている。
公爵軍と各地方の王国軍と合流しながら、目的地へと進む。
ときには街や村も見捨てなければならないだろう。
その一つ一つに構っていれば容易く世界は滅びる。
中には合流を渋る領主もいたが、それに対して無理強いはしなかった。
どのみち、その兵を吸収したところで大きな戦力にはならない。
こちらに協力しないということは、こちらもまた協力しない。
……そんな余裕はない。
心から健闘を祈ったが王都に近づく頃には、その地は魔神により潰された。
王都には入らない。
負傷兵など兵の入れ替えは行うが、のんびりとしている余裕はない。
ゲーム装置を起動するしないに関わらず、持久戦では悪魔神に対して勝ち目はない。
沸き続ける魔神の数に、過去にそれほど魔神になった人がいたのかと疑問に思ったが、どうやら過去の英雄と呼べる死者もまた魔神として出現しているらしい。
もちろん、そこに彼らの意思はない。
悪魔神にとってしてみれば、魔神への転生とはゾンビの
その区別をしているのは生きている人間だというだけで、元々違いなどなかったのか。
まあ、どうでもいいことか。
肝心なことは悪魔神はいくらでも魔神を出現させられるということだ。
いよいよもって、悪魔神を討伐することでしか人類に勝機はないといえた。
「あとは頼むぞ」
平原まで軍を出して出迎えてくれた現王レニン・グラーシュは、そう言って俺の肩を叩いた。
ガラント将軍が王国を出るまで後方を守ってくれる。
俺たちはまっすぐに前に進むだけだ。
後方を任せることに感謝を述べるとガラント将軍は快活に笑った。
「若者は前を見るだけでいい。
後ろは我々年寄りに任せておけば良い」
言われてみれば、かつて俺の両親が亡くなった騒動の結果、公爵家で残った者の多くが若者だった。
幹部陣は俺を筆頭に若者が多く、図らずも若者の軍と言えなくもない。
王都からの補給物資と兵の入れ替えもあるので、その平原を一時的な駐屯地として幾日か待機する。
その夜、俺はメラクルを呼び出して告げた。
「頼めるか?」
「あんたが姫様を気にし過ぎて焦ったりしたら大変だものね。
わかったわ、ドーンとこのメラクル様に任せておきなさい」
俺は自分の胸を叩き、またむせるメラクルを抱き寄せ、さらに告げる。
「無事に戻ったらお前にも俺の子を産んでもらう」
「わわわ、わかったわ。
あああああ、あれ?
もしかして、そういう雰囲気でコレはそれでアレ?」
俺はそれにはすぐに答えずに、メラクルのポンコツぶりに笑みを浮かべる。
「色々あったなぁ。
俺の記憶の始まりはお前と会ったあの日からだ」
ユリーナのキスで目覚め、このポンコツが暗殺に来て、そのままメイドに仕立て。
すぐに領内の立て直し、俺が自由に使える予算がなかったから、盗賊退治に出たらこのポンコツもついて来て。
微妙な立場のはずだったから置いていくのも変だと思っただけなんだが、思ったより使えたのと、俺を暗殺に来た動機がハッキリしていたから信用できたので、そのまま連れ回した。
盗賊の中にレイアの兄ザイードもいて、魔剣を渡して逃したら、シロネを助けて大戦のときにメラクルも手助けしてくれたんだったな。
そこで帝国の密偵の襲撃に遭って撃退したら、レイアと鉄山公が踊りながら登場して……踊ってなかった?
まあいいか、初めての大型モンスターの討伐。
あれって確か新女神転生派が裏で実験をして、引き寄せた大型モンスターだったんだが話したっけ?
「聞いてないわよ!?」
「そうか、まあいいや」
そのあとで大公国に行くついでにメラクルを送って行ったな。
遠目に見つけてメラクルがこちらに駆け寄ろうとしたときに、一緒にいたのはポンコツ隊のメンバーだったんだな。
メラクルが死んだと聞いたときは流石のサビナも泣いていたな。
まさか、崖から落ちてミヨちゃんに助けられて生きていたのだから奇縁……豪運か?
あのあと俺はユリーナと再会できた。
俺の赤騎士の変装を一発で見破られたときは、そのまま押し倒しそうになった。
婚約者でないと触らせないと言われたときは、嬉しくてその場で思いっきりバラして回ろうかと思ったぐらい。
まあ、そんなことしたら、ユリーナも危ないぐらいに俺は嫌われてたからできなかったけどな。
そこでユリーナたちとの初めての共闘。
もちろんこれも裏で糸を引いていたのは新女神転生派の奴らだった。
あいつら暗躍し過ぎ。
そのあとすぐに帝国との大戦が始まった。
これも裏で糸を引いていたのは……省略だ。
かろうじて生き残れたが、俺に時間は残されていなかった。
皇帝と悪魔神との決戦のための最初の話を大戦後の会談で打ち合わせた。
「あれって、あのときからこの状況を予測してたってこと?」
「当たり前だろ?」
むしろそのために皇帝に会いに行ったんだからな。
戦後の話だけなら、国同士がやればいいことだからな。
それでまあ、戦後の事後処理と俺がいなくなったあとに備えて最後の準備をしてたんだが……。
まあ、泣くわ泣くわ。
メラクルがあんなに泣くとは思わなかった。
「そりゃ泣くわよ!
いま思い出しても泣きそうに……」
「ほれ、ハンカチ」
ぶびーと俺のハンカチで鼻をかむメラクル。
おい!?
「間違ってもあのときと同じように、自分が死んでもとか思わないでよ!
そんなことしたら後を追うからね!」
「わーかってるよ」
まさか、メラクルからも王を暗殺したらどうだとか、反乱したらとか、せっつかれるとは思わなかった。
どこぞのご都合話でもあるまいし、王を殺すのも困難なら、殺したあとはもっと困難だ。
王を殺せるだけの権力を得ていないと、王を殺せても同様の手口で、よってたかった今度はこちらが手当たり次第に殺されるだけ。
その場合は暗殺合戦になるだろうな。
当然、ユリーナやお前にも暗殺の手が回っただろうよ。
暗殺なんて1番避けるのが難しいんだ、それが無差別となれば、もうどうにもならん。
それが1番避けたかったんだよ、悪いか!
反乱に至っては分かりやすく戦力が足りなくなってお互いが滅びるだけだ。
死んだと思ったけどなぁ……。
起こされるとは思わなかった。
まさか、メラクルにそんな特性があったなんて想像もしてなかった。
たしかにメラクルと話していると力が抜けるよ。
「それって褒めてないよね?
喧嘩売ってるよね?
ねぇ?」
「冗談だ」
俺はそう言ってメラクルの唇にキスをする。
「あああああ、あれ?
もしかして、そういう雰囲気でコレはそれでアレ?」
さっきとまったく同じこと言ってねぇか?
まあ、なんだな。
「コレはそれでアレだ」
そう言って黙らせるために再度、メラクルの口に口を重ねた。
そうして、俺はメラクルとこの地で別れた。
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