第275話教えてハバネロ先生

 魔神とモンスターたちの同士討ちの状況を、伝令の切り札カルマンから報告を受ける。

 大戦ではかなり頑張ってくれて、彼も伝令役の隊長にまで出世している。


「もう少し待機だな」

 まだ魔神たちは争いを続けている。


 ここで割って入るとこちらに全ての魔神の目が向くことになる。

 もう少し減らしてから一斉に片付けるべきだと判断した。


 休憩と食事の指示を出して俺も少し肩の力を抜く。

 すると先ほどから、ずっとチラチラとこちらを見ていたガイアと聖女シーアが俺に詰め寄る。


「どういうこと!?

 なんで魔神たちが同士討ちを始めた?

 どんな魔法!?」


 ガイアがグイッと顔を寄せてきたので、一生懸命メラクルがグギギと引き剥がそうとしてくれるが、ガイアはさらに吐息がかかるほどぬ顔を寄せてくる。


 そこに俺の手をグイッと引っ張り、できたガイアとの隙間にユリーナが割り込む。


「ガイア、落ち着きなさい。

 どうしたのよ」

「これが落ち着けるわけないよ、ユリーナ!

 だって魔神だよ!?

 魔神が同士討ちしてるんだよ!」


 押さえようとするメラクルをズリズリと引きづりながら、なおも俺に詰め寄ろうとする。


「ヘルプっ!

 誰かヘルプ!

 ガイア押さえるの手伝って!!」


 わらわらとポンコツ隊が周りから現れ、ガイアを押さえかかる。


「ぐぬぬ〜、はーなーせー!」

 わーわーと叫きながらポンコツ隊も踏ん張る。

 ガイアは顔以外の全てにポンコツ隊が絡みついているのに、なんて馬力だ!


「……っていうか、本番前に疲れることしてんじゃねぇよ。

 話してやるから落ち着け」


 そう言ってやると、ポンコツ隊を含む全員が一斉に素早く、俺の前に並んで座り込んだ。


 お前らも聞きたかったんかい!

 いつのまにか聖女シーアも一緒に座っている。


「せんせーい、説明お願いしまーす!」

 代表してメラクルが挙手してそう言った。

「誰が先生だ」


 仕方ないなと俺はユリーナを抱き寄せてから、話をしてやることにした。


「あの〜レッド?

 こんなときでも私の定位置ここなの?」

「当然だ」


「ああ……、うん。わかった」

 そう言ってユリーナは諦めたようにため息を吐く。


 わかってくれてなによりだ。

 だがなぜ、ため息を吐く?


「魔神ってのは、最強になりたい欲望を悪魔神に願って叶えたヤツらなんだ」


 ふむふむ、と俺の前に並ぶポンコツ6人と聖女姉妹が首を縦に振る。


「ここで大きなポイントになるのは、最強とはなにかということだ」


 メラクルが手を挙げる。


「うむ、メラクル君」

「わかりません!」

「後でお仕置きな?」

「なんで!?」


 次にガイアが手を挙げる。


「ガイア君、答えたまえ」

「1番強いことです」

「正解だ。

 メラクル君、優秀なガイア君を見習うように」


 えへへとガイアは笑って、メラクルはぐぬぬと悔しがる。


 ユリーナが俺の腕の中で目を瞬きさせてポツリと。

「なにこれ?」

 学校ごっこかな。


 聖女シーアが首を傾げつつ俺に話を促す。

「それで最強であることがなんなのでしょう?

 実際、魔神が最強であるがゆえに私たちはこれほどの苦難を味わっているわけですが。

 今もその前も……」


 その前というのはゲーム設定の記憶のときだな。


 俺にとっては設定の記憶というものでしかなくても、聖女シーアとガイアにとってはさながら過去の出来事の記憶。

 前世の記憶と言い換えても良いほどだろう。


 当然、その絶望の記憶は彼女たちの心にも深く染み込んでいる。


「単純なことだ。

 最強という欲に駆られた存在だ。

 だったら己以外の最強が我慢出来ないんだよ」


 メラクルは眉間にシワを寄せて反論する。


「はぁ?

 それなら1体ずつしか出てこないってこと?

 だって複数体出てくるときもあったわよ?」


 そのメラクルの眉間に寄ったシワを指で伸ばしながら俺はさらに答える。


「それは違う属性というか、違う特性同士のものだ。

 水を得意とするなら武器を、武器が得意なら岩とか火とか、な。


 その似通った魔神をああしてぶつけてやると、勝手に自己の最強を証明するために争い合う。


 本来、最強なんて主張する奴らに仲間意識なんてねぇのよ」


「それはまた随分……。

 ですがぶつからないように割り振られて出現するのでは?

 それにどこにどの魔神がいるかなんてわかりようが……」


 聖女シーアが納得いかないのか、さらに疑問を投げかけるが、それにも答える。


「だからこそ、各地にうちのメンバーを派遣したんだよ。

 各自情報あげただろ?

 それを集めて整理して、そうこうしている間に各地で魔神に押され出すだろうから、それに乗じて撤退しつつ誘導させたんだよ」


 魔神やモンスターは数も人類の数倍で多く、力もずっと強い。

 そのため局地的な戦場では必ず人類側が押される。


 だが、魔神どもには世界全てを俯瞰ふかんして見る戦略眼には遥かにとぼしい。


 どこから出現するのか判定は難しいが、逆に出現した後ならば戦略的にめることは可能だ。


「あの〜閣下。

 我々を助けに来られたタイミングが良かったのはもしかして……」


 カリーとコウも部隊の準備を終え、休憩に入ったらしく途中から話を聞いていたようだ。

 ポンコツ生徒たちの横から申し訳なさそうに手を挙げて質問してきた。


 カリーとコウ含む部隊が魔神に追われているところを、横から不意を突いて崩して救出したのだ。


「タイミングを狙ったに決まってんだろ。

 いつ、どのように、どのタイミングで動くかを敵も味方も含め計算したからな。


 むしろ何度も言うが、簡単に命を散らそうとすんなよ。

 これからあそこの魔神共殲滅したら、悪魔神討伐だから、今度はお前たち1人1人の力がいる」


 悪魔神は集団の力よりも精鋭での1撃こそが有効だ。

 そのための道標もようやく掴んだところなのだ。


 ここでカリーやコウという戦力を失うのはキツいのだ。


「狙った……ってあんた。

 そんなサラッと言って出来ることなの?」


 ハバネロが周りをキョロキョロ見回し、意見を求める。

 ガイアがなぜか愕然がくぜんとした顔で呟く。


「どうやって狙うんだよ、そんなの。

 そんなこと出来るなら、あのときだって出来たんじゃ……」


 あのときっていうのはゲーム設定の記憶の中のガイアたちが全滅した戦いのことだろう。


「……私たちには思いつきもしませんでしたよ」


 聖女シーアも首を振る。

 俺は肩をすくめて見せる。


「さあな、できたかどうかは永遠にわからん。

 ゲーム設定の中ではハバネロ公爵はとっくにリタイヤしてたからな。

 リュークの方は戦略的な物の見方は欠けていたのもある。


 それに今回、公爵家に抱えたカロンたち三羽烏の王立学園出身の計算能力もフルに活用したし、戦略眼のあるシロネもルークの知恵もあるからな」


 カロンは休みをよこせーと嘆いていたが、無事に終わったら男を紹介するからと言ったら必死になっていた。


 出世し過ぎて出会いがないもんな。

 誰か紹介できるヤツいたかなぁ……。

 コウか誰かに紹介させよう、うん。

 もしくはルークでいいか、あいつ独身だったっけかなぁ。


「それに何度も使える手じゃねぇよ。

 蠱毒こどくと同じで規格外を生み出す可能性もあるしな。


 ま、今回は計算して、それは徹底的に防いでいるがな」


 結局のところ、俺がいまこうして魔神たちを罠にめられたのも、公爵としての立場とそれに協力してくれるたくさんの仲間、それに国を超えた協力があったからだ。


 半ば孤立していたゲーム設定の主人公チームでは、到底、不可能だったことだろうよ。


「……さて、そろそろ時間のようだ。

 さあ、お前ら!!

 キリキリ働け!」


 俺は話を聞いて呆然としていたポンコツどもを立たせる。

 魔神とモンスターどもは当初の3分の1にまで減り、まだ相争っている。


 そろそろいいだろう。

 これならばここに集まった戦力で十分に殲滅できる。


 そして、そのあとは悪魔神戦だ。

「覚悟しろよ」

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