第274話なんでコウたち投げてんの?
手をジタバタさせて暴れるメラクル。
ぎゅう〜と抱き締めてはいるが、抜けようと思えば抜けれなくもない力加減。
反応が面白かったので、なんとなくメラクルの耳を唇で触れてみた。
「ぎぃやぁぁああああああああ!?
耳ぃぃいい!
耳舐めたぁぁああああ!?」
耳を押さえて赤い顔をさらに赤くしながら、涙目で叫び出した。
どう見ても旦那にする対応ではない。
「せんぱーい!?
せんぱーい!」
「タタタ、タイチョー!!」
「大丈夫ですか隊長!?
ダメだ、致命傷です!
そのまま晒し者になってください!」
コーデリアとキャリア、それにソフィアが俺たちの周りをギャースギャースと叫びながら回転する。
騒がしい。
「結婚するということはこの恥辱に耐えることなんですね……」
「私でも人前で耳舐めはしたことないです……。
確かにこれならヒー君に近寄る虫を減らすことが……」
サリーは腕組みして唸り、クーデルは天啓を得たと手を叩く。
うん、久々のポンコツどもは五臓六腑に染み渡る。
「舐めてない。
キスしただけだ。
それ以上騒ぐなら口にキスするぞ」
人前?
関係あるか。
ギャアギャアと周りでメラクル含むポンコツ共が騒ぐ。
うるせえなぁ。
俺がメラクルのあごに手を触れると、首をキョロキョロさせながらその手から逃れようとする。
抱きしめているが、本気で逃げようと思えば逃げられる程度にしか力を込めていない。
だが、そのことには思い至らないらしい。
「姫様どこぉー!?
ハバネロの封印が解けてるじゃない!」
俺は悪魔神かナニカか?
本当にキスしてしまおう、うん。
俺が面倒臭くなって覚悟を決めると、それが伝わったのか、メラクルが嘆く。
「人前でやめてぇぇ〜、ただでさえ姫様からあんた寝取ったとか元大公国の人から影で噂されてんだからぁぁ〜」
「気にするな。
ユリーナは誰にも渡さんが、おまえも渡さん」
そこでふと俺とメラクルは同時に南門の向こう側。
街の中に気配を感じる。
人が並んで南門で手続きをする向こう側に黒い綺麗な髪の美しき女性がチラッチラッと。
「あー!!!!
姫様いたァァアアアアア!!」
「ヤバっ、見つかった!」
そう言ってユリーナは同行しているローラの影に隠れた。
「姫様ァァアアアアア!
カァァムバァァアアアック!!
ローラ、姫様連れて来て。
そして私を助けて!!」
「ウルセェなぁ」
面倒になって今度こそ口で口を塞いでやった。
「ムグゥウーー!?」
こうしている間にも帰還兵でざわついていた南門だが、それでも次第に一定の部隊ごとにまとまり南門の混雑は減ってくる。
俺たちの周囲は騒がしいが。
ポンコツどものせいだな、オレノセイジャナイ。
そこに。
「閣下ぁぁああああ!!」
「救援ありがとうございましたァァアアアアア!」
そう言ってコウとカリーが走って来た。
「コーデリア受け取れ!」
俺は抱えていたメラクルをコーデリアのいる方に向けてポイっと放る。
「へっ?
うわっ、センパイ重いです!!!」
「重いってなによぉぉおおお!!」
それから走ってくるコウとカリーを待ち受け……。
「そそぉおおい!!」
順番にぽぽーいと空中に放り投げた。
「うおぉぉお!?」
「わぁぁあああ!?」
2人は一緒に来ていた兵たちを巻き込み、ドシャッと倒れた。
「なんでカリーたちを手当たり次第に投げてんの!?」
「勝手に自己犠牲精神をかまして、犠牲になろうとしたからだ。
こいつらにはまだまだ役目がたくさんある。
この戦いが終わった後もな」
そう、コウとカリーの野郎どもは魔神とモンスターに避難民と共にあわやという状況まで追い詰められ、足止めのため犠牲になろうとしていた。
俺の救援が間に合わなければあっさりと死んでいただろう。
「それ、あんたが言う!?」
「そうですよ、レッド。
あなたが1番気をつけてくださいね?」
そう言いながらユリーナもそばに来た。
……なので、俺は迷わずユリーナを抱きしめて口付けをした。
人前?
いまさら誰が気にするか!!
「んんー!?」
もがくユリーナ。
でも離さない。
ユリーナから推定1時間も離れていたので、もう限界だったのだ!
「ちょ、姫様!?
ハバネロ、なにやってんのよ!?」
「よし、お前もこっち来い。
お前も道連れだ!」
「道連れの使い方、なんか違わない!?」
ひとまずユリーナ成分を補給した俺は、疲れた顔でぐったりするユリーナの背を優しく撫でる。
「レ、レッド……、少しは加減というものを……。
人前だけはやめてといつも……」
「やだ」
「ごめん、姫様。
私以上にハバネロに苦労してたんだね……」
メラクルがなぜかユリーナにそう言って謝る。
解せぬ。
疲れ切った顔をしていた兵たちもこのアホな騒ぎで、緊張が抜けたような感じだ。
退却というものは想像以上の疲労を兵に与える。
それでも、もう一踏ん張りだけしてもらわなければならない。
俺を追いかけてガイアと聖女シーアも南門に出て来た。
そのタイミングで腕にユリーナを抱えたままではあるが、俺は雰囲気を真面目なものに変える。
そしてポンコツ隊と一緒に戻った兵たちに真っ直ぐ向き直る。
その雰囲気に即座に対応したのは、他ならぬメラクルたちポンコツ隊。
ザッと一斉に整列し、一糸乱れぬ動きでビシッと真っ直ぐに俺に向き合う。
こうなんだよ、こういうところでこのポンコツチームは有能さを発揮する。
周りにいた兵たちもその動きを見て座っていた者も立ち上がり、遅れながらも真っ直ぐに俺の方に身体を向ける。
「よく無事に戻った!
おまえたちの奮戦のおかげでこの地での魔神討伐における絶好の機会を得た!」
ひと呼吸おいて兵たちを見回す。
魔神戦が始まり戦いに戦った。
ここまで厳しい戦いであり、共和国も潰された。
「各自、疲れているだろうが、もうひと踏ん張りを頼む。
部隊ごとに再集結を行いその指示に従え!
準備が整えろ!」
それでも絶望はしていない。
皆、歴戦の勇者の顔をしている。
そして俺はわかりやすくニヤリと笑う。
「これより復讐の始まりだ!」
うぉおおおおおおおおおと兵たちから歓声があがる。
当然、兵たちの中に歓声を最初にあげてくれるサクラも仕込み済みだ。
連戦にはなるが、それでも士気は上がっている。
ユリーナは腕の中で、その空気を邪魔しないようにジッとしながら俺を見上げるようにして睨む。
そんな可愛い顔されるとまたキスしたくなる……と考えたのが伝わり、赤い顔で俺を叩く。
ポンコツ隊もノリが良いので周りに合わせて歓声をあげるが、メラクルは申し訳程度に片手を挙げている。
「うおお?」
そして、こういう気が抜けたポンコツぶりもまた、メラクルらしくて俺は笑った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます