第273話勝手に不幸になるのは認めない

「なんでこうなってる!?」

 ガイアは街の城壁から見える光景を眺めて、唖然あぜんとしながらもそう声をあげる。


 ゲーム設定の記憶を知る彼女すら……いいや、ゲーム設定の記憶を知っているからこそ、この現状が信じられないのだ。


 それはガイアの隣で呆然とする聖女シーアも同様だった。


「えっ、え?

 なにがあったんです?

 いいえ、これは……公爵さん。

 


 俺は肩に人を抱えたままの格好でチラッと魔神とモンスターが暴れ回る戦場を見た。

「見ての通りだよ。

 あいつらが勝手に同士討ちしてんだよ」


「リューク、その説明じゃわかんないよ!?」

「公爵さん、どういうことです!?」

 俺の回答に姉妹2人で目を丸くする。

 2人して動揺するのも珍しいが、動揺の仕方がそっくりだ。


「おまえら、こうして2人並べるとやっぱり似てるなぁ。

 美人姉妹だな」


 俺は率直に見たままの感想を告げる。


「びびびび、美人って、リューク突然なんてこと言うんだ!?

 浮気だ浮気!!」

「誤魔化されませんよ!?」


 褒めたら浮気になるとか、なんという厳しい世界だ。


「それよりミレはどこ行ったか知ってるかぁ〜?」


 時間もないことなので、俺は用事を先に済まそうと尋ねる。

 ミレたち共和国残党は避難民も含め、すでにこの街で保護できている。


「ミレなら帰還した兵がいる南門の方に走って行ったけど……。

 それ、生きてる?」

 ガイアは俺が肩に担いだ荷物をチラッと見て申し訳程度にそう言った。


「おー、生きてる生きてる。

 死んでたら生き返らせて殺してやるよ」

 担いだ荷物は騒がずに俺に運ばれるままにされている。


 さっきほどお仕置きとして、兵がいる中でお尻ぺんぺんしておいたから、それが効いているらしい。


 俺は手をフリフリして南門の方に歩いて行く。

 その後を聖女シーアとガイアの2人ともがついて来る。


「公爵さん、あれはどういうことなんです?

 あと奥さんと離れて行動してるのって珍しいですね?」


 魔神たちの同士討ちがよっぽど気になるだろうが、ユリーナが一緒にいないことも気になったらしい。


「俺だって手離さずに済むならそうしたい……」

 涙をこらえ空を見る。

 遠くの方で虹出てんなぁ、雨が降ったあとだからだな。


「まあ、なんだ。

 残念ながら下で仕事してくれてるよ」

 あとでまた抱きしめないと俺がユリーナ欠乏症で禁断症状が出て来てしまう。


 俺たちとすれ違うように広い城壁の上で連絡員が走り回っている。

 それもそのはず、もうじき一斉攻撃を行うので俺もそれほど時間がない。


 俺のまわりも護衛はついているが、それはサビナでもメラクルでもない。


 メラクルは合流したのは確認したが、まだ帰還兵の群衆の中にいるだろうし、サビナはモドレッドと一緒に帝国との最終調整を行なっている。


 全員が全員、余裕はないので走り回っているのだ。

 そんな中で俺が自由に動き回るには、誰かが仕事を肩代わりしないといけない。


 それができるのがハバネロ公爵夫人であるユリーナだけってことだ。


 城壁を真っ直ぐ歩くだけで目的の南門に到着。

 幾人かが城壁の上から南門に集まる帰還兵の様子を見ている。

 その中に尻尾のように揺れるポニーテールを発見。


「ミレ!」

 俺に呼ばれたミレはキョロキョロと周囲を見回し、こちらを見ると驚きの表情。


 すぐさま俺の荷物に気づいて全力で走って来たので、荷物を投げておいた。


「そぉ〜い!」

「うわぁァァアアアアア!?」

「投げるなァァアアアアア!?」


 ドシャッと荷物とミレが重なる。

 投げておいてなんだが潰れてない?

 大丈夫?


 すぐに起き上がって、スパークとミレは抱き合って無事を確かめ合っているので、内心ホッとしたのは秘密だ。


 ユリーナかメラクルがそばに居れば、心を読んでツッコミして来たはずだ。

 危ない危ない。


 とにかく、この街に来るまでに拾ったスパークを無事、捨てることができたので満足する俺。


「あっ、もうじき総攻撃するからおまえも参加だ。

 すぐ準備しろよ?」

 そうスパークに言い捨てる。


「ちょっ!?

 俺、結構ボロボロなんだけど!?」

 元気そうに反応するスパークに俺は即座に言い返す。

「うっせぇ!

 自己犠牲で満足して女泣かせるヤツはもっとボロボロになって働け!」


 ミレはボロボロに泣きながらスパークにしがみ付いている。

 いい事してやったぜ、という気分。


「それ、公爵さんが言うことじゃないですよね?」


 ユリーナとメラクルがいないからツッコミは入らないと油断したが、きっちり聖女シーアにツッコミを入れられた。


 だがそれを俺は華麗に聞かないフリをした。


 誤魔化すように城壁の下を見ると、ちょうど疲れたように肩を落として、南門から街に入るための順番待ちをしている茜色の髪が見えた。


 なので、俺は城壁から飛び降りた。


「ちょっ、公爵さん!?」

「リューク!?」


 城壁から身投げしたというバカものがいるというので、騒然とする南門。


 俺は怪我人などの治療を優先するように指示を出してから、固まってこちらを見ているポンコツ集団に接近する。


「ハ、ハバネロ!?

 あんた、なんで城壁から落ちてんの!」


 ポンコツらしく元気そうだ。

 怪我も見る限りなさそうだし、そういう報告も聞いていないから多少疲れてはいても元気なんだろう。


 ぎゃいぎゃいとなにやら騒ぐポンコツリーダーとポンコツ部下を無視して、俺は迷わずポンコツリーダーことメラクルの手を掴み引き寄せ、抱き締めた。


「ギャァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!」


 なぜかメラクルは断末魔の叫びをあげた。

 なんでだよ!?

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