第261話決戦、新女神転生派

「姫様ぁぁ……、私邪魔?

 邪魔だよね?

 邪魔しないように部屋の隅にいるから、安心してチュッチュしててぇぇ……」


 チュッチュってなんだよ……。


 泣きそうな顔でメラクルはユリーナに縋り付く。

 ユリーナはそれをヨシヨシとネコを撫でるように撫でる。


「メラクルは良いのよ。

 私が勝手にちょっとレッドと2人だけの旅行に行くとか、気が狂いそうなほど嫉妬したけど大丈夫よ?」


 にっこりと満面の笑み。

 非常に怖い笑みである。


 体感2度は温度が下がった気がする。

 教祖グレゴリーまでもヒッと叫び声をあげたほどだ。


 いや、2人っきりじゃねぇから……、とか黒騎士がツッコミを入れているが、そういうことではない!

 そういうことではないのだ!!


 俺たちのヒエラルキーの頂点がユリーナなのだ!!


「私はいつ捨てられるか、不安になっているだけだから」


 なのにそのユリーナは少し寂しそうにそう言った。

 わかってはいても複雑に思うのは人である以上、仕方がないのかもしれない。

 そういうのは理屈ではないのだ。


 ……だが。


「よし!

 お前ら!!!

 今から30分、俺とユリーナに誰も近づくなよぉおおおお!!!」

「レッド、なに言って……むぐっ!?」


 全員に告げると同時にユリーナの口を奪う。

 存在を確認するように強く抱きしめながら、何度も。


 もきゅもきゅもきゅもきゅもきゅ


「ちょっ!?

 姫様ぁぁあああ!!!

 このバカ挑発したらそうなるに決まってんでしょ!?

 ……って、邪魔ぁぁあああああああ!!」


 ついに動きだし俺に近寄ろうとする邪教集団……新女神転生派のやつらをメラクルが素早く切り捨てる。


「そりゃまあ、大将だしなぁ〜よっと」

「この場合、ユリーナが迂闊だっただけよねぇ〜ほっと!」

 黒騎士とミヨちゃんが軽口を叩きながら、軽やかに俺たちに接近する者を潰していく。


 うむうむ、見事だおまえら。


 俺は安心してユリーナに口付けを続ける。

 ユリーナはもがくのを諦めて俺にしがみ付く。

 もがいても逃してやらないけどな。


 ユリーナは俺のものだ。

 ゲーム設定の記憶の中だろうと、世界が変わろうと、たとえどのようなことが起ころうとも。

 逃しはしない。


「えぇい!

 何をヤッておるかァァアアアアアアアアアアア!!!!!

 とにかく、貴様らをここでまとめて始末する、それだけよ!!!!!」


 教祖グレゴリーがこの状況に焦りが出たせいか、遅まきながら叫び出した。


 やはり邪魔だなぁ、さっさと始末しよう。


『ほんとなにやってんだか……』

 戦闘を続けながら、メラクルが呆れたようにそんなふうに通信で伝えてくる。

 それでもメラクルの顔には軽い笑みが浮かんでいた。


「メラクル……」

 同時に、ユリーナにもなにかを伝えたのだろう。

 そう呟いたユリーナの顔にも笑みがあった。


「俺はユリーナがどう言おうと必ず護る。

 だから……」


 その言葉をユリーナの唇がふさぐ。

 ちゅっと小さな音がもれて互いの唇が離れる。


「……なら、私はあなたが護りたいものを護るわ」


 そう言って影のない笑みを浮かべた。

 それは女神のようにとても美しく……なにより胸を温かなものが包み込むように心に溢れた。


 添えられたユリーナの手に祈りを込めるように触れる。

 その手はすべすべで俺の脳を溶かす。

 そして俺は誓う。


 必ず悪魔神を倒し、平和になって思う存分イチャイチャしようと。


 俺の心を読み取ってしまったようにユリーナがジト目を俺に向ける。

「レッドぉ〜?」


 心の声が伝わってしまった気がするが気のせいだ。


 そこでようやく追い付いてきたアレクたちの姿が見えたので、ユリーナを腕に抱えたまま断腸の想いで口を離す。


 ……時間稼ぎは済んだな。


 最後に軽いキスだけは唇に落としてからアルクたちに声をかける。


「遅いぞ」

「申し訳ございません。

 ですが、包囲は完了致しました。

 もはや蟻の子1匹逃しません」


 もはや慣れたもので俺がユリーナを抱きしめていることにはなに一つ触れない。


 そして山も含め周り一帯を魔導器持ちの兵が囲んでいる。

 その数、5000以上。


 新女神転生派のやつらも魔導力持ちと戦える戦力はせいぜい200。

 練度も数もこちらがずっと上。

 当然、指揮官も、な。


 アレクはすぐに謝るが、エルウィンがそこで食い下がる。


「いえいえ、閣下が早過ぎるんです!

 なんでメラクルさんが必殺技ぶっ放した瞬間に走り出せるんですか!?」


 メラクルがガンダーVから放つ必殺技の威力を知っているメンバーの行動は早かった。

 反対に見たことがない者は敵も味方も一瞬、唖然と立ち尽くしてしまっていた。

 その差だ。


 メラクルの必殺技の一撃。

 それは要塞型巨大モンスターが通ったかのように1部地面は半円状にへこみ、通り道となった中空にあった木々はそこだけをえぐりとられ、最後にはその先にあった山の一部を消し飛ばした。


 ワオ、エゲツナイ威力。


 別働隊として動いていたラビットの部下たちとは連携をとりそれに巻き込まれないように手配済み。


 もっと言えばまかり間違っても、ユリーナに当たることがないように細心の注意を払っている。

 当然それは最優先事項だ。


 いいや、世界の命運を賭けていると言っても良いほどの重要事項だ!!!

 ナニカあったら俺が世界を滅ぼすから。


 その開かれた道を辿るように公爵軍の兵がこちらに向かってくる。


 その数は新女神転生派の想像を遥かに超える多数だ。


 例のDr.クレメンスたち研究チームが作った魔導器の試作型を使い、魔導力持ちの兵が格段に増えたせいだ。


 魔導器のちょうど良い実地試験になりそうだ。


 ……しかしガンダーVの砲撃はゲーム設定の記憶の中では、あそこまで高威力じゃなかったがなぁ。


 しかも、メラクルはぶっ放した後で力尽きることなく、走り出した俺に追い付いてきた。

 並の魔導力ではない。


 アルクたちと一緒に俺たちに追いついたトーマスやコウたちも新女神転生派のやつらと切り結んでいる。


 その中を一際素早く閃光のように駆け抜ける茜色の髪。


 なんかテンションが上がりすぎたせいか、高笑いしながら駆け抜けてるけど。

 大丈夫か、あいつ?

 ポンコツ覚醒?

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