第265話細かいことは気にするな
「ば、ばかな……」
教祖グレゴリーが驚愕に目を見開き、大地に
「成敗」
俺は呆然とする教祖グレゴリーに歩み寄り……サクッと首を刎ねた。
「あっ、あれ!? あっさり殺すんだ?」
メラクルが目をパチパチとさせて意外そうにそう言った。
俺は教祖グレゴリーの死体を冷たい目で見下ろし、死体を片付けるように指示を出す。
丁重に葬ったりしない。
そんな価値は無い。
コイツは人を苦しめるだけ苦しめた。
正式な手続きに
そんな処刑をすれば権力者による横暴な結果であり、教祖グレゴリーを正しき殉教者であると勘違いする人も出てくる。
正当性も与えず、処刑される罪も公表したりしない。
公爵から何を発信しても、こういう輩に関わる者は好きなように真実を自らの好きに歪んで解釈する。
人は己が見たい真実のみを見るものである。
人を苦しめ、貶めたクズであると一言だけ。
その確かな実感を伴った強い言葉だけが人に真実を伝えることが出来るのだ。
そのために人々にこれ以上、コイツから放たれる雑音を聞く機会を与えるべきではないのだ。
「こういうヤツは生かしておくだけロクなことだけしかしない。
それに悪〜いヤツらがコイツをもう一度担ぎ上げたりするからな。
始末出来る時に始末した方がいいんだよ」
殉教者だとか祭り上げられる危険より、生きて再び、神の教えの使徒として担ぎ上げられた方が邪魔だ。
それを担ぎ上げようとする面倒なヤツは山ほど居るからな。
バカに権力を持たすと
俺は疲れて肩で息をしながら、再度座り込んでしまったユリーナに手を伸ばす。
「大丈夫か?
起き上がれないなら運ぶぞ?
お姫様抱っこというやつで。
その場合、運びながらユリーナの唇を奪うこと間違いなしだが俺は気にしない」
運ぶと言いながら一歩も動かずにキスしているかもしれないが、それもまた細かいことだ。
気にしない。
「……いや、気にしなさいよ」
俺は隣からツッコミを入れるメラクルに視線を向けることなく言い返す。
「考えを読むな、ポンコツ」
「いや、今、口から欲望が出てたわよ!?」
なんだと!?
俺は思わず目だけで驚きを表現する。
そして力強く反論する。
「細かいことは気にするな!
ポンコツだろ!」
俺が事実を伝えると、メラクルは地団駄を踏む。
興奮状態だな。
さっきまで邪教集団に果敢に飛び込んでいった、優秀な聖騎士メラクルはどこに行ったというのだ。
ああ、それともまだ戦闘の興奮が冷めないだけかな?
「ポンコツ、ポンコツ言うんじゃないわよ!
ポンコツじゃないし!!」
「いやいや、ポンコツはポンコツだろ?」
そんなやり取りをしつつ視線をユリーナに戻す。
ユリーナは困った顔で俺たちのやり取りを聞いて、少しだけ目を伏せる。
だがすぐに顔を上げて、作った微笑みで俺が差し出した手に手を伸ばす。
「いえ、大丈夫です。
手だけ貸して頂ければ……あっ!?」
そう言って俺の手を掴んだところで、グイッとユリーナを引き寄せ俺の腕の中にユリーナを収め……迷わず唇を奪っておいた。
「むぐっつ」
唇を離すと赤いユリーナの唇がなめらかな光沢を放ち美しい。
俺はユリーナの手を取ったままアレクに声を掛ける。
「アレク、後事は全部任せたぞ!
俺はこれからユリーナと3日ほど部屋に籠るから」
「ひょっ!?」
俺の当然の宣言にユリーナが素っ頓狂な声をあげる。
宣言した公爵の俺の背にメラクルキックが突き刺さる。
「やめんかぁぁああああ!!
そんなことしたら……。
あ、あんた、姫様に子供が出来るじゃないの!!」
「こ、子供!?」
腕の中のユリーナはこれ以上ないぐらいに赤い顔で俺にしがみ付いたまま、動揺した声をあげる。
「仕方ない、仕方ないのだよ、メラクル。
俺、よく我慢した。
愛する男女が部屋に
ユリーナも赤い顔をしているが、今も腕の中で大人しくしているからお怒りではないはずだ。
動揺して逃げるのを忘れているだけかもしれないが。
生き残った邪教集団を縛り上げたり、撤収作業をしている周りの公爵軍の兵たちは慣れたものなのか、騒ぎ立てる様子はない。
うむうむ、よく統制されている良き兵たちだ。
なので、このまま押し切る!
俺の目が妖しく光る……イメージ。
そこに。
「公爵様ぁあ〜!」
「ちっ、忘れてた」
Dr.クレメンスがヘッドホンとそれにコードで繋がれた装置、手にはアンテナのような何かを持って走って来る。
隣では人の1人分ありそうなバッグを背負い、目の前が見えないぐらい機材を抱えたトーマスが走ってくる。
そのさらに後ろからヒエルナと白衣の集団。
邪神もどきとその討伐時に使った必殺カラフルレインボーの効果を確認するために、Dr.クレメンスとヒエルナ、研究所メンバーを連れて来ていたのだ。
ここでのカラフルレインボーの効果について検証し、魔神……さらには悪魔神に通用するか確かめるのだ。
俺たちの周りと邪神もどきが居た場所を、アンテナを持ってDr.クレメンスとヒエルナ、研究所メンバーが走り回り、あっちへウロウロ、こっちへウロウロ。
「ああっ! もうコレ邪魔!」
余程邪魔だったらしい、ヘッドホンを乱暴に外しペイっと放る。
それっぽく付けてたのに、ヘッドホン要らんのかい。
それをトーマスが拾ってカバンに直す。
なんだかコイツらの普段の暮らしが目に浮かぶ。
Dr.クレメンスが好き勝手に散らかしている研究所をトーマスが片付けているのだろう。
……きっとプライベートの時間を使って。
そう思うと俺は思わずトーマスを応援したくなってしまう。
トーマス、頑張れ。
「どうだ?」
俺が尋ねると、Dr.クレメンスはその整った顔をしかめる。
俺に文句があるわけではなく、思わしくない結果が出たのだ。
「公爵様の想定した通りですね……」
俺はそれを聞いて深くため息を吐く。
「……そうか、やはりこれでは厳しいか」
完全に期待したわけではなかったが、邪神もどきといえど人智を越えようとする化け物だ。
今回の必殺技カラフルレインボーで魔神もそうだが、何より悪魔神を倒す手掛かりの1つでも見つかれば良いと思ったのだが。
「魔導学者としてハッキリと申し上げましょう。
これだけでは悪魔神討伐は不可能ですね。
魔神には効果はあるでしょうけれど、肝心の悪魔神にどれほど効果があるかどうか。
さらになにかを掛け合わせることが出来れば……。
ですが、やはり今のままではデータが足りません。
各国で持っているデータを共有させてもらってさらに研究してみないことには……」
「やはりそうか」
そもそもこれだけで悪魔神を倒すことなど出来ないとは分かってはいた。
かつての旧文明世界は天から地獄の業火を降らすことも出来たという。
人という存在の限界すら超えた破壊だけの力。
その力を持ってしても悪魔神に世界が滅ぼされたことを考えてみれば、単純な破壊力で悪魔神討伐が叶うとは思えない。
邪神もどきが今まで悪魔神を封印し続けたジャマー装置の力を利用しているのならば、手掛かりでも掴めるかと思った。
そう思ったが、やはり今回、邪教集団が使った邪神もどきの発生方法とジャマー装置を使った封印方法は、全く関連性がないということなのかもしれない。
ですが、とDr.クレメンスは言葉を続ける。
「これがモンスターの発生のメカニズムの1つであると仮定するなら、そもそもの悪魔神の管理したゲーム、なにより魔導力が如何なるものなのか。
その謎に繋がっている可能性はあります」
「そうか、全くの無意味でも無かったか」
俺の言葉にDr.クレメンスは強く頷く。
それでもまだあらゆる情報は不足している。
急がねばならない。
悪魔神が復活を遂げてしまう前に。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます