第259話遅いんだよ、ばかっ
どれほど戦い続けていたか。
何日経ったのかも、
24時間前も起きていたのは確かだ。
ガイアはともすれば閉じて2度と開かなくなりそうな目を、傷だらけの身体に意識を向けることで維持した。
「て、てこずらせやがって。
あ……あ、諦めたようだなァァ。
もう何処からも助けなんぞ、来んからなぁああああ!?
来ないからなぁあ!
来ないよなぁ!?」
大地に剣を突き立てようやく立っている状態のガイアたちを、教祖グレゴリーは動揺を露わにしつつも同時に
ユリーナなどは剣を支えにしても、すでに両膝をついている。
「悪趣味……」
なけなしのガイアの呟きは逆に教祖グレゴリーに下品な笑みを浮かべさせる。
諦めたのではない。
動ける力を振り絞ったので動けないだけだ。
体力さえ回復すれば貴様など……。
ガイアはそう思うが、身体は動いてくれない。
せめてユリーナだけは護りきらねば、あいつに顔向け出来なくなる。
同時にそんなふうにも思う。
「だが褒めてやろう!
貴様らは実に素敵な素体となってくれるだろう!
その若き肉体を我が信徒たちに捧げるのも一興だが……まあ、良い。
皆が我を
そうして新世界を迎え、皆が我が下に
それこそ我が世界の救済よ、貴様らはその生贄となるのだ。
光栄に思え!!」
ぺらぺらとまあ、どうでもいい雑音をさえずる。
実に耳障りだ。
悔しいなぁ……、その思いを押し殺す。
まだだ。
誰が諦めるものか。
あの記憶に苦しみ、もう何度も諦めた。
諦めるのはもう十分だ。
たとえ首だけになってもこのクソ野郎の好きにはさせない。
動けないだけだ。
ガイアは相手を睨みつけたまま、口の中の血をブッと吐き出す。
四方から串刺しにされようと喉元に噛みつけば、鍛えられていない教祖グレゴリーの柔肌など喰い破れるはずだ。
目線だけで周りを見ると、共に戦った仲間たちも同じようにどうにか立っているだけ。
共に戦いに挑んだ50名の仲間はどれだけ残っているだろうか。
見える限り仲間たちが生きているのは、宣言通り素体にするためだろう。
だけど化け物にされて言い様にされるなど冗談ではない。
死んでも認めない。
そう覚悟したその時だった。
巨大な爆発音と共に光の塊が、ガイアたちの上空を突き抜け、高原の先にある山を1つ粉砕した。
呆然と何が起きたのか、ガイアが把握する前に。
視界の中で、長い黒髪が乱れ荒い息を繰り返すユリーナの前に誰かの足。
「あっ……」
ユリーナはその人物を視界におさめ思わず吐息をもらすと同時に、その誰かは力強くユリーナを抱き寄せた。
「テメェら、覚悟は出来てんだろうなぁ?」
歪む視界の中、その人物を確かめるとガイアは自然と口の端が上がった。
のどから抑えきれない
「くくく……、遅いんだよ……ばかっ」
ヒーローの登場を待つなんて。
そう思うけれど。
来たら来たで。
ガイアでも胸は熱くなるのだ。
ユリーナがいましも倒れそうな顔をしている。
息も苦しそうに荒い。
それでも俺を見て、ユリーナは顔だけでも無理矢理、こちらに向けて笑みを見せる。
「大丈夫か?」
「……ええ」
ユリーナがこちらに心配かけないように目を細め微笑みを浮かべ……、一筋の涙を流した。
俺は怒り心頭。
口の端を大きく吊り上げて
「テメェら、死んだぞ?
……っていうか死ななくても絶対、殺す」
そこについ先程必殺技というか必殺砲をぶっ放したメラクルが追いついて来た。
「遅いぞ、駄メイド!
ユリーナの危機には
それでもユリーナ親衛隊か!」
なお隊員は俺たち2人だけだ。
加入にはまずファンクラブ会員から始める必要がある。
「ちょっとほんと待ちなさいよ!?
あんたホイホイ先に行き過ぎ!」
追いついたのはメラクルだけだが、この戦場に連れて来れるヤツは全員連れて来た。
全員といったら全員だ。
Dr.クレメンスたちが研究していた魔導器の試作機も持てるだけ持ってきた。
ついでに実践データを取ってやる。
どのみちここで邪教集団……新女神転生派のヤツらは退場してもらわないといけない。
これからは人類生存を賭けた悪魔神、つまり女神との戦い。
邪魔なヤツらに構っている暇はない。
ちょうど、というかユリーナたちを罠に掛けるために教祖グレゴリーをはじめ、新女神転生派も総力を結集している。
俺たちが来なかったら、ユリーナは本当に危なかった。
あ、考えたらムカムカしてきた。
ユリーナいじめた新女神転生派マジ潰す。
「ユリーナがピンチだったんだぞ!?
そんな悠長なこと言ってられるか!
皆殺しだ!!!!!」
メラクルが半目になって呆れた顔をしてくる。
「……ああ、そういやあんた姫様相手だとそんなだったわね。
忘れてたわ……」
忘れんな!
超重要事項だ。
正面には縛られて涙を流しているリリーと、いまだ俺たちを呆気に取られたように眺める教祖グレゴリーたち。
視線を教祖グレゴリーに向ける。
その教祖グレゴリーは俺を睨みつける。
俺はニヤリと笑い、視線を合わせたまま教祖グレゴリーの右側を指差す。
「あっ」
面白いように全員がそれに釣られ右側を向く。
ついでにメラクルも。
なんでお前が視線誘導されてんだよ。
その教祖たちの周辺に突如、煙が立ち込める。
「あがっ!?」
「ごっつ!?」
「ゲフッ!?」
同時にリリーが捕まっていた場所からそんな声があがる。
「まさか、リリーミサイル!?」
何故かその声にもメラクルが反応。
なんでだよ。
スタッと軽やかに、俺の隣にグルグル巻きのリリーを抱えた黒騎士とミヨちゃんがやって来る。
「上手くいったぞ、大将。
あとはやっちまうだけだぜ?」
「よくやった」
俺が黒騎士とミヨちゃんを褒めると、何故かメラクルが頬を膨らませる。
「私は?
私もさっき必殺技ぶっ放して、真っ先に駆けつけたんだけど?」
「うん?
ああ、よくやったよくやった」
俺が適当に褒めるとメラクルは地団駄を踏む。
「ムキー!
私の扱い雑過ぎでしょ!?」
そうか?
いつも通りじゃないか。
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