第253話自称魔神ユージー

 現場に到着したとき。

 そいつらは街道からややはずれ、森というほどうっそうと茂ってはいないが、人の背丈ほどの茂みもチラホラ見える林の手前。


 ごく普通の旅人にように岩を椅子にして休憩していた。


 ただし男の方はその金の目を爛々と輝かせているので少し異様ではある。

 その男の方が興奮した様子で立ち上がり顔に喜色を浮かべる。


「ヒャッハー!

 これはこれはお久しぶりでぇ、なんとも嬉しいお客さんじゃねぇかぁ!」


 ヒャッハーとか言うやついるんだな……?


 そこにいるのは1組の男女。

 男は褐色の肌に、なんというか少しギョロついた目をしつつも顔立ちは悪くない。


 女の方も美女といえるが、紫色の口紅を付けてどこかしらサドっぽい……キツめの雰囲気を漂わせている。


 以前にここのポンコツがそう言って叫んでいたような気もしなくもないが、あれはキシャシャシャシャだったけなぁ。


 俺は変なモノを見る目で隣に立っているメラクルに尋ねた。

「メラクル、知り合いか?」

「なんで私の知り合いにあんなのいるのよ、どう見てもあんたの知り合いでしょ?」


 あんな特徴的な知り合いいたら忘れねぇよ。

 あっ、俺記憶なくしてるんだった、はっはっは。


 ……とにかく俺は知らん!


「合コンで振った男の1人じゃないか?」

 失恋の痛手であんなになっちまったとか。

 メラクルは顔だけはとことん良いからな。


 それにはメラクルは盛大にため息を吐く。

「なんで今まで来たことのなかった共和国で合コン相手がいるのよ。

 それならシーアの方が可能性あるでしょ?」


 その言葉に反応したのはシーアではなく、自称魔神褐色肌の男。


「そこにいるのはシーアじゃねぇかぁぁあ!

 どうだ、いい男になっただろうぅ?

 今度こそ俺の女にしてやっても……イテテ、ベルロンドやめて、つねらないで、とっても痛いから」


 紫の口紅を付けたややキツめの顔をしたサドっぽい美女が、後ろから自称魔神を嫉妬するようにつねったらしい。


「ユージー様。

 浮気ですか?

 浮気ならちょっと縛って松明の火でお仕置きしないといけませんね」


 見た目通りサド……いじめるのが好きらしい。

 まあ、個人の性癖は人に迷惑をかけなければ自由だ。


「たたた、松明ってお仕置きの道具だっけ!?

 ももももっと優しくしてくれ!」

「優しく……イイですよ、私ほど優しくユージー様をイジメられる女はいませんからね」

「まずイジメないで!?」


 フフフとベルロンドと呼ばれた女が妖艶に笑う。


 どうにもイチャイチャ(?)するときは互いの主従が逆転しているようなやり取りだ。

 自称魔神ユージーとやらも口調が素になってしまっているようだし。


「ユージー?

 もしかして司祭ユージー……、いえ、まさか」

 見知った相手なのか、聖女シーアがその名に反応する。


 それを受けてメラクルは自称魔神を指差してシーアに言う。


「シーア、やっぱりあんたの合コン相手なんじゃない?」

「私、メラクルさんに連れられて行くまで合コンしたことありませんよ」


 しれっと答えるシーアの言葉に、今度はなぜかメラクルが俺を不安そうに上目遣いで見上げるようにしながら小さくささやく。


「私はあんただけだからね?」

 突然なんだと思うが、すぐに俺が寝てた間に行った合コンのことだとすぐにわかった。


 ぐっ、このポンコツ、無意識だろうにあざとい!


 聖女シーアと侯爵令嬢ヒエルナ共々、メラクルが完全に隔離されてたアレである。

 疑う必要すらない。


「わかってるよ」

 ぐしゃぐしゃと頭を撫でてやる。


 後ろでサリーが涙を流しながら、ハンカチを噛み締めているが気にしない。

 クーデルが満足げに頷いている理由はわからん。


 だがこれで確信した。

 やっぱりあいつは魔神ではない。


 魔神に痛覚や感情はない。

 元より人の感情を女神に捧げたモノが魔神なのだから、痛がったり人とまともに対話することはない。


 魔神とはすでに人ならざるモノ。

 それはヒトとして行動することはできない。


 だが……。


『やれ! レイア』

『はーい、ドッカァァアアン』


 ユージー、ベルロンドの2人から少し離れた草むらからレイアが顔を出し、赤い色をした金属片を投げつける。


 咄嗟のことだが、それでも2人はそれを避けるが……。

 爆発音と共にユージーが宙を舞う。


 隠れていたレイアが2人に投げたのは、大戦でも使用した爆発の金属片だ。


 特殊な加工をした金属片に魔導力を込めて、あとは発動時に魔導力を流して起動して相手に投げつける。


 すると投げつけた先で爆発するという贅沢な消耗品だ。


 ベルロンドは木の影に隠れたらしく、俺たちと同じように宙を舞うユージーを眺めている。

 レイアがユージーの方を狙ったから巻き込まれなかったようだ。


 ドシャッと地面に落ちたユージーだが、すぐに起き上がって。

「突然、なにすんじゃぁこらァァアアアアア!!!」


 想定通り、結構頑丈だな。

 俺は痒くなった耳の穴をほじりながら。


「バカか、お前は?

 魔神であろうとなかろうと、敵なら先手必勝だろう?」


 まあ、魔神じゃないなら敵とは限らないが。

 それでも先手を取るって大事だろ?


「そのやり口、ハ……リュークらしいよね……」


 メラクルが半目になってそう言って、聖女シーアが笑顔で首を傾げる。


「私の記憶のリュークさんはそういう卑怯な真似ってあまりしませんでしたけどね、ふふふ」


 ……どうやら俺はゲーム設定の記憶のリュークより卑怯らしい。


 勝てば良いのだ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る