第245話ヘレオンの宣告

 その日、長らく姿を見せなかった今代聖女シーアにより、教導国中心部大聖堂の大広間にて歴史に残るある宣告が行われた。


 これは神話の話。


 遠い遠い昔、伝承にも多くは残っていない崩壊前の世界のこと。


 全ての始まりの黙示録を。


 かつて世界は今では想像も付かないような発展を遂げていた。


 それは果てなる空の向こうにまで行ける技術や、その場に居ながら幻想を体験出来る世界。


 未知という言葉すらかげるほどの叡智がもたらされたとも。


 他にも様々な……それこそ不老不死と呼ばれる可能性すら追求していたという。


 同時に世界にはあらゆる滅びの危険が内包していた。


 全ての街を一瞬で破壊出来てしまう破壊兵器。

 一度外に出してしまえば、あらゆる生命を食い尽くす細菌兵器。

 突然、大地が裂け鳴動しその地上にいる全ての生命が生きられない世界に変わる可能性も。

 遥か空の果ての果てから世界よりも大きな石が降ってきて全てを押し潰すことも。


 ただ世界の滅びの原因はそれらのどれでも無かった。


 ゲームやアニメという言葉が黙示録を指す意味ではなかった頃。


 それが何故、黙示録と呼ばれるようになってしまったのか。

 詰んだ世界の……終わりの始まりを。旧世界を滅ぼした悪魔神のシモベ。

 その魔神がかつて人であった。


 黙示録は別名ゲーム、黙示録の補足をアニメと呼ぶが、それぞれは元々はただの娯楽だった。


 それが真実の意味でどういった娯楽だったのかは今では想像することしかできない。

 宮廷ロマンスのような物語小説だったり、見て楽しむ映像が中心だとも。


 ある時、ゲームは見るだけのものから体感するものへと変化したのだと。

 そしてそれらは実体を持った力が生まれるようになった。


 実際に力を持ち、擬似魔法という形を取ったり、狩りを楽しむように生み出されたモンスターを狩ったり……。


 だけどそれらも長らくは娯楽以上のものではなかった。

 例えそれが戦争に利用されようとも


 いずれにせよ、それらは黙示録という形でしか残らず、さらに言えば娯楽とはかけ離れたものへと変質した。。


 誰か明確な悪人がそれを始めたのではない。


 ゲームという存在そのものが始まりは戦争の兵器開発の中から生まれて、娯楽へと変化したものだ。


 それがそうであるように、娯楽もまた戦争の道具として研究され……。

 そうして超人化された人を生み出そうとした。


 その時点ではそれはただの人の強化でしかなく、同時にそれらは全ての始まりに過ぎなかった。


 やがて人の代わりとなる幻想の兵器の実用化に成功。

 それがモンスターだった。


 全てはスイッチ1つで世界が突然切り替わったわけではない。

 そんな摂理を無視した話ではない。


 少しずつ少しずつ、ある一定の技術革新から変化していったのだ。


 それらのモンスターを生み出し制御する装置。

 それをアークマシーンと呼ばれた。


 別の言葉で言い換えるなら始源の装置。

 それこそが悪魔神。

 悪魔神とは元々ただの高度な制御装置でしかなかった。


 崩壊はすぐ訪れたのではない。

 歴史はさらに進み、人はありとあらゆる物を求めることが出来るようになった。


 可能性が広がると逆に人は鬱屈うっくつとした感情を抱えるようになる。


 もっと欲しい、もっと豊かに、もっと楽に、もっともっともっと……もっと幸せになりたい。


 人の欲望は果てしない。


 欲望は得られれば、さらに次を求める。

 周りが豊かにさらに自分もと、そう思う。


 それは人が生まれた原初からの願い。

 過剰でなければ、むしろそれは当然の権利であると言えよう。


 生まれ変わって最強になろう!


 そんな言葉と共に抽選で選ばれた人がアークマシーンの洗礼を受けるようになった。


 その方法はとても簡単で魔導力の塊を飲み込み、ゲームを通してそのゲーム世界に入り込みアークマシーンと接続する、それだけ。


 そのとき人としての命を1度捨てる。


 すると人の限界を超えた魔導力の力が満ちて、やがてそれは人の限界を超えて最強となる。


 それを『転生』と呼び、アークマシンが『女神』と呼ばれた。


 その当時、アークマシーンが制御するモンスターを討伐するゲームが流行りに流行った。


 そのゲームで大活躍する人は世界中でヒーローのような扱いとなった。

 類似のゲームも多数出回り、世界はその娯楽に熱狂した。


 それらのヒーローを題材に広告媒体の一部として、また娯楽として沢山のアニメも作られた。


 日々の暮らしに鬱屈な思いを抱えていた人は安易に幸せになりたいと。

 その持て囃される欲望を得たいと。

 その最強になることを求めた。


 ……何を代償にするのか、考えることもなく。


 それこそが女神教の始まり。

 いつしかそれも忘れ去られ、口伝のみが残り今の女神教へと変わっていった。


 人の欲望は果てしない。

 そして容易く欲望に流される。


 そしてアークマシーンにその心を捧げ『転生』した人たちが最初の魔神となった。


 だけどそれは、最初から狂っていた訳ではなかった。


 アークマシーンの制御は正しく機能し、人の意思を持ったまま幾人もの、あらゆる種類の『最強』が生み出された。


 聖剣プライアは残されたそのゲームの起動キーであり、ゲームとセットにされて今に伝わるために黙示録と呼ばれている黙示録の1部。


 そのプライアを使って未来予知の力を得る。

 

 現存するその黙示録、それを人はかつて転生ゲーム『プライア』、そう呼んだ。


 自分だけが知る未来の記憶。

 自分だけが持つ最強の力。


 魔神とは最強の存在。

 それは転生者と呼ばれ、自らの人生を捧げて変異してしまったモノ。

 そして世界を滅ぼした人ならざるモノ。


 もっとも、それもアークマシーンが暴走しなければ問題はなかったのかもしれない。


 アークマシンが暴走に至る経緯はそれを巡って起きた戦争だった。

 その戦争で勝つために、当然のごとく力ある魔神化した人を兵器として利用した。


 その戦争の最中、アークマシーンへの対抗措置して生み出されたのがアークマシーンを阻害そがいするジャマー装置。

 今でいう邪神のことだ。


 歴史はいつも勝者が作る。


 その始まりの戦争ではアークマシーンを使った側が勝利し、勝利の原動力となったアークマシーンを『女神』、敗者のジャマー装置を皮肉を持って『邪神』と位置付けて神話に見立てた。


 そしてアークマシーンは魔神を制御、何より利用するために更なる改良が進められ……ある日、暴走した。


 それは当然だ。


 争いに勝つためだけに安全性を無視して、アークマシンに効率的に人を殺すシステムだけを次から次へと組み込んでいったのだ。


 いつかはそうなる。


 利用した者も、それに抗っていた者も等しくその制御を失った。


 魔神化した人はアークマシーンに完全に支配され、その理性を無くしただ力のみを行使する怪物と成り果てた。


 元より安易な最強を選び魔神となった者にアークマシーンの支配に抗う精神力など持ち得なかったのかもしれない。


 魔神はその最強の力を使い、あらゆる文明を破壊、ただ破壊に破壊した。


 最強になりたいという願いは力を奮いたいという意味と同義。

 ゆえに魔神はただただその衝動に従う。


 そして魔神は世界を滅ぼした。


 だが文化や国や、それこそ世界の形が滅びても人はしぶとく生き残った。

 幾つもあった国は消え去り、かつての国のと同じ形ではないが、それでも一定の集団がまとまり生きるために生き抗い続けた。


 人々そんな中、生き残っていくためにジャマー装置、今に伝わる邪神にすがった。


 始まりは祈りでしかなかった。


 やがて世界を救うため、女神と呼ばれた聖女と彼女を護ろうとした聖騎士の祈りが届き、彼女たちはアークマシーンを封印することに成功した。


 その命を捧げることで。


 そのための鍵もまたプライアの剣。

 あの剣に特定の血、ナノ遺伝子という血を持つ存在があの剣を使って装置に命の塊の血を捧げることで、一時的にアークマシンを止めることが出来る。


 要するに人の命を使ってアークマシーンにウィルスを打ち込んだのだ。


 ナノ遺伝子そのものは最初のアークマシンを巡る戦乱で、その製法全てが消されてしまった。


 だが皮肉にも生き残った人の中でナノ遺伝子を持った女性たちがいた。

 そのナノ遺伝子という血は何故か女性にしか引き継がれなかった。


 女神に捧げる因子、人を救う女神となる因子。

 ゆえに、それは女神の因子と呼ばれた。

 アークマシーンを止める唯一の可能性を持つ者として。


 つまり女神教の『女神』は元は2つの別々の女神が合わさったもの。


 一つは世界を滅ぼした悪魔神……アークマシーンのこと。


 もう一つは自らの命でアークマシーンを封印し続けた女神の因子を持つ乙女……邪神のことだ。


 そしてその封印がいま解かれようとしていること。


 それは女神教を根底から揺るがす真実。

 この今代聖女シーアによる真実の暴露とその滅びの未来。


 それに人々が立ち上がり抗うことを求めた。

 それがヘレオンの宣告の全てだ。


 これにより世界は加速する。

 終焉へと……。

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