第244話終焉への……。

「まだ報告は送らないで」

「だけどユリーナ……」


 愛剣グリアネスを手に取り立ち上がった私に、護衛をしてくれているミヨちゃんは困ったような声をあげる。


 各地で広がるモンスター被害だけではなく、旧大公国領を中心にして邪教集団の動きが活発化し街や村に被害が出たのだ。


 手が足りないので、私も現地で指揮を取ることにしたのだ。


 内政面の統括者として、まだカロン・セントルイスがいる。

 私がここで抜けたとしても公爵領全体は回っていける。


「わかってるでしょ?

 その報告だけで彼は帰って来てしまうわ」


 そうしたら何もかも終わり。

 各国との調整はレッドにしかできない。


 各国の要人と直接会って話をしなければ、世界が滅びるという荒唐無稽こうとうむけいな話を理解はしてもらえないだろう。


 たとえモンスターが急繁殖して被害が広がり、危機におちいろうとも末期感が人々の心に広がろうとも。

 最期の手遅れになる瞬間まで気付くまい。

 ここがターニングポイントなのだと。


 だからレッドはまだ帰れないのだ。

 それでもレッドは帰って来る。

 ……私ならそうするものね。


 私もレッドもお互いに溺れすぎていた。

 その安寧たる愛にひたるには、世界はあまりにも詰んでいた。


 メラクルがいいストッパーになってくれればいいけれど……ダメね。

 間違いなく一緒になって走って帰って来るわ。


「それにまだ王の影響力がある以上、彼が起きていることがはっきりとしてしまえばなにをしてくるかわからないのよ」


 内々にだが、王の交代が行われる。

 それまでは隙は見せられない。

 最後の妄執でなりふり構わずレッドを追い詰めようとするだろう。


 王がひた隠している邪教集団との繋がりすらも明るみにさせながら。


 邪教集団被害は王国と大公国に限定されている。


 教導国の内部にも手が回っていたかもしれないが、それも聖女として戻って来たシーアの『ヘレオンの宣告』と同時に排除された。


 王同様に邪教集団も追い詰められていた。

 それで今回各地で表立って火の手を挙げた。


「大丈夫、陣頭指揮を取るだけだから。

 今は人手が全く足りないわ」


 モンスター被害も深刻だ。

 大半は現在もそちらにかかりきりだ。


 大型モンスターのみならず要塞型巨大モンスターまで出てくると、並の兵では一切手が出ない。


 人海戦術を行おうにも、魔導力持ちの人手が圧倒的に足りない。


 だからこれはガイアとアルクたちがなんとかしてくれている。

 レッドとガイアが手合わせをしたことは聞いている。

 なにがあったのか、それ以来、ガイアの剣から迷いが消えたように思う。

 強くなった。


 出現した要塞型巨大モンスター討伐にもその力を遺憾なく発揮したという。


 Dr.クレメンスの魔導力を付与する魔道具もようやく試作品が完成した段階。


 これから早急に実用化に向けて全力を注ぐが、それも邪教集団に気づかれれば攻撃目標となる。

 ここだけは絶対に護らなければならない。


 護るべきものが多いと護れるものも護れなくなる。

 それは当然なことだ。


 だから、あのときレッドは私だけを護ろうと振り切った。

 自らの命を賭けながら。


 私は誓うように、祈るように小さく呟く。

「……それでも私はあなたの護りたいものを護るわ」


 それはまるで呪いのように……。

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