第246話要塞型巨大モンスターの専門家

 尺取り虫ポンコツ隊に止められ、数日間の休憩を余儀なくされてからようやく俺たちは出発した。


 そんでもって最強魔剣ガンダーVのある村までやって来た……のだが。

「これはどういう状況だ?」


 ざわざわと人が集まっている。

 冒険者だけに限らず、共和国の軍の人間もいるようだ。


 その数、2〜300人。

 偵察や移動中のものや村の中の建物内にいることを考えればもっといるだろう。

 それらが一様いちように固い顔をしていれば気にもなる。


「どうしたもこうしたも、あんたたち要塞型巨大モンスター討伐に来た冒険者だろ?」


 案内役に出て来たのはサンダーと名乗るツンツン髪の冒険者。

 ……なるほど、要塞型巨大モンスターへの対応にざわついている、と。

 少し探ってみるか。


「……ああ、おまえ知ってるぞ?

 武闘大会決勝でガイアに負けたやつだ。

 確か名前は……スパークの閃光サンダーって名乗ってたっけ?」

「閃光のスパークだよ!」


「冗談だ。

 少し気を緩めてやろうと思ってな?」

 俺の小粋なジョークを聞いてスパークは見るからに顔色を変えた。


「どう聞いても喧嘩売ってるだろ!?

 やるかぁ?

 あぁん、やってやろうか?」

 そう言いながら睨みつけてくる。


 ふむ?

 冒険者は舐められたら終わりそういう世界だということだ。

 しかし、友好的な物言いではなかったのは確かだが、いささか挑発に乗りやす過ぎないか?


 俺がそこに疑問を抱いていると横合いから黒騎士が割って入る。


「大将の冗談、マジでわかりにくいから……悪いな、スパーク」


 なんと!?

 悪いのは俺であった!


 冗談を冗談として捉えてもらえなければ、この言葉で怒っても仕方がない。

 ギャグを言っているのに、意味が相手に伝わらなければそれはただのブリザードだ。


 寒くて仕方がない。

 それと同じか!?

 違う?

 今のはブリザードと寒いを掛けて……。


 とにかく、先ほどのが冗談と捉えてもらえなければ喧嘩を売っているようにしか思えないだろう。

 言い方としては少し挑発的ではあったのだから。


 しかし……。


 わかりにくい……わかりにくいかぁ……そうかぁ……。

 俺は自然と肩を落とす。


 極悪非道の俺には愛されキャラは遥か彼方の高みにあるようだ。


「大将、没落貴族の出なんで冗談もわかりにくいが、あんな感じで悪いやつじゃないんだ。

 許してやってくれや」


 黒騎士が苦笑混じりに俺のフォローすると、スパークもそれなら仕方がないかと肩をすくめてみせた。


 おおよそ人のの貴族の印象はそんなものかもしれない。

 貴族には貴族の、庶民には庶民の感覚の違いというものがある。


 それはもう生きてきた場所の違いだから仕方がないわけだが……。

 冗談とか笑いのツボは万国共通だと思ったのに……、違うのか……。


 なんだかへこんできた俺の肩を珍しく気にかけるようにメラクルが肩をポンポンと叩く。


 顔を上げると、メラクルがこれ以上ないぐらいにイイ笑顔で……親指を立てた。


「ざまぁ!」


 そのメラクルの態度にムカついたので、白昼堂々抱き締めて唇を奪ってやった。

「むぐっっつ!?」

 もきゅもきゅ。


「ちょっ!? 

 先輩!?

 センパーイ!」

「メディック! めでぃーっく!!」

「何やってんだよ、大将……」

「あはははははは」


 俺たちの周りでポンコツどもがぴょんぴょん無意味に飛び回り、それを見て黒騎士は手で額を押さえて聖女シーアは馬鹿笑い。


「むきゅー」

 ぐったりしたメラクルを倒れないように支える。

 こいつを黙らせるには、これが1番効果的だから、つい……やってしまった犯人は俺です。


「なんなんだよ、あんたたち……」

 スパークは肩を落とし呆れ顔を見せる。


 俺は今度こそ友好的に接するべく軽く謝罪する。

「ああ、悪かった。

 ……だが状況はだいたいわかった」


 わけ知り顔で唐突にそんなことを言う俺に、スパークは当然怪訝けげんな顔。

「はぁ?」


「要塞型巨大モンスターの専門家がいないんだな?

 王国ではだいぶ対策を練られてき始めたのだが……共和国ではまだ広まっていないということか」

「なんでそんなことがわかるんだよ?」


 驚きの表情を隠さないスパーク。

 その反応に彼がは裏表のない素直なやつだとわかる。


 俺はそんなスパークにさらに言葉を続ける。

「狩りの専門家で実力者のはずのあんたがそんなに緊張しているということは……そういうことだろ?」

 表向きは世界第2位の剣士のはずだ。

 余裕を持っていておかしくない。


 もっとも大型を超える巨大モンスターが相手だ。

 まったく緊張しないのもそれはそれでおかしいわけだが。


「……それを探るために挑発したっていうのか。

 あんたが今言った通りだ。

 共和国では要塞型巨大モンスターの対応に現場は混乱しているよ」


 スパークが苦々しい表情で俺の予想を肯定し、それに対して俺は言葉では返事をせずにニヤリとだけ笑っておいた。


 スパーク、おまえはもう少し人を疑うことを覚えた方がいいな。

 その感想は俺の心の中に留めておく。


 しかし、そこに心を読んだのかメラクルが小さく呟く。

「ハ……リューク、いま絶対本気で冗談を言ったつもりだったでしょ?」


 俺は言葉には出さず通信で反論。

『黙れ、メラクル。

 もう一度口を塞ぐぞ!』

 さっきお仕置きしたというのに懲りないやつだ!


『ちょっ!?

 人前とか気にしなさいよ!』

『ははは、俺がユリーナとキスをするときにそんな配慮しているのを見たことあるか?

 今度からおまえもユリーナと同じ立場だ』


 俺の開き直りにメラクルは頭を抱えた。

「そうだったぁぁ!!

 あんた、そういうやつだった!!!」


 ようやく気づいたか!


 そこに黒騎士から俺たちに呆れを含んだツッコミ。

「大将……、なに夫婦漫才してんだよ……」


 あ、うん、ごめん。

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