第247話モンスター退治と戦隊必殺技

 高台から右手に共和国メリアタウンの街。

 左手の米粒のように見えている岩のような四足歩行のモンスター。

 ゆっくりと緩慢な動きだが、次第に街へと近づいている。


 当初はこの高台の下で魔導力を扱える者を集め、軍と有志による混合討伐隊で一斉に襲いかかる。


 そんな方法で要塞型巨大モンスターを討伐する予定だったらしいが俺がそれを止めさせた。


 魔導力を使える者はそれだけで人よりも大きな力を使い、それこそ大型モンスターであっても単独で制する者もいる。


 そうかと言って大型のさらに大型の要塞型巨大モンスターに、真っ向勝負なんてかましていればどれほどの被害になったかわかりはしない。


 身体の大きさが人間とは比べ物にならないのだ。

 そんなの相手に全員で突っ込んでどうする?

 被害が増すだけだ。


 やるなら罠を仕掛けて狩れ。

 脳筋かよ。


「それでアレがそうだ。

 あいつのせいで近隣の村と町がやられてる。

 もうじきここらで1番の都市メリアタウンに到達する。

 それまでになんとか……せめて足止めをしたい」


 スパークの説明を聞いて、俺は左手に羞恥で顔を真っ赤にしたメラクルを抱えたまま神妙な顔で頷く。


 そんな俺を見て合流したスパークの冒険者仲間、小柄な印象の緑髪ポニーテールのミレがスパークに尋ねる。


「ねえ、スパーク。

 この人たちほんとうに大丈夫なの?」

 スパークはその問いに目を逸らす。

 俺は真剣な顔で真っ直ぐに要塞型モンスターを眺め頷く。


「心配ない、これでも専門家だからな」

「いえ、公爵様。

 そういうことじゃなくて、ですねぇ……」


 サリーは俺が抱えるメラクルに視線を向ける。


 恥ずかしさが頂点に達したらしく、耳まで赤くして両手で顔を覆ってぷるぷると震え出している。


 ちっ、仕方ねぇ、そろそろ解放するか。


「おお、すまんすまん」

 抱えていたメラクルをコーデリアの方にペイっと。


 これがユリーナなら解放はせずに逆に唇の一つでも奪うことだが、メラクルはまだ俺の嫁になったばかり。

 ここらで許してやろう。


 そんな仏のような広い心を俺は持っている。


「確保ぉぉお!!

 先輩確保ぉぉお!!

 救護班急いで!!」


 コーデリアがへにゃへにゃと崩れ落ちるメラクルを抱えポンコツ隊に救援を要請する。


「タイチョー、タイチョー!!」

「いやぁ〜、メラクルさん愛されてますねぇ〜。

 はい、水どうぞ」

 聖女シーアがニコニコしながら水を差し出すがメラクルの手が伸びて……力尽きる。


「隊長ーーー!!

 はい、水! 水!」

 それを代わりにサリーが受け取りメラクルの口元に持っていく。


 ソフィアが苦笑いで見守りつつ呟く。

「愛されてますねぇ……、私は公衆の面前でイチャイチャされるの嫌だけど」


「わ、私だって嫌よ……」

 なんとかヨレヨレとメラクルが手を伸ばしサリーから水を受け取り、それを飲み干しなんとかそう呟いた。


「そうですか?

 これ以上ないぐらい羨ましいですけど?

 余計な有象無象うぞうむぞうも寄ってこなくなりますし。

 私もヒー君とずっとずーーーっとイチャイチャしていたい……」


 唯一、クーデルだけが頬を紅潮させて自身とヒカゲとの蜜月を想像しているようだ。


 クーデルはわかってくれるか。

 そうかそうか。

 しかしクーデルは少しヤンデレの気があるからなぁ〜、俺とは少し違うよなぁ?


「イチャイチャ?

 これってイチャイチャって言うの!?

 滅茶苦茶公衆の面前で辱められてセクハラって言わない!?

 もうお嫁に行けない……」


 ヨヨヨとわざとらしくメラクルは顔を手で覆って泣き真似をする。


「隊長! ご安心下さい!

 隊長はもうお嫁に行ってます!」


 そこにワッと群がるポンコツ隊の面々。


 なぜだろう。

 学生レベルの中でも質の悪い、ノリと勢いだけの演劇を見せられている気分になるのは。


「しかもアレ、旦那様ですよ!!」

「はっ!? そうだった!

 旦那はアレだけど!」


 アレってなんだよ、アレって。


「ぐぎぎぎ……、憎い、この世の全てのカップルが憎い……」


 ポンコツの輪から数歩離れサリーだけはハンカチを噛み締めている。

 劇団ポンコツの中でサリーのこの憎しみを込めた演技だけは死ぬほどうめぇ。

 ……演技か?


 その輪の中に聖女シーアがトコトコと歩み寄り、メラクルの肩をポンっと叩く。


「そう言いながらメラクルさんもどこか嬉しそうじゃなかったですかぁ〜?」


「なっ!?

 そんなわけ……ないと思う……」

「なんでそこで自信なさげなんですか、先輩……」


 それを見てスパークの冒険者仲間ミレがスパークに再度尋ねる。


「……ね、ねえ?

 この人たちほんとうにほんとうに大丈夫なの!?」


 ミレはスパークの服の襟を掴み涙目混じりにガクガクと彼を揺らすが、スパークはそれでもミレと目を合わさない!


 俺はそのポンコツぶりをよそに視線をしっかりと要塞型巨大モンスターの方に向けたまま。


 俺たちがいる高台から下。


 要塞型巨大モンスターの進行方向の岩陰に潜む黒騎士が軽く手をあげ、通信を送ってきた。


『来たぜ、あと3分ってところか』


 その通信を受け、俺もメラクルたちに手で合図を送りながら。


「……そろそろだ。

 急ぎ準備に入れ」


 すると先程までわちゃわちゃと楽しそうにやっていたポンコツどもの雰囲気が一転、歴戦の兵のそれに変わる。


 その唐突な流れるような統制された動きにスパークとミレは目を丸くする。


 メラクルが剣の中央部が丸い筒となっている特殊な剣を取り出す。

 過去の文明では銃砲と呼ばれたものだ。

 先端のみが銃であり、全体としては剣になっているので切ることも可能だ。


 魔剣の多くは魔導力を通さなくとも剣としての機能を有するが、アレについては魔導力ありきで作られている一品。


 そう、アレこそ最強魔剣ガンダーV!


 今回、要塞型巨大モンスターを討伐をするために借り受けたのだ。

 この討伐が上手くいけば、そのまま報酬としてもらうことになる。


 ロマンたっぷりのその変な形の剣の剣先を真っ直ぐ、見下ろすような形で要塞型巨大モンスターに向ける。


 その両サイドと背後にポンコツ隊がメラクルを囲むように配置して、それぞれがメラクルの身体に手で触れる。


 最後に聖女シーアもメラクルの右肩に手を置く。


 メラクルの魔導力を周りから借りて、自らの力に変える必殺技を利用して高出力の必殺技を放つためだ。


 全員が構えてその時を待つ。


「メラクル、補充だ」

 そう言うとメラクルもわかって顔をこちらに向けたので、俺は膝をつき中座で構えるメラクルの口に口を重ねた。


 口から魔導力を流し込むイメージを強く持つ。

 これはどちらかといえば、これは人工呼吸や言葉通り補充の意味合いの方が強い行為だ。


 口を離すと、メラクルはぺろっと自らの口の端をなめて。

「……充電完了〜」

 そう言って妖艶に笑う。


 そうして俺から補充できる魔導力をメラクルに渡したのだ。


 それを見て、いつも通りに目を丸くしながらポンコツどもが騒ぐ。


「みみみみ、見ました? 奥様!?

 いえ、キャリアさん」

「みみみみ、見ましたよソフィアさん!」

「おおおおのれぇー、このやり場のない怒りを力に変えてぇぇエエエ……」

「うぉのれぇえええ、私の先輩をぉぉお……」

「あははは、リュークさんやりますねぇ〜」


 うるさい、ポンコツども。


 だが1人、クーデルだけはいっそ神聖な気配を醸し出して静かに告げる。

「愛する者からのキスはなによりの力になるのです」


 さすがは愛の戦士クーデルさん、と全員が納得したところで黒騎士から通信が入る。


『目標ポイント到着』

 直後、離れたこの場所まで何かが崩れるような音が響く。


『はまった!』


 土煙の中で要塞型巨大モンスターがハマった穴から抜け出そうともがいている姿。


 長くは足止めはできない。

 だがそのわずかな時間が大事だ。

 俺はメラクルに合図を送る。


「やれ」

「あいよ〜。

 ひっさぁああつ、陽炎残光ようえんざんこう!」


 構えた剣先から溢れんばかりの光が放たれる。


 極太の赤い光がエネルギーの奔流となってモンスターに向けて放たれ……炸裂音と共に真っ直ぐに岩のような要塞型巨大モンスターを貫く。


 響き渡る炸裂音とその土煙が鎮まったあと……辺りはしばしの静寂に包まれた。


 そこに黒騎士からの通信。

『作戦成功だ、大将』


 黒騎士たちのいる辺りから歓声が届いてくる。

 要塞型巨大モンスターをはめるための大穴を掘った共和国の人たちだ。


 作戦は簡単だ。


 事前に共和国の人たちにより、要塞型巨大モンスターがハマるほどの落とし穴を作りそこに誘導する。


 ポンコツレンジャーの力を合わせてメラクルがガンダーVで必殺技を放ち、要塞型巨大モンスターを貫く。


「これが要塞型巨大モンスターの討伐方法だ。

簡単だろ?」

 俺はボケっと口を開けて、呆けているスパークとミレに呼びかける。


 スパークとミレは2人仲良くにっこり笑って同時に答えた。

「「できるかぁぁあああああ!!!!」」


 あっれぇ〜?

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