第248話世界の1つや2つ

 初回の俺の要塞型巨大モンスター討伐講座はお気に召さなかったようだ。

 なので、俺は引き続き共和国にて大型モンスター討伐を指南することになった。


 聖女シーアは共和国の上層部への指導というか、今後の話し合い。

 黒騎士はその護衛で残りは俺と一緒にモンスター討伐実行部隊の指導を行う。


 俺の護衛である黒騎士を回してまで別行動をするのは、表向き俺たちの中で政治的な立場を持っているのは聖女シーアだけだからだ。

 その間、俺の護衛は公爵家の密偵部隊の人員を回している。


 いずれにせよ、ここで共和国の底上げをしておくことはとても大切なことだ。


「はい、そこで追い込んで〜。

 はい、いまいまいまいま……おせぇよ!

 全滅してぇのか!」


 俺の指示で討伐隊が走ってモンスターを追い詰めて狩っていく。

 最初はバラバラだった動きも繰り返すうちに慣れて統制が取れていく。


 そう、人は慣れる生き物なのだ。


「そんなに次から次へと言われても追いつけねぇよ!!」


 目標の大型モンスターを討伐しひと段落ついたところで、討伐隊を率いるスパークがそう言って俺に詰め寄ってくるが、それを鼻で笑う。


 討伐隊は共和国の軍人も含む有志で選出された有志の部隊で、冒険者であるはずのスパークがそれを率いるのは他の国では違和感がある。


 さりとて共和国だけはそれが成り立つ。

 共和国は冒険者になる者も多く、制度もしっかりしている。


 同時に軍と冒険者が連携を取れている国なのだ。

 反対に個の立場が強いせいで、戦争など集団でことを為すには向かない。


 同じようにこういった集団戦が必要となる大型以上のモンスター討伐は不得意ということでもある。


 帝国と王国の大戦時でも共和国は介入していなかったが、そもそも介入できる軍ではないのだ。


 専守防衛ならばともかく自分から戦争に介入するとなったら、暴動でも起きて国が内部から崩壊する。


 他国を守ろうとして戦争に介入して自国が自滅しては世話がないというやつだ。


「モンスターのかりは詰め将棋。

 間違わなければ、おまえらでも完勝できるが一手間違えれば全滅だ!

 それを心得ろよ!」


 討伐隊に一時待機を言い渡し、俺は地図を手に次のポイントを確認する。


「わかってるよ!

 わかってるけど少し休ませろ!

 緊張状態ぶっ続けでミスするわ!」

「スパルタ過ぎる〜」

 ミレもスパークにもたれかかって、ぐったりとしている。


 討伐隊の面々も座り込んで疲労の色が見える。

 移動しては討伐、移動しては討伐。

 大型モンスターをこうして連続して討伐していくが、一向に被害は減らない。


 それもそのはずで今まで共和国は増えてきたモンスター被害に有効な手段を取れていなかったのだ。


 そもそも、その状況を打開するため教導国の紹介という形で、モンスター討伐の専門家として俺が共和国にやって来たのだ。


「その極限状態でも完璧にしろって言ってんだよ!

 モンスターどころか魔神はこっちの都合なんて考慮してくれねぇぞ!」


 その言葉にスパークはグッと息をつめる。

 魔神戦となれば、悠長なことはできない。

 滅びるか、生き延びるか、人に残るのはそれだけだ。


 この短い間だけでも、同じ釜の飯を食った仲だ。

 死んで欲しいなどとは思わない。


 これは実践でもあり、来るべき日の訓練でもある。

 しかしながら、共和国においてはモンスター相手はともかく魔神相手となるとこのままでは厳しい。


 魔神に効くのは必殺技のみ。

 足止めや陽動は必殺技なしでもいけるが討伐にはそれが必要だ。


 今のところ、打開策はない。


 徹底した訓練の上で部隊が足止めをして、罠にかけ、動きを封じ、数少ない必殺技を使えるものでトドメを刺す、これしかないのだ。


 トドメの必殺技の威力は別にして、前回の要塞型巨大モンスターの討伐と手順はなにも変わらないのだ。


 だから最初の足止めを完璧に出来なければどうにもならないのだ。


 スパークと俺を交互に何度も見てミレが食い下がる。

「でも、でも、もう倒れる人も出かけていて……」


 それは流石に不味いな。


「……わかった。

 ベースキャンプ地に戻り、数日間の休憩を取ろう。

 部隊主要メンバーはこれまでの戦闘実績の分析と各モンスター対応のマニュアルの素案、各方面への連絡と調整、それに今後の行動予定の策定と……」


「誰よりもあんたが疲れているでしょ!」

 そこに現れたポンコツさん……ならぬメラクルさん。


 メラクルは仁王立ちで俺の前に立ち塞がり、カスカスと数回指を鳴らした後。

 ぱちんと今度こそ音が鳴ったところで俺を指差し言った。


「あんたたち!

 やっておしまい!」


 するとどこに紛れていたのやら、ポンコツ隊がわらわらとロープ片手に俺に襲いかかる。

「なんだとぉおぉお!?」


 不意のことで反応が遅れた俺はあっさりとお縄となってしまった。


 しまった!

 スパークに話があるからと誘導されたことから罠だったのだ!


「ふふふ、策士、柵に溺れたわね」


 柵じゃねぇよ、策だ。

 わかりにくいな、おい。


「卑怯だぞ!」


 別にそんなことは思っていないがノリで言ってみた。

 するとメラクルは地団駄踏んで俺に詰め寄る。


「いいから大人しく休みなさい!

 あんた丸2日寝てないでしょ。

 知ってんだから!!」


 うん、まあ、さすがに2日寝てないのは限界かなぁ〜っと思ってたところ。

 指揮官が倒れたら部隊は終わりだから、それは気をつけないといけない。


 でもほら、俺は口出しているだけだから、まだイケル?


「……時間がない」

「わかってるわよ。

 それでもあんたが倒れたら全部終わりなんだから、いい加減それを自覚しなさいよ」


 言外に俺が居なくなるなら、メラクルは全部放り出すと言っているのだ。

 俺は苦し紛れに言い返す。


「……世界を人質にとるなんて、なんて恐ろしいことを!」

「あんたが生きてくれるなら、世界の1つや2つ犠牲にするわよ」


 真顔で言われた。


「せせせ、先輩!?」

 コーデリアがそんなメラクルを見てギョッとした顔をしてソフィアも驚きを見せる。

「うわぁー、隊長は愛に生きる人だったんだぁ!」


「愛、それは全てを超越するんです」

 そういいながらクーデルはメラクルを見て深く頷き、キャリアはほへーと感心しサリーはハンカチを噛み締める。


 そこまで真顔で言われると、俺も世界は2つもないから、というツッコミを飲み込むしかなかった。


 言動といい行動といい、激重なんだがそれが嬉しくてたまらない。


 俺の状態が現在進行形で簀巻きにされていなければ、抱きしめていたことだろう。


 こんなやり取りを数日間で慣れた様子で眺めていたスパークとミレ。

 そしてミレは改めて俺たちを促す。

「とにかく早く休みませんか?」


 ポンコツ隊も疲れ切っているらしく、ソフィアなどはハンカチ噛み締めるサリーにもたれかかっている。


 それに寄りかかると危ないぞ?


 それもそうだね、とポンコツ隊は俺を担いでえっほえっほとベースキャンプにまで移動を開始した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る