第249話レイア舞う
簀巻きにされたままだが俺は限界だったらしく、ベースキャンプにたどり着くやすぐに眠りに落ちてしまった。
どれほど時間が過ぎたか、爆睡していた俺に通信が入る。
『もしもし! 公爵様!?』
『はい、こちら子供相談室』
『ちょっ!?
公爵様、冗談かましている場合じゃないんですって!
大型モンスターの大群が、ぐぎゃやぁあー!』
『むっ!?
死んだか?』
そうは言いつつも通信が切れていないので生きてはいそうだ。
『生きてます!
勝手に殺さないで下さいー!
生きてますから早くー!
街に接近してます!』
死んでなさそうなのは、なんとなくわかっていたよ?
通信なんだが、この通信員は雰囲気を伝えるのが上手い……気がする。
それにどうにも余裕そうに聞こえるのは気のせいか?
『余裕だよな?』
『そんなわけないじゃないですか!
今、モンスターの上で華麗なジャンプをぉぉお、おおぉっとぉおおお!』
俺は簀巻き状態のまま、むくりと半身を起こし辺りを見回す。
夜明け前直前なのか、辺りはまだ薄暗い。
「なにぃ〜、どしたの?」
俺が起きたのを見てメラクルが目をこすりながら目を覚ました。
隣に居たんかい。
さすがに簀巻きで護衛もなしに放置はしないだろうが、そもそも縄外せよ?
縄を外せば、また俺が無理をするとでも思っているのだろう。
……正解だ。
ずっと残る罪悪感とユリーナに早く逢いたい想いが交錯し俺を駆り立てる。
少しでも早く、少しでも多く。
アアアアア、ユリーナに逢いたい!!
イチャイチャしたい!
抱きしめたい、というか離したくない!
想いが通じ合ったというのに離れねばならんとはぁぁああああああああああ!!!!!
1度考え出すと止まらなくなるから大変だ。
想いが通じ合ったあとは、今まで我慢できたはずの離れている時間が我慢できなくなっている。
もちろん、こうして動かなければ世界の滅びはすぐ目の前にある。
だからか……、焦ってしまっているなぁ……。
俺は深く息を吐く。
ほとんどの人にはわからないかもしれないが、俺や聖女シーア、それにガイアの3人には見えてしまう滅びの未来。
焦りが良くないこともわかっている。
だからメラクルに休めと縛られても抵抗しなかった。
……簀巻きはやり過ぎだと思うが。
「モンスターが街に近づいているらしい。
縄を解け」
メラクルは簀巻きにされた俺の言葉に疑うこともなく、俺にしがみ付くようにしながら後ろの結び目を解く。
「ほっと、よっと、固いわね……」
俺の後ろに回って解けば良いのに、そこまで気が回っていないらしい。
俺の顔のそばにメラクルの口元が来たので、そのまま唇にキスすると真っ赤な顔で俺を睨む。
……悪くないな。
ユリーナは死ぬほど愛しているが、メラクルもまた俺の心の中にいる。
我がことながらそれが不思議でもある。
それでもそのままの格好でメラクルは縄を外す。
「……外れたわよ」
「ん、行くぞ」
まだ赤い顔をしたメラクルの頭をポンと撫でながら立ち上がる。
『急いでぇ〜くださ〜い!』
通信で届く知らせは余裕があるようにしか聞こえないが、モンスターが街に接近していており、その足止めを通信員がしなければならない状況なら一大事だ。
すぐにスパークを呼びつけ、討伐隊のメンバーに動くように指示する。
「悪い、街方向への警戒が薄くなっていた」
全ての方向を警戒するのは難しい。
まず第一はベースキャンプに接近するものを警戒するのが先で、どうしても別方向への警戒は甘くなる。
限界があるのだ。
こちらの通信員が気付いたことの方が驚きだ。
後で褒めてやらねば。
今回はベースキャンプの近く、偶然に警戒網を避けて横切るように街の方へ大型モンスターが接近していたのだ。
これは来るべき魔神戦のときにも同様に懸念されることだ。
魔神はどこかわかりやすい敵拠点から真っ直ぐ攻めてくるとは限らず、降って湧いてくるように襲ってくることも想定して準備を進めておく必要がある。
「状況は?」
討伐隊の調査班から先行連絡がスパークに入ったようなので尋ねる。
「大型モンスターの群れが街の方向に進んでいるらしいが、スピードは早くない。
モンスターの頭の上の方でなにかが飛んでいて、それに気を取られて遅れているらしい」
頭の上で?
そのような生物や現象は聞いたことがない。
ゲーム設定の記憶でもなかった。
大型のモンスターなので、鳥やましてや虫など小さな生き物が影響するとは思えない。
至急さらに現状を把握するように指示を出す。
そこにまた通信が入る。
『早く来てくださいよー!』
『来るってどこへだ?』
『ボケですか!?
それともポンコツですか!?
モンスター足止めしてるって言ってるじゃないですか!
あっ、踏み外したぁぁあああああ!?
ウキャァァアアアアアアアア!!!』
ウキャって、この通信員はサルか?
俺はメラクルに手でモンスターのいる方へ行くぞと合図。
タイミングよくわらわらとポンコツ隊が姿を見せる。
スパークにも討伐隊を動かすようにも再度指示して、俺はメラクルとポンコツ隊を率いて現場に走った。
そこで見たものは……。
大型モンスターの上をぴょんぴょんと飛び跳ねる人の姿。
そう! 人は空を飛ぶのだ!
……って、飛ばねえよ!!!!
『来たー!
早く〜!!!』
認めたくない。
認めたくないが、あの空を舞っているのが我が公爵家お抱えの通信員のようだ。
「ハバネロどうしたの?
行くよ」
「ああ、頼む。
こちらに引きつけるだけでいい。
準備を整えたら、スパークたち討伐隊が横から突撃してくれる手筈になっている」
ポンコツ隊が一斉にモンスターに向けて駆け出す。
……時間稼ぎが功を
もう少し手間取るかと思われたが、スパーク率いる討伐隊の練度は満足いくものになっていた。
嬉しい誤算だ。
今も討伐隊は動き回っているが、とりあえずここでの俺の役目は終わりだ。
俺はひっひふーと座り込み荒い深呼吸(?)をする通信員の元に顔を向けた。
「よく大型モンスターに気付いて足止めしたな。
よくやった。
……おまえ、リーアだよな?」
先程まで空を舞っていた通信員は俺に気付くと立ち上がり、直立不動で敬礼する。
「あ、直接会うのはお久しぶりです!
今はレイアと本名で名乗ってます!!」
「おまえ……生きてたの?」
「ひどい!!!」
だって、なぁ?
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