第256話ユージーとベルロンド
魔神の件も解決(?)したので、俺たちは今後のことはスパークたちに託し共和国を後にした。
できる限りの対策は伝えたが、それでも魔神が1匹でも出ればかなりの苦戦を強いられるだろう。
共和国は冒険者になる者も多く、魔導力を扱える者もそれなりにいるが、必殺技を扱えるほどの者は少ない。
そんなときに役立つのは、連携して可能な限り足止めを行うこと。
1日でも、少しでも長く生き残ることで明日への可能性に繋がる。
誰かが悪魔神を倒すまで。
彼らが1人でも長く多く生き残ることで、その誰かの力になるのだ。
共和国から譲ってもらった馬車で移動をしながら、メラクルはビスケットをむぐむぐと口に運びながら尋ねた。
「じゃあさ、ハバネロはもう必殺技を使えるようになったの?」
「……ま、そういうことだ。
あんな感じに制御できていないから、少し鍛え直さないといけないがな」
錆びついているというか、高出力になり過ぎて振り回されているという感じだ。
魔神になりかけていたことが理由で、皮肉にも魔導力が増大し、その出力が上がっているからだろう。
全力でやれば、メラクルがガンダーVで放つ必殺技と同等クラスの力は出せるかもしれない。
さすがにそこまでの力を出し尽くせば動けなくなるので、そんな真似はできないが。
「じゃあさ、罪悪感とかはもう大丈夫ってこと?」
「必殺技が使えるからって俺の罪が無くなるわけじゃねぇよ」
俺たちの話を聞いていた聖女シーアが静かな声で言う。
「ガイアも公爵さんも、そしておそらく私もゲーム設定の記憶に引きづられ過ぎたのでしょうね」
メラクルはむーんと眉間にシワを寄せ尋ねる。
「それはどういう……」
「さあ?
なんとなくです」
メラクルの問いかけに煙に巻くように、そう言って聖女シーアはクスクスと笑う。
記憶というのは実に厄介だ。
辛い記憶ならそれがフィードバックされて、何気ないところで苦しむことになる。
引きづられてはいないつもりだったが、こうして長い間、悪逆非道のハバネロ公爵の記憶に囚われていた。
そこに自身が犯した罪がたしかに存在するから余計に。
考えを読んだのか、そんな俺の手を取りメラクルは真っ直ぐに俺を見る。
「それでも私たちはあんたに生きて欲しいわけよ」
メラクルはそう言う。
「わかってるよ」
自己犠牲ではなにも護れない。
護りたいものがあるとき、身体を張って護るというが、護ろうとする者自身が死んでしまったら、そのあとは誰が護るというのか。
護りたいなら。
どんなに惨めであろうとも、どんなに辛くとも、己の罪と愚かさを背負っても生きねばならないのだ。
「公爵様も難儀な性格ですねぇ〜」
隣で通信員のレイアがメラクルからビスケットをもらってバリバリ食べている。
自称魔神ユージーもベルロンドも一緒になってバリバリ。
「うめぇな、これ。
こんなうめぇの久しぶりだ」
ユージーがメラクル印のビスケットに舌づつみを打つと、ベルロンドがそれに同意する。
「教導国を出てから、食べ物の調達も苦労したからね。
警戒して誰も物を売ってくれないし、金は無くなるし。
雑草は不味いしキノコはあたるし」
なかなか過酷な食生活を送っていたようだ。
ベルロンドの方は見た目にサドっぽさがあるが、普通に美人なのでユージーが光る目を閉じてベルロンドが交渉していれば買い物とか問題なかっただろうに。
気が回っていなかったようだ。
「キノコ食ったの俺だけだよな?
ベルロンドは食わずに毒の痛みで涙目になった俺見て、腹抱えて笑ってただろうが!」
「ユージー様の泣き顔がゾクゾクしてたまらなくてねぇ……」
ベルロンドがうっとりした顔を見せる。
「サドだ!
サドの世界よ!」
「じゃあ、ユージーさんはエムなんだね!」
「羨ま……しくはないなぁ〜」
「愛は全てを超越するのよ」
「先輩はどっちだと思います〜?」
「私は〜……リュークどっちだと思う〜?」
「知るか!」
そんな新しい世界に触れてポンコツ5人……6人が口々に感嘆の声をあげながら、ビスケットをバリバリ。
……ポンコツが増えた。
結局、あの後なんでこうなったのかを、なに一つ
俺が必殺技を放ち、腹を押さえて痛がっていたユージー。
そのユージーが突然、
そこに慌ててベルロンドが駆け寄りユージーにキスをした。
……ナニが起きているのか、俺たちはしばしわからなかった。
ナニ、ヤッテンノ?
メラクルがそうツッコミを入れたと同じタイミングで、ユージーの
そしてユージーは憎々しげに俺を睨み言う。
「おのれぇえ……俺のハーレム計画が……って、痛い痛い、ベルロンド殴るな!」
「ユージー様が悪いのですよ、殴られるようなことをおっしゃるから、ハァハァ……」
ベルロンドはユージーを殴るたびに
うん、良いんだけどね、君たち自身が良ければ。
それを見せられている俺たちはなんて言っていいかわかんないけど。
もしや!?
俺とユリーナがイチャイチャしているときも周りはこんな気分なのか?
……それはまあ、いいや!
聖女シーアはそんな2人におずおずと尋ねる。
「ベルロンド、さん?
ユージーってもしかして、やっぱりあのユージーです、か?」
ハッとした顔をするメラクル。
「やっぱり合コン相手!?」
なんでやねん。
「昔の男……?」
「まさかの三角関係!」
「聖女様の恋愛事情!?」
「それとも複雑な幼馴染!」
「おのれ〜、人の恋愛事情が憎い……」
黙れ、ポンコツども。
しかし、騒がしいポンコツどもの反応に聖女シーアは冷静な対応。
「違いますよ、勇者計画をご存知ですか?
教導国で勇者、聖騎士、賢者、聖女を育成して救世主を作ろうとする計画です。
その計画の中心人物が司祭ユージーなのですが……、容姿が全く違います」
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