第251話罪の在処
「……嫌われ者の悪逆非道のハバネロ公爵だからな。
保証を渡したは良いが、逆に恨みを持つ者に襲われる可能性も高い」
俺が寂しそうに笑う。
いつでも俺の過去のやらかしが俺を追い込む。
自己評価が低いというが、犯した罪を見ればむしろ平気な顔でのうのうと生きていること自体が
それにはメラクルやポンコツ隊の面々は複雑そうな顔をする。
そうだよな。
いまここで一緒に飯食ってるけど、おまえらの祖国は過去、俺に散々苦しめられたんだから。
「それはレイア。
おまえにもわかるだろ?
おまえの故郷、ウバールの街を焼いたのは俺なんだ」
ウバールの街の生き残りを公爵家に雇い入れて情報の心臓部を任せているから、その繋がりでレイアがこうして働いているのは不思議ではない。
だがその言葉にレイアは……眉間にシワを寄せて首を傾げる。
理解できないとでも言うように。
「燃やしたは燃やしたかもしれませんが、あれって結果的にですよね?
公爵様、焼かれた建物に巻かれた人を必死に助けて回ってたじゃないですか」
そしてレイアが口にした言葉は俺を根底から揺るがすものだった。
「……なん、だと?」
戸惑う俺の様子に気づかずレイアはさらに畳みかける。
「それに……あれです、
あれって公爵様の必殺技ですよね?
それ使って私が建物の下敷きになってたところを、建物を吹き飛ばして助けてくれたじゃないですか」
レイアが知るはずのない俺の必殺技。
俺の頭に唐突にゲーム設定の記憶だと思っていたものがまた浮かび上がる。
建物に挟まれ逃げ場を失う黒髪の少女。
やがて炎は彼女の居るその建物を燃やし。
『リュークは生きて……』
その名を最期に呼んで、彼女は崩れゆく建物の中に消えた。
アレは現実にあったということなのか?
それを紐解くための記憶は俺の中に存在しないのだ。
「それに鉄山公様に聞きましたよ?
助け出された何人かは王国の何者かの仲介で帝国に来たって。
なんなんだ、それは。
自分で燃やした街の住人を助け出すのに、遠回しで帝国に仲介したってか?
そんな
「あんたならやりそうよね……。
間違いなくレイア助けたのあんたね」
メラクルがため息を吐きながら、俺の思考を言葉にする。
ぐっと俺は息を呑む。
認めたくねぇ……けど、たしかに俺ならやりそうだ。
今もレイアやあのウバールの街の住人に同じようなことをしている。
なんというか、それで勝手に罪悪感感じて
記憶をなくした今も昔も……バカだろ俺。
俺はいますぐ身悶えして、床を転げ回りたい気分になる。
か、過去をやり直してェェエエエエ!!
「それで良いのよ。
あんたはそれで良い。
変に格好つけようとするんだから」
だからといって、これはあまりに格好悪すぎないか?
見るからに俺が
それが悔しいやら情けないやら。
そもそもマッチポンプのように街の何人かを救ったところで、やらかした罪が消えたわけではないのだ。
いまもそうだが、焼き払い罪を犯した後でそんなふうに
それなのに、当時の俺には余裕がなかった。
信用できる人も頼れる人も周りにはいなかった。
いや、居てもその人たちを頼ることができないほど……心が弱かった。
その心が弱い者が上に立つと、そこに暮らす人たちは壮絶な不幸に見舞われる。
これはそういう話だ。
「……正直、私はあんたが何にそんなに苦しんでいるのかはわからないわ。
ただあんたが良いやつで、公爵領の人たちのために一生懸命なんだってことしか知らない」
非難するでもなく、ただ優しくメラクルは自身の想いを告げる。
どこまでわかり合っていると思う相手でも、相手が本気で苦しむそれを共有することはできない。
だがそれでいいのだ。
誰もが苦しみを分かち合ってしまえば、手を差し伸べる人はいなくなるから。
俺の罪は俺が抱えるべきものだ。
それを見てレイアは
自分が言ったことのなにが俺を落ち込ませたのかがわからないのだろう。
うん、俺の心の中の問題だからわからなくて当然だ。
このレイアも俺に助けられてはいても、故郷を失い、両親を失い、兄とも離れ離れになった。
その諸悪の根源は俺だ。
俺はそんな俺を許してはいけない。
そしてそんな俺を見ながら、ついにレイアは助けを呼ぶことにした。
「セレーヌさーん、セレーヌさーん!」
レイアが呼びかけると、すぐに……。
「閣下、失礼します。
レイア、聞こえてますから大声を出さない」
待っていたかのようにスッとテントの中にベテラン侍女風の女性が入ってくる。
いや、間違いなく外で聞いていたのだろう。
「セレーヌ」
「はい、ご無礼ながらウバールの街のことで、閣下がお悩みだということで馳せ参じさせて頂きました。
メラクル様もお久しぶりです」
「あっ、はい」
セレーヌはウバールの街の生き残りで、いまは公爵家の諜報部隊を担っている。
王都でメラクルアイドル化計画で着飾ってたときに、メラクルの侍女としてついていたのも彼女だ。
そのセレーヌも元より情けない俺の自己満足な罪滅ぼしの感情に気付いているだろう。
「私からその罪を抱えなくて良いということはできません」
そうだな。
俺も言われたからと言って罪の意識をなくしたりはしない。
やってしまった過去はどれほど悶えようとも消えない。
「……あの街で私は家族を、当時愛した恋人を失いました。
幼馴染で将来を誓った仲でした。
あの日、燃え盛る赤い炎が想い出の場所も建物も大切な人も、なにもかも飲み込む情景は今も私の中から消えることはありません」
「セレーヌさん!?
いつも言ってることと違うっ……」
なにかを言おうとするレイアの口をセレーヌの手が塞ぐ。
「……ですが、それを抱えながらでも真っ直ぐに生きてくださいと願います。
閣下はウバールの街のことを忘れずに、できるだけのことをしてくれていると思います。
それに当時、閣下は15歳かそこら。
そんな子供が公爵家を……領地を護ろうと必死になった結果。
その全てをどうして押し付けられましょう?
あれから随分、経ちました。
私も今度、結婚することになりました。
相手はあの街のことを知らない人です。
……閣下にならって大切な人と。
それを薄情だと笑いますか?」
俺は静かに首を振る。
恨みを抱えている者はいるだろう。
今も俺を憎み排除したい、復讐を遂げたい、そう思う者は確実に存在する。
それでも……。
それを抱えても俺が不幸にしてしまった人たちが時間が経ち、こうして幸せを掴んでくれるなら。
俺が
「そうか。
そう、か……」
……良かった。
幸せになってくれて。
心からそう思い不覚にも胸に熱いものが込み上げてくるのを、眉間にシワを寄せグッと堪える。
「閣下に従う人たちや閣下の周りにいるメラクル様たちのように、私もまた……閣下の幸せを願っています」
隣ではメラクルが複雑そうな顔。
「どうした?」
「その……メラクル様ってなんで?」
「メラクル様は閣下の第2夫人になられたので、我らが仕えるお方の1人です」
「むず
おまえが気になるのそこなんだなぁ。
込み上げてくるもの引っ込んだわ。
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