最終章 いまを生きる

第242話終演に向けてのプロローグ前

「……ということで最強魔剣ガンダーVを取りに行こう」

「なにが、ということでなのよ……」

 俺の言葉にヘロヘロになってへたり込んだメラクルがツッコミを入れる。


 今は教導国の大聖堂の一室を借りて休憩中。


 部屋の中では他にポンコツ隊、それに黒騎士と聖女シーアが転がるように休んでいる。


 ここまで強行軍だった。

 早く帰ってユリーナに逢いたい俺は次から次へと用事を済ませていった。


 公爵府に入りカロンに会わないようにそろりそろりと公爵家に潜入。

 セバスチャンとアルクに事後のことを託し、次にハーグナー侯爵のところへ。


 メラクルが第2夫人となるということはハーグナー侯爵家はハバネロ公爵家と身内になるということだ。

 貴族はこうやって同盟を結び味方を増やす。


 そんな貴族の社交界というもののイメージをどう思うか。


 あれは情報交換、仲間同士の絆の確かめ合いの場であり、誰々の友人の誰々だから、色々とよろしくと挨拶することで、味方の味方は味方と仲間を増やすのだ。


 反対にそこでつまずけば、敵の敵は敵と逆に敵が増えていく。

 ハバネロ公爵家は両親を失ったことでその繋がりが一気に消失した。


 だから俺は貴族間ではどんどん孤立した。


 貴族派の長とかどうとかは、公爵という立場のものを神輿みこしにしておくと他の貴族が動きやすいからという理由だけで、味方だったわけではない。


 実際に悪逆非道の一部は、ハバネロ公爵をの名を使って好き勝手した別の貴族だったりもした。


 メラクルは嫁になるまでまったく理解していなかったが、俺の側に控えていたメラクルがハーグナー侯爵の養子になるということ。

 それはハーグナー侯爵家と縁続きになる意思があることの証明である。


 あの時点でメラクルの俺への嫁入りは決まっていた。


 そんな事情を知ってか知らずか……いいや、絶対分かっていないがハーグナー侯爵家訪問のとき。


 メラクルはハーグナー侯爵を堂々とハーグナーパパと呼び、ハーグナー侯爵も見たことがないぐらいの好々爺の顔をしていた。


 ハーグナー侯爵の孫であるヒエルナに聞いてはいたが、実際に目の当たりにすると……。


 俺はそのポンコツさで誰の警戒心も解いてしまうメラクルの凄さを……理解せざるを得なかった。


 ……凄ぇぜ、メラクルさん。


 その後、王都にも立ち入った。

 木を隠すなら森に中、人を隠すなら街の中ってね。


 ここでも聖女シーアと俺のゲーム設定の記憶が役に立った。

 入り込むには工夫がいるが、入り込んでしまえばどうとでもなる。

 隠し通路や裏ルートはいくらでもある。


 それらを駆使し王太子と関連した人物と接触しさらに人を仲介して、そこでどうにか王太子と会うことができた。


「よく無事だったな」


 そう言われ、肩に手を置かれたときは迂闊にも泣きそうになった。

 正直、ユリーナを奪おうとしていると疑って悪かった、と内心で強く思った。


 この本音は俺だけの秘密……と思ったら、その思考を読み取ったメラクルが複雑そうな顔をしていた。


 なので俺たちだけの秘密だと告げると、もっと複雑そうな顔をして。


「憧れの言葉だったけど、こんなふうに聞くなんて……。

 現実ってからいわよね……」


 そうなんだ、現実って結構辛いんだよと答えると、あんたのせいでしょ、ムキーと怒られた。


 いつも思うがムキーってなんだ、ムキーって。


 あと内々にだが、王太子の王への即位が近いうちに行われることも聞いた。

 大半の貴族の支持も受けているようだ。


 大戦により軍閥派は事実上、解散。

 貴族派の実質トップのハーグナー侯爵は王太子の支援に回った。


 これは貴族連中に少なくない衝撃を与えた。


 ハーグナー侯爵がその気ならば、王太子に並び立つ権力も手に入る位置に来ていたことと、ハーグナー侯爵なら更なる野心を見せると思われていたからだ。


 その裏でハバネロ公爵家と縁続きになった事実は少なくない影響があった。

 そのことを知る者は、まだ少ない。


 味方の味方は味方。


 メラクルの嫁入りは俺にとって死活問題であったわけだが……。

 ビスケットをバリバリと食べるメラクルに目線をやる。


「ふぁによ(なによ)」

「いいや、なんでもねぇよメラクル夫人?」


 そういうと真っ赤な顔でペシペシと俺の手を叩く。

 なのでその手を握ってやると、さらに真っ赤になって、持ってたビスケットを意味なくフリフリした。


 このポンコツがその辺りを自覚しているのかどうかは不明だ。


 王への即位のための根回しとして、大公国と公爵領の土地が『振る舞われた』のが大きかった。


 もしくは協力費として、俺も眠りにつく前から裏で王太子へ大戦で稼いだ資金を回していた。


 ここが使いどころ……正念場だと感じていたから。

 結果は大正解であった。


 大戦では攻められた側なので現王は勝利したとしても報酬は出せなかったのだが、反対に今度は王太子を支持するだけで領土や場合により報酬も与えられるのだ。


 報酬の出せない現王よりも金のある次期王。

 貴族相手でなくともわかりやすい話だ。


「今後は王もお前に手出しする影響力はあるまい」


 直接、姿を見ていないので伝聞によるものだが、現王の姿はすっかりと枯れ果てた老人のようだと。

 ここわずかで一気に老け込んだようだ。


 ようやく年相応の姿になったというべきか。


 なんとも逆恨みされて、あわや破滅というところまで追い込まれたが、最後は拍子抜けするほどあっさりとしたものではあった。


 だが古今東西、権力の凋落ちょうらくとはそのようなものであり、勝つか負けるか静かな抗争の天秤が傾いたあとは、すべては大河の一滴のようになにものをも流し去る。


 これも所詮、歴史の一文に記されるのみだろう。

 ……あくまでも悪魔神に滅ぼされなければ、だが。


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