第235話かくして最強は再び立ち上がる
決着がついて、しばしガイアは無言で項垂れていた。
やがて、ガイアは小さく呟く。
「……どうせ。
どうせ皆死ぬんだ」
「あん?」
キッと俺の顔を睨んでくる。
だが、そのエメラルドの瞳は弱々しく。
「いくら強くたってどうしようもない!
勝てないんだよ!
僕も手も足も出ずに殺された。
今更、君1人が知識を得たところで絶望の未来は変わらない。
ましてや……ましてや、必殺技も使えなくなったくせに」
それは嘆きで
未来を知る者の、あの絶望を知る者の慟哭。
必殺技も使えなくなった、か。
魔神との戦いには必殺技が必須だ。
どうしても強さは必要となる。
ゲーム設定の記憶ではその強さが足りなかったとも言える。
だからそれは、これから訪れる未来への警告。
……だが。
「
「なん、だと……?」
エメラルドの瞳が揺れる。
帰ってこいよ、最強。
おまえの力が必要だ。
俺はそんなガイアを見下ろしながら高圧に言い放つ。
「たった1度の負けでもう心が折れたのか?」
「おまえになにが……!」
「世界最強ごときが世界を救えるとでも思ったか?
たかが世界最強ごときに」
「……えっ?」
確かに世界最強は偉大なことだ。
だがそれゆえにどいつもこいつも勘違いしやがる。
だから俺は言い放ってやる。
当たり前の事実を。
「世界最強ってのは所詮一個人でしかない。
そんなもんだけで世界が救えるほど、この世界は安くないんだよ」
どいつもこいつも、ただの一個人ができることなんて限られている。
それは人が人であるゆえに、だ。
だというのに、人は心に英雄を求める。
救ってくれる誰かを求める。
ゲーム設定の記憶の中でも世界最強だったガイアにそれを求めた。
英雄や
それと同じことをメラクルにしようとしているわけだが、大きく違うのはそこに全てを押し付けたりはしない。
当然、ガイアにもだ。
ガイアはうなだれ呟く。
「……勝てないよ。
君も僕が抱いた絶望を感じることになる」
「ならねぇよ。
俺たちは負けねぇしな」
負けた、負けてないを俺たちは言い合う。
周りもそんな俺たちをただ見守る。
そしてついにガイアが
それでもエメラルドの瞳に強さは戻ってこない。
「じゃあ、この記憶はなんなんだよ!
僕の!
僕の、このたった1人の最期はなんだったって言うんだよ!」
俺はガイアのその衝動を真っ直ぐに受けながら、なおも
そして目を細めガイアに言い放つ。
「あのなぁ、ガイア・セレブレイト。
お前にゃあ悪いかもしれないが……。
転生だとかやり直しだとか、そんな都合がいいもんがあると思ってんのか?」
物語として夢見ることは良い。
けどな、それが今生きている俺たちがそれに囚われたらどうしようもねぇ。
何度も何度も人生繰り返して、それでたまたま一回うまくいったとして……それがなんなんだ?
負けて散って行ったその人生はそれでなかったことでフィナーレってか?
人生そんな甘いもんじゃねぇよな。
だから皆が皆、助け合って必死に生きているんだ。
俺はそれをとんでもなく尊いことだと思ってる。
それにな……。
「俺たちは今、生きてんだよ。
悪魔神にだって、ただの一度も……。
いいか?
ただの一度も負けてねぇんだよ。
それを忘れんな」
ガイアに手を差し伸べる。
ガイアはその
俺は思わずギョッとする。
「……助けて、助けてよ。
誰も居なくなったんだ。
わかって残ったはずなのに、仲間たちが皆倒れて……ずっと一緒に戦ってきたリュークも居なくて、1人で怖くて……。
でも、それよりも自分がただ殺された後、世界は滅びるしかないんだって。
僕の死が無駄にしかならないのが寂しくて……辛かった」
「もう一度言うぞ。
お前は……俺たちは負けてねぇ。
だから、立てよ最強。
おまえの力が必要だ。
差し出した手をガイアが掴む。
それをまっすぐ見つめたエメラルドの瞳が。
……力強い意志を持つ。
その瞬間、割れんばかりの歓声と拍手が周りに響き渡る。
俺たち2人を褒め称える声と共に。
俺はそれに恥ずかしそうにしながら、手を振って応える。
ガイアも照れくさそうに笑って見せた。
そんな俺たち2人を、メラクルがジトーッとした目で見ている。
そして言葉には出さず、俺に通信で伝えてくる。
『あんた……狙ってたわね……?』
こいつ!?
俺の心を読んだわけでもないようだが、ポンコツのくせにこういうところは勘が凄まじく良い。
この出来事は大公国から始まり各地へと噂として広がるだろう。
売り出し中の冒険者が世界最強剣士のガイアに打ち勝ち、やがて訪れる脅威に立ち向かうことを決意した、と。
それは小さな一歩かもしれない。
だが、ここで世界は確かに動き出した。
それがやがて世界を救う力となるのだ、と。
そういうシナリオだ。
……無論、仕込みだ。
賭けとガイアと戦ったこと以外は全て仕込みである。
ガイア本人には伝えていないから彼女は大真面目であるし、別に俺も嘘は言ってないし本音ではある。
だが、それ以外。
決着がついたのちに大歓声が湧き起こるのはバッチリ仕込みである!!!
全員がサクラなどではもちろんない。
基点となるサクラを用意して、タイミングよく声をあげ歓声をあげ、そういう雰囲気を誘導する。
そしてこの『感動的出来事』は各地で早馬にて広まるのだ。
それを……、このポンコツが気付いただとぉ!?
「あんた、ああいうとき照れたりしないし」
その通りである。
公爵としての身の上、こういった人の目につくことは日常茶飯事。
いちいち照れたりするのは、演出のため以外に存在しない。
「……それにあんなときは、あんたもっと優しいし」
あんなときとは、ガイアが項垂れていたときだろう。
弱っているときにキツイ言葉をかけると、普通に人の心は折れる。
ただまあ……。
「あいつはあれでいいんだよ。
中途半端な優しさでただの少女に戻したって、あいつのためにならねぇしな」
そう言って俺はニヤリと笑う。
きっとゲーム設定の記憶のリュークもそう言うだろうな。
そんなことを思いながら。
そんな俺を見てメラクルは……。
ぽこっと猫がパンチするように俺の腕を殴った。
「……むかつく」
なんでだよ!
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