第234話ガイアVSハバネロ

「待たせたな」

「待ったよ!」


 ガイアは俺にキレ気味にそう言い放つ。

 周りからはガイアに応援の声が飛んできている。


 美少女剣士とか美少女とか連呼されており、ガイアはとても恥ずかしそうだ。


 おい! 誰だよ、俺を極悪非道とか呼んだやつ!

 リュークではなんにもしてないだろうが!


 そんな中、聖女シーアが俺に静かに頭を下げて、ガイアの後ろの巻き込まれない位置まで下がる。


 いつのまにか机を用意して、そこにミヨちゃんとポンコツ隊サリーが座る。


 そして解説を始めだしたサリー。


「さあ、始まりました。

 美少女として密かな人気がありながら、当人は男どもの関心も我関せず。

 モテて超羨ましいとか言わないですよ?

 至ってクールで世界最強の呼び名も高い美少女剣士ガイアぁぁあああ!!!」


 サリーもモテていたはずだが?

 俺がポツリと疑問を口にすると、俺の横に控えていたメラクルが事情を教えてくれる。


「最近、キャラ変えしたみたいよ?

 私は真実の愛が欲しいとか言ってたから、素を出していくとか言ってたわ」


 そう言って スッとメラクルも俺の後ろに下がる。


 あれが素なんだ……。

 モテなさそうなんだが。

 きっと指摘しない方がいいんだろうな。


 でもまあ、見た目だけでモテてもしょうがないという考えは間違えてはいない。

 それでお互いに想い合える相手と出会えるかはまた別の話だ。


「対するは、極悪非道、鮮血のリューク!

 見て下さい、あの人相の悪そうな顔!

 隊長もあんな男のどこが良いのか。

 ちょっと見た目が良くて強くて優しいとか……あれ?」


 褒めてんのか、けなしてんだがどっちだよ。


「いいよもう……さっさとやろう」

 ガイアは呆れたように俺に対峙すると、サリーは机に足を乗せてさらに言葉を続ける。


「ヤる!?

 なにをヤろうというのでしょうか!

 試合の前に一戦なにを交えるつもりでしょうか!?

 まさかの略奪愛!?」


 暴走がひどすぎるので、残りのポンコツどもに視線を向けて、指をぱちんと鳴らして合図する。


 キャリアとソフィアとクーデルが無言で動き、サリーを確保、口を布で塞いでぐるぐる巻きにした。


 解説席にはコーデリアが代わりの座る。


「フゴゴ……」


 サリーよ……、ポンコツメラクルを見て、ポンコツの末路を見てきたのじゃないのか?


 人はどこまでも物事から学べない悲しい生き物なのか。


「……待たせたな。

 俺のせいではないがポンコツが暴走した結果だ、許せ」


 サリーには早く誰かを紹介してあげよう。

 ポンコツ化があれ以上進む前に。

 もう手遅れかもしれないが。


 俺の言葉のガイアは肩を落として訴える。

「……なんだったんだよぉ」

「ほんとにな」


 周りの観客は俺たちが対峙したことで興奮している。

 俺は始めるぞという意味を込めて軽く手を挙げる。


 ポンコツ共も今度は静かに俺たちを見守っている。


「……やるか」

「さっさとしてくれる?

 こんなことに巻き込まれてさぁ〜」


 ガイアは目を細め面倒そうに。

 だが抜き放った剣に動揺はない。

 アルカディアの剣を構えてこちらが動くのを待つようだ。


 俺もプライアの剣を構える。

 右足に力を込めて地面を蹴り出す。

 間のその距離が一気にゼロになり、互いの剣が交差する。


 横薙ぎにガイアが剣を振るうのを弾き流す。


 流したその先で剣の軌道を変えて、ガイアは下からすくい上げるようにさらに斬りあげて、それを身体を逸らすことで避ける。


 そのままで終わらず、追撃とばかりに斬り上げた剣で斬撃を振り下ろした。


 ガイアはその振り下ろされたアルカディアの剣をプライアの剣で弾き、その反動を利用しながら後ろにバックステップしながら下がる。


「……やっぱりリュークなんだね」


 剣を交えてわかることもあるという。

 ガイアは悔しそうな嬉しそうな複雑な顔をする。


「しらねぇな」

 こいつにとっての俺はやっぱりリュークなのだろう。


 ゲーム設定の中のリュークがどんなやつだったかは知らない。

 ガイアのこともそれほど知らない。

 記憶を共有しただけの関係のはずだ。


 なのに、剣を通して伝わる。

 何度もこうして剣を交えたことのあるような感覚。


 ガイアの歓喜が伝わってくる。

 同時に絶望も。


 ガイアの構えた剣の切先がわずかに震えた。


 ゲーム設定の記憶で知っている。


 こいつは最期の1人になるまで戦って……託す人も居ないまま殺された。

 その絶望はどれほどだっただろう。


 置いていかれた。

 寂しかった。

 怖い助けて、と。


 ガイアの心を読み取ったことに気づいて彼女は俺を睨んでくる。


「……それがおまえを弱くしたのか」

 俺が解き放ったその一言で、ガイアは羞恥と怒りで顔を真っ赤にする。


 ガイア・セレブレイトは最強の剣士……だった。


 ゲーム設定の記憶の中で、主人公と言って良いのかわからないが、リュークたちを切込隊長として引っ張っていたのはガイアだった。


 強く迷わず、まっすぐで。


 最期はリュークと聖女シーアを先に行かせて、1人であふれかえる魔神の前に立ち塞がった。


 本当は寂しかったのか。

 ただ意地を張っただけだったのか。

 それを通し切って隠し切れればよかった。


 ガイアの情けなくもその本当の本音は、誰にも知られずに終われるはずだった。


 でも、その記憶は終わらず俺たちは再会する。


 ここで辛かったなと優しく包み込み、その傷を癒してやることはできる。

 そうすることでガイアをただの1人の少女にしてしまえるだろう。


 ……だが、それでは困るのだ。


 こいつは正しく最強だった。

 それは迷いのない強さ。

 その力は来たる悪魔神と魔神との戦いに必要なものだ。


「来いよ、ガイア・セレブレイト。

 叩きのめしてやるよ」


 右手でこいこいと挑発する。


「へぇ……、僕に勝てたことはないのに?」

「それはどこの幻想のお話だ?」


 カッとガイアの頭に血がのぼったのがわかる。

 おまえが見たのは幻想だと言い放ったからだ。


 ガイアにとって、ゲーム設定の記憶はただの記憶ではない。

 絶望した少女にとって最後のり所となる記憶だ。


 仲間たちと笑い、泣いて、駆け抜けた。

 ……そして散った記憶。


 ガイアが静かに呼吸を整え目を細める。

 そのエメラルドの瞳から身体から、そして剣先から冷たい気配がただよう。


「……その傲慢ごうまん叩き潰してあげるよ」

「できるもんならやってみろよ、最強」

 俺はなおも挑発で返す。


 世界最強の幻想を叩き潰して、その最強を取り戻すために。


 勝負は一瞬だった。

 互いに足を踏み込んだ瞬間に互いの距離はゼロになった。


 外から見た者の多くは俺たち2人が消えたように見えたかもしれない。


 剣がぶつかったタイミングで、俺は剣を受け流すようにしながら握っていたプライアの剣を手放す。


 なにをしているのか、とガイアが目を見開く。


 そこから身体を半分ずらしながら、ガイアの左手を掴む。


 ガイアは振り払うべく右手で剣を横振りで切り返そうとするが。


 そうなる前に俺はガイアの左腕を身体斜め下に振り体勢をわずかに崩させる。

 そのまま腕を上に持ち上げる。


 くりんと表と裏のように俺たちは背合わせになった後、掴んだ左手を畳むようにしながらガイアを上から下に。

 叩きつけるようにして落とす。


 ガイアには何が起こったか分からなかったことだろう。


「ぐっ、はっつ!?」

 高台から落下したような浮遊感と落下の衝撃を感じ、ガイアが息を吐きだす。

 ガイアが衝撃を受けた隙に、その手にあった剣を奪い取る。


 そのままガイアの身体を動けないように固めたところで、首筋をチョンと手刀で。

「はい、おしまい」


 なにが起きたのかわからず呆然とするガイアから手を離し立ち上がる。


 決着がついて、そばに戻ってきたメラクルがボソッと呟く。


「……相変わらず詐欺みたいね」

 見えたのか、すげぇな。


 そのメラクルは俺の腕を掴み、高く挙げさせ叫んだ。


「この勝負、鮮血リュークの勝ちよぉぉおおおおおおおおおおお!!!!」

 歓声と共にハズレた賭け札が舞う。


 誰が鮮血リュークだ!


 俺はやはり大穴だったらしく、賭けに負けたヤツら多数。

 ミヨちゃんが悪い顔してお金を数え、いつのまにかミヨちゃんの後ろにいた黒騎士が呆れた顔でその頭をコツンと。


 メラクルは遠い目で微笑み、そっと懐から賭け札を取り出しそれを破り捨てた。


 おまえ、俺の負けに賭けてたんだな……。

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