第218話回想⑩もしも貴方が目覚めるならば
王太子殿下との不意の遭遇もありながらも、日々は目まぐるしく回る。
同時に日々が過ぎると共に、世界全体でモンスターの被害が深刻化していた。
帝国と共和国に出現した要塞型モンスターも大公国同様、未だ討伐出来ていないようだ。
つくづく思う。
ハバネロが言っていたように、私たちは人同士で争っている余裕なんか全く無かったのだ。
世界の意志をまとめろとはハバネロに言われてはいたが、やっぱり私にはどうして良いかは分からなかった。
各国は各国の
「アイドル活動とやらを行うなら支援するが?」
ラビットにそう凄く真面目な顔で言われたが、そもそも私からしてアイドル活動ってなんぞや、という印象だ。
要は世界の人々から愛される存在と成れと。
それはどこの物語の勇者様で御座いますか?
そうなるべくには、清く正しく美しい物語の勇者様のように各地を周り人々を救っていかなければならない。
「なるほど、物語に登場する勇者様はこうやって、魔王を倒すために世界の人々の心を一つにまとめていたのね」
私、メラクルはまた1つ賢くなった。
そんなクレバーメラクルをローラがジト目でツッコミ。
「何を言っているのかしら?」
ローラは私の旅支度を手伝ってくれている。
その部屋にサビナが入って来る。
「メラクル。
私とモドレッドはしばらく外交で帝国に入り各種調整を行うわ。
もし帝国に来ることがあるなら、話は通しておくからね」
サビナが書類片手にそう告げる。
そのサビナをローラがチラッと見て……居心地の悪そうな顔をする。
理由は分からないけれど、ローラはサビナが苦手なようだ。
不思議〜。
そんな私を見てローラは呆れながら言う。
「いやいや、なんの遠慮もなく話しかける貴女がおかしいのよ?
王国公爵の側近よ?
偉い人よ!?
つくづくメラクル、貴女どんな立場なの……」
その言葉に私はサビナと目を見合わせて。
「さあ? メイド?」
「……なんでしょうね。
メイドでもありますけど閣下直属の部下……と言っても、閣下がメラクルをメイド以外の何かに任命したことはないですし。
勝手に戦場にも付いて来て、勝手に皆を指揮して英雄になって……、あっ、アイドルになれとは
私とサビナの説明を聞いて、眉をヘニョっと下げてローラはため息を吐く。
「なんなのそれ……」
なんだろう?
どんな立場かと改めて言われるとメイド以外の立場ではない気もする。
そこにサビナは真面目な声で表情のまま、えいやっとばかりに爆弾を投げつける。
「……公爵領内では愛人の立場を不動のものにしてましたけどね」
サササ、サビナ!?
それは言うてはならん!
言うてはならんのですたい!
誰かが私の肩をポン。
「へぇ〜……」
ふ、振り返れない……。
振り返ればヤツが、ヤツがいる……!
もちろん振り返ったその背後に居たのは、満面の笑みの姫様。
ヒィィィイイイイ、またぁああ!?
私は笑顔の姫様に無言でほっぺをモニュモニュされる。
それを見ながらサビナがポツリと漏らす。
「実際のところ閣下がメラクルの行動を静止しなかったのは、どういうおつもりだったのでしょうね」
その言葉に私と姫様は目を見合わせる。
単純に男女のそれで、ハバネロが私を自由にさせていた訳ではないことは誰もが分かっている。
……もちろん、私がポンコツ過ぎて色々と諦めたせいでもない。
……ないはずだよね?
とにかく私はため息を深く、1度だけ吐く。
「あいつはね、私の願いならナンデモ叶えたでしょうね」
「それはどういう……」
私とハバネロの関係をほとんど知らないローラが問い返す。
ほんと、あの男は……。
私の恋心を知っててそうするんだから。
「あいつはね……私と初めて会ってから。
いいえ、会うよりも前から。
私がどんな時でも必ず姫様の味方をすることを知っているのよ。
誰が敵になろうと」
例え世界を敵に回しても。
ただの一度たりとも言葉ではお互いに確認はしなかったけれど、私たちが共有していた絶対の
だからあいつは私が何をしても許した。
むしろ望むものは全て与える気もあっただろう。
物に限らず、私が何かを願えば即座に叶えただろう。
それが全て回り回って、姫様の手助けになることを知っていたのだ。
……そうして自分が居なくなった後も、姫様に私という自分の代わりになれる味方を残すために。
「つまりまあ……、今も昔もあいつは姫様のことだけってことよ」
私は肩をすくめて苦笑した。
ただそこに私が勝手に恋心を持ってしまっただけ。
勝手に私がそれを寂しいと思ってしまっただけ。
「メラクル……」
姫様が私を抱き締める。
「……ごめんね、姫様。
あいつを勝手に好きになって……。
ごめんね……」
私は姫様に
姫様は優しく包み込むように私に答えた。
「良いんだよ、メラクル。
言ったでしょ?
彼は……レッドは居てくれてありがとうと言ったんだよ」
ハバネロはきっと、自分が居なくなった後も大丈夫とそう思いたかったからだろう。
それを寂しいと思うのは……私の勝手だ。
姫様はそんな私をしょうがないなぁと苦笑しながら慰めてくれた。
だから。
私は涙を拭うこともせず、壁の向こうの眠り続けるハバネロの部屋の方をキッと睨む。
そして……。
「レッド・ハバネロォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!」
大きく背を逸らし。
息継ぎを一回。
「ぜっっっったい!
絶対、あんたを起こしてみせるからぁぁああ!!
たった一回の人生全力で全開で!!!!
絶対、このままで終わらせたりさせないんだからぁぁあああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!
絶対、絶対、ぜぇぇええええったい!
起こしてやるんだから!
待ってろよ、ハバネロ」
そう言って私はグシッと鼻をすすり、腕で涙を
「……覚悟してろよ、ばぁーか」
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