第211話回想③聖女シーアが語る言葉

 姫様はプライアの剣をハバネロに恐る恐る抱えさせる。


「だ、大丈夫なの、それ?」

 私はそれを見ながら、おっかなびっくり。


 これでずしっと重しが掛かって、ハバネロがグハァアアアアと叫び致命傷となったら目も当てられない。


 ビクビクする私たちを尻目に聖女(?)は自信満々で。


「大丈夫ですよ。

 ほら、公爵さんの抱えているプライアの剣を軽く持ち上げてみて下さい」


 姫様がまた恐る恐る、今度は抱えさせたプライアの剣をハバネロに触れさせたまま持ち上げると……。


「あ、軽い……」

 ひょこひょこと先程は重そうに持っていたプライアの剣を軽〜い感じに上下させる。


「不思議なんですけどね。

 適用者が触れると軽くなるみたいなんです。

 おそらくこれは魔導力に対する親和性が関係してくると思うのです。


 しかるに、それはいわゆる一つの魔導力に個人認証的な役割を持つ可能性を示すことであり、場合によっては固有の識別コードを有していた可能性が示され、それが過去における魔導力の……」


「待った待った待った、あんた何言ってんの?」

 際限無く話し出しそうな聖女(?)の言葉を遮る。


 突然、何をのたまってらっしゃるのかしら〜?

 魔導力の親和性〜?

 魔導力は魔法じゃないっつーの!!


 まだ話をしたそうに不満顔をする聖女(?)は、しかしてガイアにポコンとどつかれる。


「姉さん、話が長いの。

 要点だけ言って」


 ガイアの言葉に聖女(?)はむ〜と口を尖らせ、それでも仕方ないというように口を開く。


「要するに、そのプライアの剣は公爵さんの身体を蝕む魔導力の暴走を和らげるという訳よ!」


「あ、そうなんだ……」

 思わずそう素直に反応した私に聖女(?)シーアは地団駄を踏む。


「今、スッゴク大事なこと言ったのに、もっと驚いてよー」


「ガイアのお姉さん、いつもこうなの?」

 姫様が聖女(?)シーアを指差し、ガイアに尋ねる。

 こんな扱いはアレだけど、私も同意である。


「……いや、流石にもっと落ち着いてたはずなんだけど」


 ガイアが恥ずかしそうに上目遣いで聖女(?)シーアを見ると、彼女はわざとらしくコホンと咳払いをする。


「言ったでしょ?

 起きれるかどうか分からなかったって。

 そうなるとね、人生は後悔のないように生きなきゃ駄目と心から思ったわ。


 だから!

 私は正直に生きるの!

 ビバ、人生!!」


 両手を斜め上に伸ばし万歳をする聖女(?)シーア。


 流れる沈黙。


 その空気を破ったのは姫様の深いため息だった。

「とにかくシーアさん?

 こちらで座って話をしましょうか。

 行方不明だった貴女が何故、今ここに居るのかとか色々。

 メラクルお茶を淹れてくれる?」

「あいよ」


 私は持って来ていたカートから人数分のお茶を用意して、ポケットからビスケットを取り出しお皿に乗せる。


「やった! メラクルさんのお茶飲みたかったんだ。


 夢の中で公爵さんも飲んでたけど、私は味が分からない出涸らしの3番茶をさも美味しそうに飲むしかなかったわ……。


 可哀想な私……」


 ヨヨヨと倒れるフリをしながら、手にはすでにビスケットを確保。


「それで〜、起きれるかどうか分からなかったって、聖女さんは眠り続けていたってこと?

 今の公爵様みたいに」


 いつの間にか同じソファーに座り、ビスケット片手にモグモグと口を動かしながらミヨちゃんがそう言った。


 ミヨちゃん……、いつの間に……。


「誰もメラクルがポケットからビスケットを取り出したことは突っ込まないのね……」

 ローラがポツリと言うが。


 ローラ、今更、そんな些細なことを気にしても仕方ないのよ。

 大丈夫、ちゃんとビスケット専用のポケットにしてるから!


「……メラクル。

 自慢げにポケットを叩いているけど、普通はビスケットはポケットに入れないからね?」


 口には出していなかったはずなのに、何故か姫様からツッコミを受ける。


「……なんで考えてること分かったの、姫様。

 勘鋭くなりすぎてない?」


「ああ、うん、メラクルがさらに分かりやすくなったせいもあると思う……」


 そうかなぁ〜。


 そのとき聖女シーアが『んっ?』と怪訝そうな顔をしたことに、私たちはこの時点で気付いてはいなかった。


 これが後に大きな意味を持つことになる。


 コンコンと開いている扉がノックされる。

 振り向くとセバスチャンとアルクとサビナの公爵家メンバー。


 護衛の黒騎士と公爵家のベテラン侍女のセレーヌさんだけを置いて、とりあえず部屋を移動しようということになった。


 姫様、ローラ、聖女(?)シーア、ガイア、ミヨちゃん、アルク、サビナ、セバスチャン、そんでもって私が椅子に座る。


 真ん中のテーブルにはビスケットの山盛り。

 聖女(?)シーアとミヨちゃんによる争奪戦が始まる。


「じゃあ、話を聞きましょうか」

 姫様が促すが。

「ひょっひょまっへへ(ちょっと待ってね)」


 口いっぱいにビスケットを頬張る聖女(?)シーア。

 私は! 私はまだこれを聖女とはまだ認めない!


「ガイア……?」

 姫様が珍しい胡乱げな目でガイアを見る。


「ほんとは!! こんな自由人じゃないんだ!! 本当なんだー!!」

 涙ながらに訴えるガイア。


 ……妹って大変なんだね。

 私は妹は居ないけど弟が1人。

 ここしばらく会ってない。

 素敵で大人な私という姉をとっても慕っているわ……多分。

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