第229話鮮烈!五体投地!!
旅にコーデリアを連れていくのに、何よりも当人がその気になれば否やはない。
メラクルが1度生きていることを認識してしまえば、コーデリアはメラクルにべったりだった。
ある意味でその執着こそがあんな事件を引き起こしたのだと言われれば、俺にはそれが痛いほどよく分かった。
信じていたものが逆転した瞬間ほど人が簡単に落ちる瞬間はない。
よくある恋愛でフラれたてが1番落としやすい、ということだ。
これが良い意味で言うなら、古い恋を忘れるには新しい恋となるのだが……ちょっと違うか?
いずれにせよ、過去のあのとき。
コーデリアたちの周りはそうと気付かぬうちに悪意に囲まれていた。
違う方面から同じような情報が届くと、たとえそれが誰かが意図的に流した情報であっても、複数から自分で得た情報だと思い込む。
そうして人は簡単に狂気と悪意に呑まれる。
あの時の大公国でパールハーバーや大公国を覆う闇の事実を知っていたのは、俺のところから帰って来たメラクル以外、誰も居なかった。
知らないということはコーデリアたちのように、相手に好きなように操られることでもある。
それと反対に中途半端に知ってしまうということは、相手に無用の警戒感を
メラクルはそれでも帰ることを選んだ。
今なら分かる。
あの時のメラクルは俺が強引に引き止めたとしても帰ったことだろう。
あの時はまだメラクルも信じていたのだろう。
パールハーバーが止まる可能性を。
そして大公国が自力でその闇を振り払える可能性を。
さらに言えば、何も知らない聖騎士団のメンバーであるコーデリアたちが、その大公国の闇に共に呑まれてしまうことを見捨てられなかったのだ。
メラクルは護りたかったのだ。
聖騎士として仲間と国と……その理念を。
『生きて戻った私に団長の伯爵は、冷たい言葉を浴びせたわ。
任務を失敗しておいてよくおめおめ生き恥を晒せたな、って』
あのときメラクルは思い知らされた。
大公国を覆う闇の深さとおぞましさを。
そして、聖騎士として誰より信じていた騎士団長パールハーバーが聖騎士としての理念を失い、闇に堕ちていたことを。
メラクルは極悪非道と呼ばれた俺本人を知ることで、どこかで人は誰でも分かり合える可能性を見出していた。
それが甘いと言われようとそれこそがメラクルの信じる聖騎士だ、と。
だが、パールハーバーにとってはそれら一切を聞く気はなく、大公国の未来でも、聖騎士の理念のためでもなく。
俺を消すということが大事だったのだ。
メラクルは絶望したはずだ。
信じたものがガラガラと音を立てて崩れ。
おそらくメラクルがコーデリアたちと危険を認識していながら大人しく任務に出たのは、人の居ないどこかで彼女らに大公国を覆う闇とパールハーバーについて告げるつもりだったのだろう。
だが、それを告げる前にあの凶行が行われた。
『私のやることは変わらない、聖騎士として大公国のためって。
聖騎士としての誇りがあるから。
……でも。
……でもそれはまやかしだった』
俺の元に帰って来たメラクルがそう言って泣いたのは、信じていたコーデリアに殺されかけたからではない。
他ならぬ無力感と何も知らなかった、知ろうとしなかった自分、大切なものを護れなかった自分への怒りだ。
なによりあのとき、メラクルはなにもかも無くして、言葉通り俺のところにしか帰るところが無かったのだ。
後日、メラクルは俺に言った。
「笑っちゃうわよ。
私が何もかも無くしたと思ってたのに、その私を助けた金属片も、ミヨちゃんたちの関係もぜ〜んぶあんたが関わってるんだもの。
トドメに帰って来た私をあんたはまだ聖騎士なんだって……。
私が失ったと思った命も聖騎士としての誇りも、あの瞬間に全部救ってくれちゃうんだから。
……笑うしかなかったわよ」
堕ちるに決まってるわ、とメラクルはそう言いながら妖艶に笑った。
それに俺は偶然だよ、と苦笑いするしかなかった。
立場と状況が違えば、時に見え方は180度変わる。
これはただそういう話だった。
真実を改めて知ったコーデリアが最初に取った行動は……。
五体投地だった!!!!!!
説明しよう!!
五体投地とは!
土下座を超えた究極の礼の形であり、一説には土下寝と呼ばれる亜流も存在するとかしないとか、やっぱりしないかも、と言われるている!
要するに全身を寝そべった状態で行う礼のことである。
「……ありがとうございました」
その五体投地のままコーデリアは小さく呟く。
「うん?」
とあるポンコツのせいで、突然の奇行に慣れてしまっている俺でもその意図は掴めない。
だがコーデリアはその土下座の意味を大声で叫んだ。
「先輩を助けてくれて、本当にありがとうございましたぁぁぁあああああ!!!!」
部屋中にコーデリアの声が響き渡る。
慟哭にも似た叫び。
そこにどんな想いがあったのか、俺には想像することしか出来ない。
大切な人でありながら、メラクルをその手に掛けようとした。
おそらく心神喪失状態であり、半ばパールハーバーと邪教集団の罠による洗脳状態であっても、起こしてしまった罪は自分の中から消えてくれることはないだろう。
たとえメラクル本人が
ついにはすすり泣きするように、それでも俺に礼を言って来た。
「本当に……本当にありがとう、ございます……」
……それでも最悪は免れた。
それが奇跡と呼ぶべき何かであることは、他の誰よりもコーデリアは理解していた。
メラクルが立ち上がり、手を引いて自分の隣に座らせる。
そして自分のハンカチをそっとコーデリアに差し出す。
コーデリアはそのハンカチを受け取り……鼻をかんだ。
公爵の俺の対面でそのハンカチで鼻を
ぶーっと盛大な音を鳴らして。
「お前の実妹だろ?」
「いいえ、義理よ」
いや、どう見てもそっくりだろ、お前ら!?
この太々しさ、メラクル隊つまりポンコツ戦隊カラフルレンジャーは大体こうなのかもしれない。
恐るべし!
ポンコツ戦隊カラフルレンジャー!!
いつの間にか泣き止み、俺をジーッと見てくるコーデリア。
「なんだよ?」
「公爵様、随分雰囲気が変わりましたが、優しいのだけは変わりませんね」
そう言ってコーデリアはニッコリと笑う。
それに俺はそっぽを向き。
「言ってろ」
悪逆非道のハバネロ公爵に何言ってんだ。
……ったく、コイツら(義理)姉妹はほんとそっくりだ。
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