第227話クロウの前に現れた謎の男
「……何度も言うけど、どういう関係にもなってないよ」
クロウが再度、苦々しくそう言い放つ。
その表情、その
分かる、分かるぞクロウ君。
俺は
届かない想いってのは辛ぇよなぁ……。
ユリーナは俺をジーッと眺めてくるので、若干の居心地の悪さを感じるのは気のせいだ。
……かと思えば、俺の服の袖をつまみ、手でコソッと口元を隠すようにして小さく。
「届いてますよ?」
気持ちは届いている、と。
ユリーナのあまりの可愛いさに俺の脳内は沸騰直前、ガクッと片ひざをつくのは仕方がないことなのだ!
『ウゼェエエエエエエエエエエエ!!!!!
イチャイチャカップル、うぜぇえええええええええ!!!!』
そんな俺たちを見たメラクルが、わざわざ通信で心の声を俺に届けてくる。
うるせ〜とばかりにメラクルの髪をわしゃわしゃと乱す。
偶然にもサリーはそんな俺たちに背を向けていたために、その様子を知られることはなかった。
きっと見られていれば、盛大な舌打ちをされていたことだろう。
そうとは知らないサリーはクロウの言葉に引っ掛かりを覚えたらしい。
首を傾げて爆弾を放り投げる。
「え? でも前に全員で見舞いに部屋に来た時、優しく抱きしめながらコーデリアとキスしてたでしょ?
そっと扉を閉めておいたけど。
それを見たキャリアが『幼馴染とか近い関係で恋愛していいんだ』と衝撃を受けて、従弟のダート君との関係が一気に進行しました。
ソフィアも『目からウロコが落ちた』と、外面よりも内面を重視すると言って、あれよあれよの間に……。
アア、ヒトノ幸セガニクイ……」
サリーが遠い目で天井を見上げ苦悶の声をあげる。
ヤベェ、憎しみで人を辞めかけてる!
そのクロウはそっと目を逸らす。
今度は
肉体関係はないが、キスはある、と。
メラクルのことさえなければ、両想いでとっくに結ばれていたのだろうが。
「おぉぉおおのれぇ、クロウ!
キスまでしてェェエエエエ!
責任取りなさいよぉぉ!!!」
メラクルお姉様はお怒りだ。
もはやその怒りの意味がどういう意味かさっぱり分からんが、俺はそれについては他人事と思えずそっと目を背ける。
隣のユリーナが目を見開き、ジッと圧が圧がァァアアアアアアアアアア!!!
「……俺だって責任取らせてもらえるならそうしたいさ」
複雑だなぁ、複雑だよなぁクロウ君!
とりあえず、この空気をなんとかして!?
そこでメラクルの怒りを不思議そうに眺めていたコーデリアはクロウに尋ねる。
「クロウ……、先輩が見えるの……?」
「そりゃあ、見えるよ?」
コーデリアの
見えるだろう。
だってコーデリアが抱き付いているポンコツ、生きてるからな。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」
「怖っ!?」
それからしばし……。
全員で肉まんとメラクルが淹れた茶をズズズと飲みながら、一息つく。
興奮しかけたコーデリアだったが、メラクルに肉まんを口に突っ込まれ、目の前にお茶を差し出されると途端に大人しくなり。
現在はハムハムと2個目の肉まんを口いっぱいにつめている。
その間に俺たちはクロウにコーデリアを迎えに来た理由を説明する。
「それでは……コーデリアに姉さんと赤騎士リュークの旅について来てもらいたいと。
体調は以前よりは良くなっています。
後はコーデリアの気持ちの問題ですが……」
大公国に到着し、俺が各地を旅するにあたり誰を共にすべきかとなった時。
メラクルと連携を取りやすいメンバーだからと候補にあがったのが、ポンコツ隊のメンバーだ。
その中でまだ現役復帰を果たしていないコーデリアも体調が問題ないようなら、連れて行こうとメラクルが言った。
なのでその様子を見に来たのが今回の経緯だ。
だが、説明を聞いたクロウはどうにも理解出来ないという表情をする。
そりゃ、そうだ。
急に死んだと噂されていた姉が王国の大貴族の養女になって、王国公爵の愛人になった噂もあって、街中どころか全国各地にアイドルとかよく分からない存在になって。
極め付けにほぼ恋人である幼馴染を、そんな姉が連れて来たよく分からない男の旅に同行させようというのだ。
すべてが突拍子のない話にしか聞こえないだろう。
改めて並べてみるとこのポンコツ娘、波瀾万丈だな、おい。
コーデリアもメラクルにしがみついたまま、俺たちの正体を何も知らない一般人の彼に告げるわけにもいかず、どうにも困った顔。
……なので。
「赤騎士リュークとは仮の名。
髪色を変えて偽ってはいるが、我が名はレッド・ハバネロという。
王国の公爵だ」
俺はクロウに真実を告げた。
「あ、言うんだ?」
メラクルが意外そうに俺にそう言う。
まあな、恋人同士を離れ離れにさせるのだ。
俺もそれなりの誠意を見せたい。
それが危険を伴うものでも譲れない部分ってあるわけよ。
さて、それを聞いたクロウは。
目を見開き、口をぱっかんと開く。
「はっ?」
あ、何故だろう。
この普通の反応がとっても落ち着く。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます