第224話持つ者と持たざる者
「流石は我が後輩。
予想の斜め下の姿。
私も負けていられないわね……」
大丈夫、メラクル。
お前はいつもあんなだから。
メラクルは久しぶりの再会となるコーデリアに何気ない感じで声を掛ける。
「久しぶりね、コーデリア。
あんた引きこもり生活で肌荒れしてない?
運動しないと太るし肌荒れも酷いわよ?」
しかし布団つむりコーデリアは虚ろな目で答えない。
これは本格的に病んでしまったか。
自身の犯した罪に耐えきれなくなるのは至極当然の事にも思えた。
そう思ったが、サリーはそれを否定する。
「大丈夫ですよ、隊長。
クロウ君が来てバランスの良い食事と日課のラジオ体操は欠かさないようですし、3食昼寝付きでノンストレスの毎日です」
クロウはメラクルの弟か。
ならばコーデリアとクロウも幼馴染ということだな。
聞いている限りは、見ている姿以上に元気そうだが……。
「変ね?
幸せそうね?
……っていうか元気なら働きなさいよ」
サリー曰く、一応、生活費は騎士団で貯めたお金を使っているそうで、そのお金の管理はクロウがしていると……なんの情報だよ。
サリーは自ら告げたその真実にアンニュイな表情で返す。
「幼馴染を持つ者と持たざる者、これが運命力の差なんですよね……」
幼馴染ってそんな
思わず首を傾げた俺をユリーナがジーッと見つめる。
まさか、ユリーナにも幼馴染が!?
それがサリーの言うように絶対的な存在ならば……ヤッチマウしかない。
俺の嫉妬を感じ取ったユリーナがポツリと漏らす。
「毎回毎回、こうして嫉妬されるのが嬉しいなんて、自分でも致命的ですが」
「そこォォオオオ!!
イチャイチャしない!!」
メラクルが飛び出すようにツッコミを入れながら、手をぱんぱんと叩く。
だがそこに俺とユリーナの過去について、意外な方面から言葉が放たれた。
「……ユリーナ様と公爵様も幼馴染のようなものじゃないですか」
あまりに意外だったので、一瞬、誰の言葉か分からなかった。
その言葉の主は……布団つむりコーデリア!
お前、しゃべれたの?
「ようこそ、ユリーナ様。
そちらに居られるのは……まさか、公爵様……?
随分変わられましたね……?」
髪色や雰囲気を変えているのにも関わらず、コーデリアは俺を見抜いた。
「……俺と会ったことがあるのか?」
妙な言い方だ。
まるでかつての俺を知っているかのような言い様だ。
「……目だけはあの頃と同じ色をしております。
ユリーナ様をお護りしようとする絶対の意思。
その印象だけは深く残っています。
あの頃は見た目もユリーナ様を守ろうとする王子様でしたが……随分変わられましたね」
ほっとけ!
「少し遠目でしたからお気付きではなかったでしょう。
先輩と……私が殺してしまったメラクル・バルリットと共に、屋根の上からご挨拶をさせて頂きました」
次代の公爵と自国の大公女に対して、お前らどこから挨拶してんだよ……。
俺はメラクルと何故か顔を見合わせる。
その反応からメラクルが覚えていないことを確信した。
なんでお前も覚えてないんだよ……。
「メラクルはやっぱり屋根から落ちて忘れてたのね……」
い、一体何があったんだ?
キョトンと目をパチパチさせながら首を傾げるメラクルを見て、大したことは起きていないと直感的に確信した。
きっといつも通りに調子に乗って屋根の上で足を滑らせたとかだろう。
「お前、気を付けろよ?」
「……おかしいわね。
なんで記憶がないはずのあんたが、その時の私に起こったことを確信しているのよ?」
だってメラクルだしなぁ〜。
ところで俺とユリーナは幼馴染にあたるのか?
記憶がないので俺には分かりようもないが。
しかしそれならば、幼馴染は絶対的な存在だな、うん。
俺がそんなふうにユリーナを見つめると、しょうがないなとユリーナは慈愛の目をしながら微笑を返してくれる。
可愛いので押し倒したい!
ユリーナの口元が、今はダメ、と恥ずかしそうに動く。
俺はもう幸せハッピー!
もうなんというか世界なんてどうでも良くなりそうだ。
するとメラクルが半目でじと〜とした目を向けてくる。
俺は誤魔化すようにメラクルの頭を撫でると、口を膨らませながらも文句を言うことはなかった。
「ラ、ラブラブ波動が侵食!
このままでは、私の心が保たない!?
お願い、コーデリア助けて!!」
サリーが心からの動揺を示し、ついに人の身体を捨てた布団つむりコーデリアにまで助けを求める。
「……無理無理。
私も今、何を見せられているのか理解が出来ない。
幻覚よ、きっと幻覚を見ているのよ。
いえ、罪悪感が見せる幻。
ふふふ、これが罪……」
「コーデリアー!
逝くなぁああ!!
私をこの魔界のラブラブ地獄に置いて1人で逝くんじゃないわよ!!」
サリーとコーデリアが元気に言い合う。
うん、元気そうだなぁ。
お前ほんとに反省してる?
再度、メラクルはコーデリアの方を向き首を傾げる。
「でもコーデリア。
いつからクロウとそんな関係に?
あんたたちまさかもう!?」
そりゃあ〜、なんの障害もなければ関係をすでに持っていておかしくはないわなぁ。
部屋は薄暗いというほどではないが明るい訳でもない。
なので肌艶はよく分からない。
そこまで血色は悪そうには見えないのが幸いだ。
コーデリアは話しかけたメラクルの方を虚な目で見て、突如、前触れもなく無言で涙を流す。
こぇええ!!
「ちょ、ちょっと!?
コーデリア大丈夫!?
何、お腹空いたの!?
肉まん、アルヨ?」
メラクルは突然のコーデリアの涙に動揺しながら肉まんを見せる。
だがコーデリアは何も言わず俺とユリーナの方にそのまま視線を向ける。
そう! メラクルをガン無視である!!
「ちょっと! 無視しないでよ! ねえ!」
メラクルが訴えるが、コーデリアは布団からにゅっと片手だけ出す。
そして自らの耳をメラクル側の片耳だけ押さえて、聞くまいとあからさまにメラクルを無視して俺たちに話しかける。
「無視すんなぁ、ゴルァァアアアアアアアア!!!」
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