第206話拗らせた女
なんであんなところに!?
いつお目覚めに!?
メラクルさん、あんなところで騒ぎ起こさないで下さい!
……などなど、まくし立てるようにエルウィンは疑問を投げかける。
「もうユリーナ様にお会いになりましたよね!」
そして最後にエルウィンが嬉しそうに尋ねたことには、流石に俺も首を傾げる。
エルウィンとユリーナにはそれほど接点はなかったはずだが。
俺が眠っている間に状況が変わったといえばそうかもしれない。
俺が会っていない、と答えると……。
エルウィンはふーと深いため息を吐き、興奮した様子から一転。
椅子に腰掛けるメラクルの方を見て言い放った
「……偽物、いえ、影武者ですか。
本物そっくりですね、俺には見分けが付きません」
「本物だぞ?」
なんでいきなり影武者呼ばわりされんといけない?
いやまあ、そう簡単にバレてはいけないんだが、エルウィンならバラしても良い。
「嘘だァァァアアアア!!!」
エルウィンが絶対に嘘だ、と俺に指を突き付けメラクルの方を見る。
なんでメラクルに言うんだ?
影武者に言っても仕方がないということだろう。
メラクルはさも当然といったように偉そうに腕組みして頷く。
「でしょ〜?
あり得ないって。
エルウィンからもこのバカに言ってあげてよ。
姫様に会おうとしないあんたなんて偽物よ。
偽ハバよ」
偽ハバってなんだよ。
エルウィンは比較的真面目過ぎるタイプだったが、大戦時にメラクルと一緒に部隊を動かしてからは、どうにもポンコツ化が進んだ気がする。
もっとも彼の性格が柔軟になったおかげで、カスティアを救いだせたことを思えば悪いことばかりではなかったが。
それでもまあ……。
「おい、これ絶対お前の影響受けてるだろ?
ポンコツ菌撒き散らし過ぎだぞ?」
「人聞きの悪い!
絶対、あんたのせいよ!」
ぎゃいぎゃいと俺とメラクルは言い合い、黒騎士はニヤニヤして聖女シーアは淹れてもらったお茶を飲みニコニコ。
この旅の間、こんなんばっか。
メラクルもさらに遠慮がなくなって。
……こいつは前からだわ。
だが、そのケンカする様子を見て、ネコか何かのじゃれあいにでも見えたのか。
エルウィンはおかしなことを言い出す。
「メラクルさ〜ん、本物だって言うなら閣下を誘惑しちゃったんですか?
閣下がユリーナ様に会わないとか有り得ませし。
最近、寝取りがどうとか言い出す輩がいますが、そういうのオススメしませんよ?」
まあ、言われてみれば俺がユリーナに会わないと言い出せば、真実を知る者たちからしたら有り得ないか。
……会わねぇとか言ってないからな?
エルウィンの言葉をメラクルは鼻で笑って言い返す。
「私に簡単になびくようなハバネロならこっちからお断りよ、ぺぺいのペイよ!」
メラクルのヤツがペシペシと俺を叩いて来たので、ほっぺたを引っ張っておいた。
「おー、伸びる伸びる」
俺たちの様子を見てエルウィンは少し落ち着きを見せ、ため息を吐く。
「メラクルさん、相変わらず
その言葉に俺は苦笑いを浮かべるしかない。
そこでニコニコしながら、静かに茶をズズズと飲んでいた聖女シーアは不思議そうに小首を傾げた。
「不思議だったのですが、メラクルさんはハ……リュークさんを1人占めしたいとか思わないのですか?」
「1人、占め……?」
メラクルはキョトンとして、不思議そうに聖女シーアのマネをするように小首を傾げる。
メラクルと聖女シーアは小首を傾げたまま、目をぱちぱちと瞬きを繰り返している。
何してんの?
「ん〜」
メラクルは人差し指を自分の唇に当て俺を見る。
……なんだろう、この居心地の悪さは。
「私は会った時からハバネロは姫様ありきだからねぇ。
逆にハバネロから姫様抜きとか……なんというか、気色悪い?」
気色悪いってなんだよ。
それを聞いて黒騎士とエルウィンが顔を見合わせ、同時に言う。
「
「相変わらず
ムキーと言いながらメラクルは赤い顔で言い返す。
「うっさいわね!
分かってるわよ!」
この件に関して、確かに俺は解決すべき物事を保留にしたままである自覚がある。
酷いと言われようが俺の1番はユリーナだ。
それと同時にこいつとの気のおけない関係もまた得難いものとなっていた。
言うべき言葉をのどに詰まらせたままだ。
迷いなく選ぶにはその関係はあまりにも
逆にもう少しメラクルとの関係が薄ければ、容易く引き返せない俺の
今回のことで分かるように、俺はユリーナのために死んでしまえる。
重過ぎるその後の世界の命運すらも残したまま。
メラクルも中途半端な関係で重しだけ残されるなどたまってものではないはずだ。
それでも、少なくともユリーナとの関係が
……それでも言うべきなのだろう。
お前の婚活はもう詰んでいる、と。
その思考の全てを。
分かってるわよ、と。
そんな顔でメラクルはフッと笑った。
ほんとに分かってんのかねぇ?
仕事以外はポンコツだからなぁ、こいつ。
質問しておいて何を言うでもなく、ニコニコ顔で何度も頷く聖女シーア。
そんな周りを気にするでもなく、自分の中の自分に問いかけるようにメラクルはさらに言葉を続ける。
「嫉妬が全くないってわけじゃない。
だけど姫様を捨てたハバネロとか想像するとほんと気色悪いし、そういうの何というか……自分がどうとかより、心底嫌。
私は……なんというか姫様には1番幸せになってもらいたいというか、その相手がハバネロで幸せかは疑問だけど」
おい、気色悪い2回言ったな?
あとお前、実は酒飲んでないよね?
え? シラフ?
メラクルは自分の中の自分に問うのに精一杯なんだろう。
そこからも気付かずに自らの内面を
「そもそも私は姫様に真っ直ぐなハバネロに惹かれたわけで、それ無しだと堕とされたかどうか分かんないし……。
それでもハバネロが姫様以外と……。
浮気しようとか考えるんだとしたら、嫉妬とかそういうレベルじゃないぐらい怒るというか気が狂うというか……。
なんで私じゃないんだ、とか……。
それなら私でも良いでしょ、とか……」
天井に目線を向けながら、自分の中の言葉にばかり向かって俺たちの反応に気付いていない。
……こいつ、何言ってやがんだ。
俺は心底頭を抱えた。
エルウィンはどこか納得顔。
聖女シーアは満面の笑み。
黒騎士は俺を見ながら、これ以上ないほどにニヤニヤした。
こっちを見るなァァアアアアア!!
最後にメラクルは俺たちの様子に気付くことなく俺の方に向き……。
「……あー、やだやだ。
ほんとやだ。
むかつく、何、この男に都合いい感じ。
ほんとむかつく」
そう言いながら俺の腕を何度も殴ってくる。
わりと本気で。
いてぇよ!!
意外なことかもしれないが、メラクルがこんなふうに本気で殴ってくることはまずない。
それだけうっぷんが溜まっているのだろう。
理由が分かるので、やり返さない代わりに俺はメラクルの頭をガシガシと撫でる。
するとメラクルは途端に大人しくなり、下を向いて涙をこらえようとする。
……悪いな。
その言葉も俺は口には出さない。
そしてついに聖女シーアがメラクルへ現実爆弾を投げつけた。
ニコニコと。
「メラクルさん、本人の目の前でそんなに暴露して良かったんですか?」
それを聞いた瞬間。
メラクルは顔を青くして。
赤くして。
目を大きく見開いて、俺を見て……。
「ひぃあぁぁああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」
泣きそうになっていたのはどこへやら、両手をワナワナとさせながら叫びだした。
うるせぇ、叫びたいのはこっちだ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます