第205話どうしよう!
「直接、会わないってどういうことよ!」
大公国……元大公国公都に辿り着いた俺たちだが、俺がユリーナに直接は会わないと告げると予想通りメラクルが喰ってかかる。
だが、大通りを歩いていて何気ない感じに。
『いつ、姫様に会いに行くの?』
メラクルがそう言ったのに対して。
『直接は会えないな』
そんなふうに返した瞬間に唐突にそう言って激昂したのは予想外だった。
喰ってかかるとは予想したが、大通りを歩きながら大声で騒ぎ出すとは。
俺もユリーナには心の底から会いたいし、死ぬほど会いたくて狂おしいほどだ。
……だが、そういうわけにはいかないのだ。
「会って正面から押し倒したら良いじゃない!!」
「公衆の面前で何叫んでんだよ」
昼間の大通り。
そこまで人は多くはないが、それでも大きな声をあげるので何人かがジロジロと俺たちを見ては通り過ぎる。
俺は耳の穴を掻きながら、メラクルに落ち着くようにと告げる。
「あんたが聞き分けのないこと言ってるからじゃない!」
俺は大きくため息を吐く。
「だから落ち着けって言ってんだろ?」
ふしゅーと威嚇する猫のように息を荒く吐くメラクル。
黒騎士と聖女シーアはニヤニヤニコニコするだけで話には介入して来ない。
「……俺がユリーナに会いたくないわけないだろ。
そのままじゃ会えないって言っただけだ」
「同じことじゃない!」
「ちげーよ、ポンコツ」
俺は落ち着けとばかりにメラクルの額をピシリと叩く。
「酷い!
暴力だ!」
額を押さえてギャンギャンと喚く。
それを見ていた人がざわつき、周りに集まって来る。
集まっては来るが介入したりはしない。
ま、ず、い。
目立っている。
冒険者として目立つのは良いが、こんなふうに目立ってしまって良いわけがない。
「とにかくこの場を離れるぞ!」
「ひゃっ!?」
メラクルの手を取ると見るからに顔を赤くした。
な、ん、で、そこで照れるんだ!?
「ととと、とにかく、ここで姫様に会わないと愛想尽かされて、姫様が他の人とこんなふうに手を取り合うことになるかもしれないわよ!
……絶対、ないけど」
俺はその言葉に他の男に抱きすくめられ、その男に笑顔を向けるユリーナを想像してしまう。
「ぐっ!」
俺は胸を押さえ片膝をつく。
それは想像だけで俺の胸を抉る。
その俺の様子に変化を見て、目の前でメラクルは仁王立ちでニヤリと笑う。
その姿はさながら魔王メラクル!
「……どうやら思い知ったようね。
ハ……赤騎士リューク。
いい加減お認めなさい、貴方は姫様なしで生きられない身体なのよ?」
メラクルは優美なその指先で挑発するように俺のあごに触れる。
なんたる屈辱!
しかし言っていることは確かな真実。
しかし会ってしまえば……。
そこにニコニコと聖女シーアがツッコミを入れる。
「リュークはどちらかといえば、メラクルさん無しでは生きられない身体なんですけどねぇ〜」
「しゃらぁぁぁああああああああぷ!!
黙りなさい、シーア!
いえ、役柄的にシーアお嬢様!!
お黙り下さい!」
役柄とか言うな。
そういえば、お嬢様役のシーアを護衛しているという設定だった。
「……っていうか、超目立ってるけど良いのか、大将?」
良いわけあるか!
シャレにならんわ!
俺は誤魔化すように何事もないフリをして立ち上がる。
「さ、お嬢様も楽しんで頂けたことだし、そろそろ行こうか」
大将、誤魔化せてないぞと黒騎士からの無言の視線が訴えかけている。
聖女シーアは肩を震わせてるから、絶対笑ってるよな?
こうなったら走って逃げるしかないなと俺が覚悟を決めて立ち上がったところ。
集まった人の中から治安を担当する兵士らしき数名が出てくる。
その内、真ん中の上司らしき茶髪の男が声を掛けてくる。
「そこ!!
何の騒ぎだ……って、メラクルさん!?
なんでここに……。
閣下と一緒に……はずじゃ……」
メラクルの隣に居た俺と目が合った瞬間に茶髪の男の動きが目を見開き固まる。
ギギギと音がしそうなほど、ゆっくりと首が動き俺たち4人の顔を確認する。
ああ、エルウィンは大公国に残って隊長してるんだな。
カスティアと結婚したばかりだし、教会に居た子供達も引き取ったから移動するのも大変だものな。
うんうん、と俺は心の中で頷く。
さて、俺は髪色も変えているが、どう見ても気付かれてしまったようだ。
……どうしよう!!
「トトト、トリアエズ、騒ぎを引き起こしていた者たちハ詰め所で話を聞く!
サササ、サア、皆ハ解散するように!」
声が裏返りながらなんとかそう言って、エルウィンは集まっていた人を解散させて俺たちを詰め所に移動させる。
うんうん、立派な隊長ぶりだ。
でも、声は裏返らないように気を付けよう!
「エルウィン〜、あんたからもこいつに何とか言ってやってよー」
頑張ってるエルウィンにメラクルは気にせず声を掛ける。
「メラクルさん、今は勘弁して……」
事情を知らない部下に首を傾げら、エルウィンは頭を抱える。
見知らぬ冒険者の女が上司に突然、親しげに話し掛けて来たんだもんな。
エルウィンの部下は公爵領の方から来た兵士なのだろう。
大公国の兵士ならメラクルを見たことがあってもおかしくないもんな。
俺のことは気付かれていないようなので、そこには一安心。
「うんうん、空気を読めよ、ポンコツ」
「……大将が諸悪の根源だけどな」
なんだと!?
あと、そこ!
聖女シーアは腹を抱えて笑うな!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます