第204話楽しいお酒の後
黒騎士から昨日酒場にいた者たちから収集した情報をまとめて報告を受ける。
なお、メラクルと聖女シーアは飲み過ぎた酒にやられて、ベッドの上でぐったりしている。
そう、2日酔いである!
では何故、酔っ払いどもの集中攻撃を浴びたはずの俺が2日酔いになっておらず、このポンコツが2日酔いでノックダウンさせられているのか。
まあ、なんだな。
あの後、酔っ払いどもを俺が言葉巧みにメラクルに誘導したからなんだが。
男と酒を飲み交わすより、見目麗しいメラクルとの飲み比べの方が良いに決まっている。
当然、メラクルの方に群がった。
なお、聖女シーアはただの自爆である。
自らの限界を計ることをせずに調子に乗って飲んでしまう、よくあるアレである。
楽しい席で調子に乗ってしまうことは、聖女であったとしても避けられることではなかった。
ただそれだけである。
普段は部屋を2部屋取り男女で部屋を分けているが、今回に限り大部屋で4人で泊まっている。
裏で公爵家からの支援が届くから予算の問題ではなく、冒険者ギルドで大金を見せつけた後のことを考えてのことだ。
大金を見せるということは余計な欲望を刺激することでもあるし、一度刺激された欲望は別の欲も刺激しやすい。
見目麗しい女性への不埒な行為などだ。
それを防ぐために今回は全員で一つの部屋に泊まり、それ自体を用心するためだ。
実際には公爵家の密偵が監視はしているが、用心に越したことはない。
「冒険者も最近、各地を周りやすくなったと評判がいい。
商人ギルドとの連携は上手くいってないところがあるらしい」
黒騎士が得た冒険者たちからの聞き取りの情報だ。
俺は少しだけ思案して答える。
「商人ギルドは健全であるとアピールしておこう。
逆に買い叩く悪質な商人がいるらしいから、それは見せしめにした方が効果的だな」
欲張るとこうなるという脅しと反対に誠実であれば儲かると示すことで、健全な商売と流通が促される。
それらが組み合わされれば人も物も動き、健全であればあるほど余裕が生まれる。
道は整備が行われ、必要なところに必要な物が届くようになる。
物だけではなく、人も情報も。
こうして世界全体の流れを変えるのだ。
ついでにメイド服を着た人気冒険者の存在も。
人は常に英雄を求める。
それらは勇者や時に聖女といった名を変えた偶像。
ゲーム設定の主人公たちは当人たちの気持ちはいざ知らず、さながらアイドルのようなもので世界救世の偶像だった。
だが、それらはともすれば利権を食い荒らす欲望の餌食になりやすい。
微妙なバランスの下、その時の彼らは欲望の渦に呑まれずに済んだが、それ故に世界は本当の意味で一つになとなることはなく、結果的に世界は滅びた。
またさらに黒騎士が話を聞いた中で、邪教集団の情報を知ってそうなやつと話がついてるそうだ。
その伝手から大公のモンスター化に付いて手掛かりが掴めないか洗ってみる、とのこと。
だがこっちは期待薄だ。
それよりも本命の暗黒神の遺跡。
これは噂程度でも大きな進展があるかもしれない。
遺跡専門で探索を続ける冒険者グループがそれらしき遺跡を見つけていたらしい。
「理不尽よ〜、理不尽だわぁ〜」
俺たちが話を続ける横で、頭を抱えるポンコツアイドルメラクル。
あの時、わんさかと寄って来た酔っ払いどもをメラクルに誘導したわけだが。
メラクルも調子に乗って挑戦を受け続けた結果、店にある酒の在庫が尽きるという事態にまでなった。
「酒強ぇな?」
「当たり前でしょ、迂闊に飲みつぶれると何されるか分かんないじゃん」
そりゃそうだ。
よく合コンも行ってたらしいしな。
飲み方ってもんを知ってるはずだ。
「その割には今回は限界だったみたいだな」
「飲ませておいて何を言う……」
俺はスッと目を逸らす。
メラクルが諦めたように息を吐くのが聞こえる。
「それに……あんたが一緒だったんだから大丈夫でしょ?」
信頼の証だったようだ。
俺は思わずメラクルを振り返る。
「俺が手を出すようだったら……」
どうするつもりだったんだ?
迂闊にもそんな言葉を途中まで吐いてしまう。
それをメラクルはフッと優しい笑みだけで返す。
分かってるでしょ?
そんな目で。
俺に手を出されてもいいと思っている、ではない。
こいつのことだ。
ぶん殴ってでも俺を止めたことだろう。
もとより俺が手を出さないことも知っているし、それも信用済みというわけだ。
メラクルが俺に好意を抱いていることは流石に俺も分かっている。
それでもメラクルがユリーナを裏切ることだけはない。
この女は自らが決めた誓いだけはとことんまで頑固だ。
……自らが廃人になったとしても。
それこそがゲーム設定の記憶の中のメラクルが廃人となった理由なのだろう。
最期の最期まで、メラクルは自らの意志を曲げることは出来なかったのだ。
ユリーナもそうだ。
ゲーム設定の記憶だけではない。
大公国を公爵家に吸収させるという決断にも当人の強い意志が感じられる。
何かに流された結果では、こうも混乱もなくまとまるはずがないのだ。
俺は大公国の混乱にトドメを刺した。
愛を囁きながら、彼女の祖国と父を殺したのだ。
「大将、話の続きだけ先にいいか?」
黒騎士の言葉で現実に戻る。
「ああ、悪い。頼む」
「モンスターの被害は酷いモンだな。
昨日のヤツらからの話でも、依頼で訪れた村や町が着いた時には廃墟と化してたところが幾つもあったとさ」
「もうそれほどか。
……やがて出現する魔神の被害はそれの比じゃないんだがな」
だから悪魔神復活に備えておかなければ手遅れになる。
ゲーム設定の記憶が手遅れになったように。
俺が再度考え込みそうになるのと同時に、今まで無言だった聖女シーアが青い顔で呟く。
「私、もうお酒飲みません……」
それ、また飲むヤツの
メラクルも小さく頷く。
「私も……」
お前もか、メラクル。
絶対、嘘やん……。
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