第203話メラクル先生の提唱
結局、メラクルはメイド服のままでいくことになった。
まさか、メイド服を着たポンコツと一緒にハバネロ公爵が、堂々とウロウロしたりするなど思う人はいないだろう。
非常識過ぎるという意味で……。
それがメラクル先生が提唱する恐るべき理由であった。
その答えに俺は腕を組み
「なるほど、一理ある」
「待て、大将!! 待て!」
「あらぁ〜、公爵さんもはっちゃけてしまわれたんですねぇ〜」
俺が納得しかけた所で黒騎士と聖女シーアからの待ったが掛かる。
「はっ!?
危うくメラクルの罠に掛かるところであった!」
恐るべし、メラクルのポンコツワールド!!
全ての空間をポンコツに染める!
まあ、それも悪くは……。
「大将、大丈夫か!?
お嬢の影響受けすぎてないか?」
「ムキー! 私の影響って何よ!」
「皆さん、元気ですねぇ〜」
酒が入り真っ赤な顔にニコニコと笑みを浮かべ、聖女シーアがそう締めくくる。
そういえば、聖女シーアって酒強いのかな、大丈夫だろうか。
ニコニコ顔のまま、特に変わった様子はないが。
「それより大将。
今の状況と大将の指示、連絡しておいたから」
「ああ、悪いな」
現状、大型どころか要塞型と呼ばれる巨大モンスターさえも出現が始まっている。
公爵領に出現した要塞型モンスターは今回討伐したところだ。
集団で討伐して少しずつ弱らせる方法が確実だが、最強戦力で当たるのも効果的だ。
ゲーム設定の記憶のある俺と聖女シーアがいるので、記憶の中で見たことのある要塞型モンスターなら討伐パターンを掴めている。
なので今回の討伐対象であるドラゴンの要塞型モンスターはさながらチェスのごとく、一手ずつ詰みまでの手順を追っていくように討伐した。
「何というか、あんな凶悪そうなモンスターがなす術もなく討伐されていくのを見ると、討伐が簡単だと勘違いしそうになるわ……。
もうちょっとこう……激しいバトルの末に私の必殺技が覚醒してようやく、とかないわけ!?
1、2、3で、討伐って……やっておいてなんだけど、なんでそうなったの?」
まず事前に地形と周辺の状況は頭に叩き込む。
要塞型モンスターも常にジッとしているわけでもないから、都合の良いポイントまで誘い出す。
討伐はそんなふうに始まる前から用意して、戦闘はその流れを辿るだけ。
討伐が目的であって戦闘を楽しむわけでもないからな。
戦闘時には、俺が要塞型モンスターの目の前に出てところにヤツが反射的に突撃して来た。
それを俺が横に避けて、建物の影に隠れていた黒騎士が飛び出して斜め横から必殺技を放つ。
その必殺技のノックバックを受けて体勢を崩し、腹を見せたところを聖女シーアの魔導力を借りて、力を溜め待ち構えたメラクルが必殺技を一閃。
聖女シーアは自らの戦闘技術こそないが、魔導力自体は結構あるから、今回はそれをメラクルの必殺技のエネルギーとした。
「要塞型の行動パターンも知ってるからな。
それに激しいバトルとかリスクが高いだけで、なんにもならんだろが」
そんなのは物語の中だけで十分だ。
まあ、今回は要塞型モンスターの中でもドラゴンの上手く腹部分の柔らかい部位、つまり弱点を突くことであっさりと貫けた。
俺の想定以上に、聖女シーアの魔導力を上乗せしたメラクルの必殺技の威力が高かったおかげでもある。
以前はメラクルは必殺技を使えなかった。
同時にゲーム設定の方でも最後まで使うことはなかったので、メラクルの必殺技の威力は不確定要素でもあった。
こうしてあっさり討伐出来たから良かったが、要塞型モンスターとまともにぶつかれば甚大な被害をもたらしたのは間違いないのだから。
実際、今も帝国と大公国の奥に要塞型モンスターが出現しており、大きな被害をもたらしているようだ。
「ずるい!
ハバネロずるい!!
私が真っ正面から戦ってたら、剣を折って大ピンチになってたかもしれないのに、ずるい!!
まるで詐欺だ!
緊張感溢れるバトルはどこにいったの!」
「俺の戦い方はこんなんだろうが!!」
「そうだ、あんたはそんなだった!!」
ポンコツは頭を抱えてわめく。
そんなにバトルしたかったのか?
俺は遠慮する。
勝たねばならん戦いにそんな遊びをしてられるか!
厳しい言い方をするなら、そうやって負ける奴は負けるべくして負けるんだよ。
命懸けで勝ちたい、勝たなければならないなら必死に考えて準備しろ!
ゲーム設定の主人公たちはそれが足りずに敗れたのだ。
「それに要塞型モンスターに真っ正面からぶつかろうとすんな!
あと真っ正面からぶつかってるのに剣を折るだけで済むなら、そいつは化け物だぞ!
あと俺の名はリュークだ」
ハバネロと呼ぶな、ポンコツ!!
シャレにならんだろが!!!
俺がそう言うとメラクルは半目でになって。
「リューク〜?
ちょっと格好良い名前過ぎない〜?」
「おいコラ、レッドが格好悪いってのか、あぁ〜ん?
メラクルをポンコツって名前に改名させんぞ、ゴラァ!」
額をぶつけ合って睨み合い。
「大将〜、ほんとどうしたんだ!?」
「楽しいですねぇ〜」
俺はジタバタするポンコツの額を手で押さえ、2人の方に向いて言った。
「冒険者だからな。
冒険者らしいレベルに口調も態度も合わせてるんだ」
前も冒険者赤騎士になった時もそうだったが、大事なのは雰囲気を変えることだ。
王国でも上位貴族であるハバネロ公爵の姿形をしていても、態度も冒険者に染まってさえいればまず疑われること自体がなくなる。
人は見たいものを見る生き物だという典型だ。
「でも、メラクルさん。
聖騎士じゃなかったでしたっけ?」
「……ポンコツのことは気にすんな」
冒険者に染まり切ってるとか、こいつの才能に違いない。
あと俺のせいだけど、こいつこれでも王国の侯爵家の養女なんだぜ?
メイド服を着たガラの悪いポンコツ冒険者にしか見えねぇけどな。
「ムキー!
好き勝手言ってェェエエエエ!!
みんなぁー!!
このリュークに酒飲みで勝ったら、賞金くれるってぇーーー!!!!」
突然、メラクルが酒を掲げて、酒場の酔っ払いどもに大きく声を掛ける。
ただでさえ美人でメイド服で目立つメラクルの呼び掛けに。
「テメェえええええええ!!!!
このポンコツが何てことしやがる!?」
皆が酒を持って殺到。
「こうなりゃヤケだ、全員まとめてかかってきやがれぇぇええ!!!」
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