第198話人選間違い
一過性……とか言うとメラクルにどやされるのは間違いないが、好意があるのは知っている。
それだけで簡単に魔導力が移るならば、恋人同士は魔導力持ちだらけになるというものだ。
ましてや、昏睡状態だった俺が目覚めるほどの条件としては安易過ぎる。
それに人為的に魔導力持ちをもっと増やせるならば、人々は愛のある関係など容易く打ち砕くような唾棄すべき行為も行っていただろう。
魔導力ない相手からの寝取りや浮気とか洗脳も、な。
それもまた人の欲望の持つ一端だ。
「まず、一過性の好意では意味がない、ということですよ」
その疑問を問うとそう言って聖女シーアが微笑む。
それと同時に、Dr.クレメンスが大きく頷き、その後ろの研究員たちがソワソワしながら隣同士の顔を見て照れている。
実験したのね……、そしてカップルが成立したのね。
「……互いに納得済みならいい。
そうでない情の伴わぬ関係を強要しているならば、徹底的に潰す。
分かっているな?」
俺さぁ〜、そういうの嫌いなんだよねぇー。
ユリーナとの関係がさぁ〜、絶望的だったろ?
なんというかさぁ〜、そういうの聞くと許してやる気になれねぇんだよなぁ?
なぁ? 分かってる?
そんな意思を込めてDr.クレメンスを射抜くと、怯えながらメラクルの影に隠れる。
「ももも、もちろんです!
ほんとです!
そんなことしてません!
してません!!
こここ、公爵様の殺気怖すぎます!!!
……あっ!」
Dr.クレメンスは普段の堂々としたマッドサイエンティスト感が消え、怯えた表情で何度も頷くが……最後に何かに思い至ったらしい。
情のない相手との何かがあったな?
「……話せ」
愛ある関係をぶち壊していたら、どういう罰を与えるべきか思案しながら先を促す。
「じょ、じょじょ情あります!
ありますから!
ね? トーマス君!!
そうですよね?
情、あるって言って!
お願いします!
今だけでいいからぁぁああああ!!!」
「へ!?」
研究員に混じっている兵士のはずのトーマスは、涙目のDr.クレメンスに突然話を振られてキョトンとする。
曰く、ユリーナが俺にキスをしていた話を聞いて、研究魂に火が付きDr.クレメンスはたまたまそばに居たトーマスの唇を情熱的に奪ったらしい。
それはもう情熱的に。
その直後に魔導力を測ると一定の変化が現れたそうだ。
ああ、うん。
「……ええっと、他には?」
「断言して言わせていただきます!
他には誰も襲ってません!!
あとは研究員の中から公募で検証を!
魔導力持ちの兵士のカップルとか、反対に魔導力なしのカップル同士とか、あくまで立候補のみです!!」
その後は出てきたデータの検証に明け暮れたとか。
襲うとか言い方はどうかと思うが……つまりDr.クレメンスからトーマスに、だろ?
……なんの問題もないよね?
トーマスに視線を向けると、彼はDr.クレメンスの隣に進み出て、真っ赤な顔で何度も頷く。
そうだよねぇ〜……。
命懸けで帝国を裏切ってDr.クレメンスと逃げて来たんだよ?
愛も無く出来るマネじゃないんだよ?
鈍感マッドサイエンティスト風天然お姉様と俺の中で位置付けられたDr.クレメンスは、ブルブル震えながら俺を見ている。
「……まあ、そのなんだ。
結婚しろなどとは言わないが、とりあえず彼氏彼女から始めてお互いを知ってみてはどうかなぁ〜?」
「ひょえ!?
わわわ、私に彼氏!
そそそ、それも年下の可愛くて将来有望な彼氏が!!!」
え? 将来有望?
思わずトーマスを見てしまう。
トーマスは恐縮している様子で赤い顔のままモジモジしてる。
確かに事実上の俺の側近であるアルクの英才教育を受け、大戦でも目覚ましい活躍を見せた。
能力としてもいずれは俺に匹敵するほどの隠れた逸材と言えなくもない。
それよりも……。
「クレメンスならいつでも彼氏を作れたんじゃないのか?」
理系的美女なんだから選び放題だろうに。
もちろん無作為に彼氏を作る行為が良いというわけではないが。
「嫌ですねぇ〜、公爵様ったら。
こんな理系喪女に彼氏なんて出来るわけないじゃないですかぁ〜。
メラクルさんにも相談してたんですが、これがなかなか……」
自己評価が低過ぎる……。
考えてみれば、そうなることも仕方がないのかもしれない。
Dr.クレメンスはパワーディメンション開発など、世界的にみても魔導力研究において1人者と言えよう。
この若さでそこに至るには文字通り研究づくめの生き方をする他ない。
その彼女が帝国を逃げ出すほど大戦前の帝国は荒れていたということか。
ゲーム設定では当てもなく逃げ回っているようにも思えた。
だから虎の子の交渉材料であるパワーディメンションを主人公チームに渡したりしたのだろう。
逃げ切れないことを覚悟して。
当たり前のことだが、亡命の当てもなく他国に逃げることなどない。
Dr.クレメンスは当初、王国の軍閥派の仲介で王都へ逃げ込むはずだった。
それが逃げた矢先に
その背景には俺は王国のウェルロイヤ・グラーシュ王の働きかけがあったと考えている。
王は帝国との戦いに上手に負けることを考えていただろうから、パワーディメンションを王国が手に入れて大戦が拮抗することを望まなかったからだ。
しかも追い詰められたそんな状況下で遭遇したのが、悪名高きハバネロ公爵ときたものだ。
亡命先からそんな理解不能な理由で見捨てられたDr.クレメンスもあの日、さぞ泣きたい気分だっただろう。
出来ればDr.クレメンスにも、トーマスもだが……幸せを掴んでもらいたいものだ。
ただまあ、それにしても相談相手メラクルって……。
「お前、それ明らかな人選間違いだぞ?」
「酷い!!!」
メラクルは当然の如く、心外だとでも言わんばかりに怒り出す。
「だったら、お前はなんて答えたんだよ?」
「ご、合コンに参加してみたら良いよって……」
「それで? 彼氏は?」
メラクルはそっと顔を背け、『彼氏とかいらないし……』と小さな声でぶつくさ言い出す。
聖女シーアはその時のことを思い出すようにニコニコと笑みを浮かべる。
「面白かったですねぇ、合コン。
初めてそういうのに参加しました。
護衛の人たちが多過ぎて最後は立食パーティーになってましたのと、私たちのテーブルだけ女性がメラクルさん、クレメンスさんとヒエルナさんと私。
男性がトーマスさんと黒騎士さんで、他の皆さんと離れていたのは不思議でしたけど」
それ、明らかに隔離されてますやん……。
「そりゃそうだ。
今更、侯爵令嬢とか聖女様とか、さらには主人の側妃候補のお嬢を普通の合コンに参加させられるわけがねぇしな」
いつのまにか壁にもたれるようにしながら、黒騎士が部屋の中にいて俺の考えを代弁した。
「黒騎士……居たんだ?」
「大将〜、そりゃねぇぜ。
眠ってる間もずっと護衛してたんだぜ?」
気配消してたら分かんないじゃん。
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