(閑話)いつかの残照-7 とある出会いの話後

「おーほっほっほ!」


 屋根の上でまたしても使用人の作業服を着た謎の茜髪の少女が高笑いをする。


「先輩! せーんぱーーーい!!

 昨日に引き続いて何でまたやるんですか!?

 バカなんですか!

 バカなんですか!?」


 空色の髪の少女も彼女の足元で這いつくばり叫んでいる。

 彼女が同じ言葉を何故、2回言ったのか。

 きっと大事なことだからに違いない。


「ほえ? 昨日に引き続きって何?」


「なあ、あの屋根に登っている娘大丈夫か?」

 赤髪の少年はあえて、頭が大丈夫かとは問わなかった。

 それは赤髪の少年が見せる優しい心遣いだった。


 誰も知り得ない余談ではあるが、もしも彼がこのまま素直で優しい青年に成長していたら……。

 世界はきっとさっさと滅びたことだろう。


 そんな皮肉な現実こそが世界というものである。


 もちろん、彼が歪んで成長すれば世界が救われるという意味ではない。

 未だ世界は不透明なままである。


 隣の黒髪の少女はそんな赤髪の少年の心遣いを叩き潰すように、首を横に振った。


「アレはそういう娘なので」

 何気にひどい。


「私のー! 私の忠誠心が叫ぶのよー!

 Y・U・R・I・伸ばしてー・N・A!!」

「先輩の忠誠心、ちょっとなんか変です!」

「ぬぅわんですってぇえええ!!!」


 赤髪の少年は屋根の上で手を振り、応援の言葉を叫ぶ茜色の髪の少女を指差し。


「ユリーナ、呼んでるよ?」

 これまた優しく隣の少女に呼び掛ける。


 しかし、黒髪の少女はこれまた耳を塞ぎ、頭を抱え込むようにして首を横に振る。


「聞こえなーい!

 聞こえなーい!!」


 ひとしきり屋根の上の2人の存在を否定した後、満開のキラキラした笑みで微笑みを少年に見せる。


「さっ! お父様たちがお待ちのはずです。そろそろ行きましょう!」


 ユリーナのその見目麗しいエセエンジェルスマイルフラッシュを目の前で浴びた少年は、髪同様に素直に顔を真っ赤にさせて頷いた。


 そうして屋根の上の2人を残し、赤髪の少年と黒髪の少女は村1番の大きな屋敷の方に歩いて行った。


 それをぼんやりと2人の少女は見送り……。


「あー、お姫様ひいさまのエンジェルスマイルパワーを目の前で浴びちゃったかぁ〜。

 堕ちたわね、王子様」


 空色髪の少女はそれに同意するように頷く。


「先輩、面食いなんですからどうです?

 姫様ひめさまの負担を減らすために、あの王子様のお手付きになって付いて行ってみては?」


 それを言われ茜髪の少女はうげぇと嫌そうな顔。


「私、ああいう王子様くさいのちょっと……」

「そういうこと言って、あっさり堕とされて泣く羽目になるんですよ」


 空色髪はジト目で自分の先輩にツッコミを入れる。


「そんなこと言ったら、無自覚に堕としたお姫様も堕とされて泣くかもしれないってことじゃない!」


 空色髪の少女は屋根の上で手をバタバタしながら興奮する先輩を、変わらずジト目で見る。


 それから、まあ、それはどうか分かりませんがと前置きして言葉を続ける。


「人は変わるんです。

 今だけ見ても人の本質は分かりませんよ。

 そうやって近視眼的に物事を捉えると、大きな失敗しますよ?

 男子3日会わざれば刮目して目をば見よ、です」


 言っている事は非常に立派だが、空色髪の少女は屋根の上で立ち上がれずに子鹿のように震えたままでドヤ顔をしている。


 まったく格好がつかない。


「コーデリア、あんた分かったようなこと言ってるけど、初恋もまだよね?」

「世の真理は変わらぬものです。

 恋は盲目、恋をした方が分からなくなるものです」


 えっへんとシャチホコのように胸を張るが、やはり屋根の上で、以下略。


「それなら私にも分かるでしょ?」

「それはほら、先輩ですから……」


 コーデリアはそっと目を逸らす。


「ムキー! ……あっ!?」


 興奮した茜色髪の少女はお約束の如く、またしても屋根の上から滑り落ちそうになり、辛うじて空色髪の少女を引っ掴み、踏ん張った。


「ちょっ!? せんぱーい!

 私を引っ張らないでー!」


「何を言うの!!

 死ぬ時は一緒だと約束したじゃない!」


「そんな約束してませーん!

 離してー!!

 1人で落ちてー!!」


「おーっほっほっほ!

 貴女も道連れよー!」


「いやぁぁあああ!!」


 そうして2人が屋根から落ちたかどうかは、誰も知らない。

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