(閑話)いつかの残照-6 とある出会いの話前

 ハバネロとユリーナの出会いの時。

 1人のポンコツが一緒だったことを知る者は多くない。






 帝国との大戦も残るは皇帝との話し合いだけとなった。

 ぽっくぽっくと馬に乗りながら移動中のこと、メラクルが突然、変なことを言い出した。


 ……まあ、いつものことなんだが。


「ねえ、ハバネロ。

 私、以前あんたと会ったことある?」


「記憶がないからな。

 知らねぇよ。

 ……っていうか、お前が会った記憶が無いならないだろ?」


 メラクルはこめかみを指でグリグリしながら、う〜んと唸る。


「なんだよ?

 会ったことあんのかよ」


 流石にそれは意外過ぎるぞ?

 確かに大公国へ訪問したことがある訳だから見かけてもおかしくないが。


「ない……と思うんだけど〜」


 だからないんだったらないだろ。


 未だに戻らぬ記憶。

 代わりに頭の中にあるゲーム設定という記憶は、両親と共に行ったという大公国での記憶は浮かび上がってこない。


 そこで俺ははた、と衝撃的な真実に気付いてしまう。

 幼い頃にユリーナと交流を深めていた事実、それは……。


「もしや……俺とユリーナは、幼馴染なのか?」

「知らないわよ!

 姫様、何か言ってたの?」


 俺は静かに首を横に振る。


「じゃあ違うんじゃない?」


 俺はメラクルの馬にポテポテと横付けして……叫ぶ。


「貴様ァァアアア!!

 夢ぐらい見たっていいだろうがァァ!!

 もしかしたら、俺とユリーナはあの伝説の教会で将来を誓い合った幼馴染かもしれねぇだろ!!」


 幼馴染と言ったら、アレだぞ!

 全俺の憧れだぞ!

 それが婚約者だぞ!

 超憧れるぅぅ!!


「あの伝説の教会って何処よ……」


 俺の心の叫びにメラクルが真人間ぽく呆れながら至極当然の疑問を返す。


「さあ?

 きっと結婚を誓い合うと無人なのに鐘が鳴る不思議な教会だ」


 きっと誰かの心の中にあるはずだ。


「それ、完全にホラーじゃないの……」


 メラクルが首をがっくしと下げると、乗っている馬もがっくしと首を下げた。

 凄いね、人馬一体?


 俺は自然を装い胸元にあるユリーナから貰ったネックレスを、握り潰さぬように気を付けながら握る。


 ……まあ、そんな話をしてもユリーナにもう再会することさえ出来ないかもしれないがな。

 そんな風に胸を締め付けられながら苦笑する。






 ……それは10年ほど前のこと。


「これ、教会なのか?」

「んー、村ではここを教会代わりに使ってたみたい」


 2人の子供が一軒の集会所を兼ね備えた元教会を訪れたのは偶然だ。


 大公国の公都からも近く、どちらかと言えば大公家の保養所の役割を持つその村は、冒険をしたい盛りの子供たちには丁度良い場所と言えたかもしれない。


「おーほっほっほ!

 よくぞここに辿り着いたわね!

 褒めてあげるわ!」

「何ヤツ!?」


 赤髪の男の子は咄嗟であっても、黒髪の女の子を庇い前に出る。

 小刀を構え油断なく男の子は声のした方を確認する。


 すると屋根の上で腕組みと仁王立ちをして立つお仕着せ、つまり使用人の作業服を来た茜色の髪の女の子が1人と……。


 仁王立ちで立つ少女の足元で身体をガクガクさせながら、震える空色髪の少女が居た。


「ちょ、ちょっとせせせせ先輩!

 降りましょ!

 もう降りましょうよ!

 あとその高笑いなんなんですか!?

 似合ってませんよ!!」


「似合わないのは余計なお世話よ!

 それに何言ってんのよ!

 さっき登ったばっかりでしょ!」


 ぎゃおぎゃおと女2人であっても姦しい、その人物たちは赤髪少年と黒髪少女をそっちのけで騒ぎ立てている。


「行こうか、ユリーナ」


 少年はユリーナと呼んだ少女の方を振り向きそう言って、呼ばれた方の少女も慣れているように騒ぐ2人を無視して頷ききびすを返す。


 2人が歩いて行った後も屋根の上の2人は騒ぎ続ける。


「それになんですか!

 なんでわざわざ屋根の上に上がって高笑いしたんですか!

 意味がサッパリで理解が不能なのですよ!?」


「何故、屋根の上に上がって高笑いしたかですって!?

 決まっているでしょ!

 お姫様ひいさまに最高のえんたーてぃなーを提供するためよ!

 愛する2人の前に立ち塞がる巨大な敵!

 それを乗り越えて2人は永遠の愛を誓うのよ!


 ……ああ、私も早く優しくて、イケメンで、頭が良くて、私より強くて、頼り甲斐があって、普段は私の冗談にも付き合ってくれて、包容力があって、一途で、ピンチになったら助けてくれて、そして何よりお金持ちの運命の相手に出逢いたい」


 先輩と呼ばれた茜色髪のお仕着せ少女は熱に浮かされたように、両手を組んで空を見上げる。


 ……ようにではなく、本当に熱に浮かされているのかもしれない、きっとそうだ。


 足下で震えていた空色髪の少女は、呆れ切ったジト目になってしまう。


「……そんな人居ませんって。

 そんなこと言ってるとイキ遅れになりますよ?」


「ムキー!

 そんなことないわよ!

 運命の人は居るわよ!

 世界の!

 何処かに!


 ……あっ!?

 ちょっとお姫様ひいさまが行っちゃうじゃない!

 ちょっと待っ、あーーーーー!?」


「先輩!?

 メラクルせんぱーーーーい!!

 救護班!!

 救護はぁぁぁああああん!!!!」


 余談ではあるが、その時に屋根から落ちたショックで茜色の髪の娘が、少しだけ、ほんの少しだけこの時のことを忘れてしまったとか。


 あくまで余談である。

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