(閑話)いつかの残照-2 サビナと合コン前
メラクルが閣下の暗殺に来て、あっさり失敗して愛人(偽)にされてしばらくの事。
何故か周りからも閣下からもすっかり信用されて、メイドとして働く傍ら何故か(大事なことなので2回)盗賊退治にまで同行し、着実に公爵家内部でその(愛人の)地位を高めてしまっていた。
「サビナ〜、合コン行こうよ、合コン〜」
そんなメラクルに私はとんでもない誘いを受ける。
「合、コン……?」
休憩室になっている一室にメイド姿のメラクルに引っ張られ、椅子に座らされると開口一番彼女はそう言った。
「うん、合コン」
メラクルはぐで〜んとテーブルに頭を乗せる。
それから、彼女はお仕着せのポケットからお気に入りのビスケット……本来なら閣下のために用意されている高級ビスケットを取り出し、口にくわえモグモグと食べ出す。
ちなみにそんな行動を見ても、閣下は何も言わない。
ただ単に閣下がビスケットにそこまでのこだわりがないだけなのだが、それは見る人が見れば……というか屋敷の者全員から特別扱いにしか見えない。
このテーブルに伸びて、だらしなくビスケットをモグモグしている生物は、自分の立場が理解出来ているのだろうか?
実態はどうあれ、公爵閣下の愛人扱い……いいや、最近では公爵閣下が優しくなられたことも加味され
もちろん閣下が優しくなられたのは閣下ご自身のご事情に過ぎず、この奇妙な同僚の所為ではない事は真実を知る者のみの秘密だ。
だからこそ、メラクルは暗殺に来ていた真実を他の人に知られる事はかなりまずい。
その事で何より危険になるのは当人であるはずなのだが……。
「メラクル……。
貴女、今の状況分かってる……?」
分かってる、と思うが、メラクルを見ていると実は分かっていないのかしら、と疑問に思ってしまう。
「分かってるわよ〜?
愛人じゃない事がバレるとまずいでしょ〜?
ほら、衛兵長のアルクとか黒騎士とか事情を知っている人だけなら大丈夫でしょ?」
全員、顔見知りというか同僚の場合、それは合コンと言うのだろうか?
ただの仲間同士の慰労会の気がするけど……。
もしかして合コンの意味を勘違いしてる?
「メラクル。
貴女、合コンがどんなものか知ってるの?」
ちなみに私は噂ぐらいにしか知らない。
合コンに誘われるような性格でもないし、閣下の護衛や執務の仕事が忙しくて、そういうものに関わりがない。
それに末端とは言え、私も貴族の娘だから庶民のように遊び歩くというのは良ろしくないのだ。
「ふっふっふ」
のべ〜っとテーブルに伸びたまま、メラクルが不敵な笑いをする。
どうでも良いけど、口の端にビスケットのカスがついたままになってるわよ。
「もちろん知ってるわよ!
大公国では名の知れた合コンマスターと言えば、私のことよ!」
名が知れるぐらい合コンに参加して独り身って……大問題じゃないかしら?
私は彼女の名誉のため、何も言わないであげた。
私も独り身だし。
余談ではあるが、その合コンマスターよりもずっと早くにサビナは独り身を脱出するわけだが、それも未来の話。
今は気にする事ではない。
そんな訳で半休が重なったある日、一軒の店に皆で集まり、乾杯とばかりにお酒の杯をぶつける。
集まったメンバーはアルクとカリー、それにエルウィン、メラクルと私にメラクルの同僚で侍女のターニャ。
ターニャは男爵家の娘だが、新興の家でどちらかといえば庶民寄りなので、そこまで堅苦しくはないとか。
コウはアルクの代わりに屋敷の警護の取りまとめ、黒騎士は閣下の警護を引き受けてくれたのでこの場には居ない。
「あ、あの! メラクルさん!
合コンに誘われて来た訳ですけど、こここ公爵閣下の愛人である貴女が、他の男の人と一緒に居るのがバレたら私たち全員処刑されるんじゃないでしょうか!?」
本物の愛人ならそうなんだろうけど……、というか事情を知らないこの娘を連れて来て大丈夫だったの!?
「大丈夫よ〜、あいつも今日の合コンのこと知ってるもん」
「ひょえ!?
じゃあ、私たちこれで最期!?」
お酒の杯を恐怖で落とさぬように、両手で抱えながらターニャはガタガタと震えながら涙目になった。
それに対し、メラクルはケラケラと笑いながら杯を傾け言った。
「大丈夫よ〜。
あいつも『合コン〜? 良いけど気を付けろよ』と言ってくれてたし」
それって、バレないように気を付けろよと言ったんじゃないかしら?
それって愛人が合コン行ってしまった時点で、致命的じゃないかしら?
まあ、閣下もメンバーもメンバーだから、何かを疑う気にもなれなかっただけだろうけど。
こうして突如開催された合コンと言う名のただの慰労会の夜はふけていく。
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