(閑話)いつかの残照-1
王国の大きな王城。
その中のハバネロが執務室に使っている一室。
「結局さぁ〜、悪魔神なんてどうするの〜?」
日が傾き、もうじき夜が来るだろう。
大戦が終わっても、ハバネロは公爵領に戻ることなく王都に残り戦後処理を続けていた。
アイドル化計画とやらの休憩がてらに、ドレス姿で部屋にやって来た私はハバネロとサビナと自分の分のお茶を淹れながら尋ねた。
王国の王城はそれ自体が小さな村並みに広くでかい。
小さい村でも同じ面積の建物だと超デカい、言葉の不思議。
まあ、それはどうでもいいとして。
別に会話の内容はなんでも良かったのだが、真面目に戦後処理の仕事をこなすハバネロが段々と疲れを見せていたので、気分を変えさせたかったのだ。
滅びをもたらす暗黒神の話が気分転換になるかは、別として。
それが分かってか、私の問いにすぐには答えず、ハバネロは目を細め苦笑いの微笑を浮かべる。
そして一言。
「そのドレス似合ってるな。
やはりメラクルは美人だ」
臆面もなく、そう言いやがったァァァアアアア!!!
き、貴様という男は!
なんという……ジゴロ?
スケコマシ?
変態?
詐欺師?
実際に口に出して文句を言うと、こめかみグリグリを喰らうので、口には出せないけれど。
代わりに私はソファーの前のテーブルをバンバンと叩き悶える。
顔が熱い!
これがハバネロの策略なのね!?
このメラクルさんを悶えさせるなんて、なんてヤツよ!
「
なのにヤツは涼しい顔でお茶の心配しやがった。
分かって言ってるのかなぁ〜?
思えば姫様に対しても、臆面もなく美辞麗句を並べ立てるヤツだったと思い返す。
とりあえず溢れたお茶をハバネロの前に置いて、サビナには淹れたてのお茶を渡しておいた。
ハバネロがぶつぶつ文句を言っていたが、知らな〜い。
私が知らんぷりでソファーで足をバタバタさせながらお茶を飲んでいるのを見て、ハバネロはため息を一つ。
サビナにも目を向けてから手を止めて、悪魔神について話しだす。
「邪神と同様……あくまでゲーム設定の話だが、邪神は主人公チームによる邪神への直接のアタックで討伐しているんだが、それと同様にするしかない」
私はポケットからビスケットを取り出し、口の中に放り込む。
「でも悪魔神は邪神の20倍以上の強さなんでしょ?
勝てるものなの?」
モグモグと口を動かしながら、頭も動かす私。
確か邪神の戦力が50万で悪魔神が1000万だっけ?
桁が違うとかどうとか。
「……よく覚えてたな。
ポンコツのくせに変なところで優秀だよな」
「ムキー!
ポンコツって何よ、ポンコツって!!
あんたのせいで公爵領で子供たちが時々、お姉ちゃんってポンコツなの〜、と言ってくることがあるのよ!
あんたのせいよ!
責任取れ!!」
いつもの通りに勢いのままに言い放った私だが、言うてはいけないことまで勢いのままに言い放った気がするが気にしてはいけない、いけないったらいけない。
ハバネロは調子良く言い返すではなく、苦笑して優しい目をする。
最近はいつもこうだ。
それが私にはむず痒くて、そして歯痒い。
優しく見守られているようで落ち着かないのもあるし、もっと前みたいに勢いのままに喧嘩越しにやり合いたくもある。
「出来る範囲での責任は、な」
そう言ってハバネロは微笑した。
違う。
そうじゃない。
本当に取って欲しい責任は取ってくれないくせに。
ハバネロは困った顔をして立ち上がり、私に手が届く側までやって来る。
それから手を伸ばし私の頭に触れようとして……、でも触れることなくその手を引っ込める。
代わりにではないけれど、私の向かいのソファーに座り、目は優しく笑い私が落ち着くのを見守り待つ。
そうして私が不貞腐れるのを止め、顔を上げてハバネロを見るタイミングに合わせて話を戻した。
「悪魔神は確かに邪神より強いことは想定されるが、実際はそこまで絶望的な差はないかもな。
邪神で封印出来る訳だからな。
……もっともゲーム設定の記憶でも主人公チームは悪魔神にまで到達していないから、俺も設定で分かる範囲だ」
設定で分かるということ自体が異常なことだがな、とハバネロは自嘲気味に呟く。
分かるんだから良いんじゃないの〜?
……なぁんて私は間抜けにもそう思ったりもしたけれど、その考え足らずを私は後日激しく後悔することになった。
「……1000万の戦力とは操れるモンスターの能力や数のことだ」
ハバネロがそこからさらに細かく要塞型モンスターのことや魔神のことなど説明してくれたけれど、この時の私は話半分に聞くだけだった。
「ほ〜ん」
「ま・じ・めに聞け!」
ハバネロは私のこめかみをグリグリと。
「痛い痛い!
何すんのよ、この極悪非道!」
私はハバネロの非道なこめかみグリグリに抗議すると、ハバネロもいつもの如く言い返してくる。
「うっせぇ、ポンコツ!」
「何よ!」
ムキーとハバネロと睨み合う。
悪魔神によって滅びを迎えようとする世界だけど、それでもこんな日が続くんだと勝手に思っていた。
終わらない日々などないというのに。
人はそのことを大切に、今という時を未来を見据えてどう生きるかが大切だということを……私は気付かずにいた。
そんな愚かな私を。
いつかの残照は、今も私の心の中を締め付けていた。
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