第188話ついに発現! メラクル必殺技!

「パールハーバー、覚悟なさい」


 決めポーズをきっちり決めた後にキリリとした顔でメラクルは、パールハーバーに言い放つ。


 どうしてだろう。

 緊張感漂う状況なのに、どこか集中出来ないのは。

 私だけ?


 それに対しパールハーバーは憎々しげな表情をしていたが、一転。

 フッと小さく息を吐くと……笑った。


 それはかつて聖騎士の中の聖騎士と呼ばれた彼を思い出すもの。

 嫌味を含んだものではなく、むしろ懐かしさすら感じているかのように。


「変わらんな、メラクル・バルリット。

 死んでもその性分は変わらなかったか」


 即座にキャリアたちが反応する。


「やはりタイチョーはすでに!?」

「死んで幽霊になっても私たちと決めポーズをするために!?」


 キャリアとサリーが声を合わせてそう言った。

 それって何か嫌ね?


「どう見ても生きてるでしょ!」


 本当にいつものやり取り。

 大公国に居た時から、どんな時でも彼女たちは変わらない。

 前向きでひたむきで。


 それを目の前の聖騎士の中の聖騎士と呼ばれた男が壊しかけ、悪逆非道と呼ばれた男が救った。


 数奇と言うべき関わり。


「今更、言葉など不要。

 貴様らをここで殺し、己の正義を証明するのみ」


 パールハーバーは剣を構える。

 そこに……。


 レッドがニヤリと悪人笑いをしながら、パールハーバーに言い放つ。


「手前勝手な正義もあったもんだな。

 もっとも、多くの正義は手前勝手なモノだ。

 お前たち邪教集団も自分達こそ世界を救う正義だと信じているのだろうがな」


 パールハーバーは笑みを完全に消して、暗く冷たい表情で言い返す。


「ふん……、己の中の正義も持たぬ者が何を語るか」


 だがそのパールハーバーの言葉をレッドは鼻で笑う。


「その正義とやらに巻き込まれるのは、いつも無関係な人間だということを忘れるなよ?

 永遠にな」

「ほざけ! 無関係な大公国の民を苦しめた貴様が言えたことか!!」


 激昂するパールハーバーと反対に、レッドは私に寄りかかったまま呆れさえ滲ませて答える。

 少しだけ息が苦しそうだ。

 そっと彼に手を添えるとギュッと握り返される。


「……いや、公都で邪教集団と組んで、街の人を今、苦しめたのお前じゃねぇか。

 己1人のための正義など、誰も何も救わない。

 ……自分自身もな。

 ……お前が分かることは永遠に無いんだろうけどな。

 いけ! メラクルやっちまえ!」


 そこまで言ってレッドは突如、メラクルに話を振る。


「いや、あんたは動かないんかい!

 まあ、私の因縁だからやるけどさぁ〜」


 彼の身体がもう碌に動かないことを私以外の誰も……。

 彼は笑みを浮かべたまま、私にだけ小さくごめんなと。


 その彼の囁いた言葉もまた、メラクルも他の誰も気付いた様子はない。


 ……気付く様子もなくメラクルは再度剣を構え直しパールハーバーに言った。


「……

 私さ、あんたに言いたいこといっぱいあったはずなんだ。

 よくも騙してくれたね、とか。

 コーデリアのこととか。

 でも頭でっかちで何も分かっちゃいなかった私が悪いとなると、今更何を言うのでも無いし……。


 あんたに聞きたいことも……本当にもう何にも無いんだ」


「ふん、聖騎士ならば己の正義を信じるのみ。

 それだけのことだ」


 メラクルはクスリと笑う。

 普段のメラクルとは違う、どこか寂しそうな笑い方。


「それがどれほど歪んでいようとも……。

 それで誰かを傷付けるものであっても?」


 その言葉にはパールハーバーは答えなかった。

 代わりに剣で応えよ、と言うようにメラクルに肉薄する。


 その勢いを交わし、弾き、いなす。

 同時にパールハーバーの周りに居た聖騎士たちも一斉に動く。


 こちらに回ってこようとする聖騎士をクーデルとソフィアが弾き返す。


 シーリスがパールハーバーとメラクルの戦いに割り込もうとするのを、キャリアとサリーが防ぐ。


「大体、あんたのこと気に食わなかったのよ!

 クールぶって私とキャラ大被りじゃないのよ!」

「キャリア、それは無いと思うよ?」


 2対1なのでこちらが押してはいるが、シーリスはなかなか崩れない。


「黙れ! 貴様らのことはずっと気に食わなかったんだ!

 特に貴様らの隊長は、パールハーバー様に気に掛けてもらっていながらその恩も忘れ!

 ついにはハバネロ公爵の愛人になるなど、なんと恥知らずな!」


「なってないって言ってるでしょ!」

 パールハーバーと剣を交えながら、メラクルが叫ぶ。


 剣と剣がぶつかり力の押し合いとなる。

 パールハーバーがフンッとメラクルを押し込む。

 力ではパールハーバーの方がずっと上なので、こうなるとメラクルが不利だ。


「そちらに気を取られている余裕があるとはな。

 相変わらず防御だけは一端だな!

 だが、それも時間の問題に過ぎん。

 メラクル、貴様と俺とでは技量が違うからな!」


 押し込まれながらも焦る様子もなく、メラクルはまたあの寂しそうな笑みを見せた。


「パールハーバー、あんた……いえ、先生。私は貴方をとうに超えているわ」

「ほざけ!」


 さらに押し込もうとするパールハーバーが力を込めたところを、メラクルは逆に引くような形で誘導する。


 パールハーバーが何かに気付く。

 メラクルはそこからパールハーバーの剣を、自らの魔剣で巻き込むように上段から下段に半月状に導かれる。


 その動きと同期するように、何かが渦を巻きながら、メラクルの魔剣パタリオン2の中に吸い込まれた。


「グッ!?」

 パールハーバーのうめきと共に、パールハーバーの剣が力が抜けたようにメラクルに押し返される。


 そこに陽炎が見えた。


 メラクルがボソリと呟く。

陽炎暁光ようえんぎょうこう


 メラクルのその剣が流れるようにパールハーバーを斬った。

 パールハーバーは信じられない表情で崩れながら呟く。

「ば、馬鹿な……その技は……!?」


 ある一定以上の技量を持つ者が、条件を満たした時のみ発動出来る技。


 条件次第ではモンスターですらも一撃に斬り捨てることすら可能。

 大公国にいた頃のメラクルでは使えなかった。


「……心に迷いがある奴には使えない必殺技ってヤツよ。

 パールハーバー、結局、あんたには使えなかったみたいね」


 メラクルはそう言って、すでに息絶えたパールハーバーをどこか哀しげな目で見送る。


「相変わらず……。

 絶対自分は分かってないくせに本質を突く女だな、あのポンコツは」


 何故か苦々しい顔でレッドがそう言ったのが印象に残った。


「パールハーバー様!?」

 2人と互角の勝負をしていたシーリスが、崩れ落ちたパールハーバーを見て驚きの声を上げた。


 そこを背後から、ミヨちゃんが隙ありとばかりにぽこんと殴ると、アウッツと声を上げてシーリスは崩れ落ちた。


「サワロワ!」

 レッドは呼び掛ける。

 モンスターとなった父に。


「失った大切な人は戻らない。

 嘆いても、怒りを撒き散らしても。

 だからもうやめろ。

 お前の大切な娘はまだここに居る。

 だから……」


 言葉が通じるはずはないのだ。

 どうやったかは分からないが、モンスターになった父は理性も残っていないようだった。


 ……けれど。


「涙……、父様……」

 母を失った時の嘆きはどれほどだっただろう。

 幼かった私は知らない。

 どんな気持ちで母を生贄にしなければならなかったのか、その葛藤も。


 それでも時々しか会えない父は……包み込むような優しい目をしていた。

 そして、今も。


 モンスターとなった父は、その漆黒の目から涙を流し、自らの胸にその黒い腕を突き立て……黒い血がそこから溢れて。


 それと全く同時にフロアを揺らすほどの雄叫びと共に……父であったモンスターもまた崩れた。


 パールハーバーの部下である聖騎士たちも皆が地に伏せており、それを最後に敵対する者で立っている者はいなくなっていた。

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