第187話エンドレスワールド

 全てが大丈夫だと。

 そう思い込んでいた。

 まだ何も始まってすらいないのに。

 それですら生き残ることがやっとだったくせに。

 私たち……私はそのツケを支払うことになる。

 何倍にもなって。


 だけど、この現実はあまりに辛過ぎた。






 苦々しげにレッドを睨むパールハーバーに彼は告げる。


「もう一度言う。

 パールハーバー、お前はここで退場だ。

 そんなことをしても、悪魔神は止められない。


 お前のやり方は誰も救えないし、ユリーナを生贄に捧げた先にあるのは、僅か数年の後に与えられる滅びという名の絶望だけだ」


 そこでメラクルがちろっとこちらを見て、レッドに言い放つ。


「ちょっと……、あんた姫様に体重預けすぎじゃないの!?

 姫様、あんたの重さで震えてるじゃないの!」


 レッドは即座に、メラクルに悪逆非道と呼ばれたハバネロ公爵らしいニヤリとした笑みを浮かべ言い返す。


「うっせぇ、ポンコツ娘!

 ユリーナと俺の愛の逢瀬を邪魔すんな!

 とっととそいつぶちのめしとけよ!」


 彼の状態に気付いているのは、彼を支えるためにその冷たい身体に触れている私だけ。


 今の話を聞いても周りの公爵家の人も、メラクルも動揺は見られない。


 むしろまたか、とどこか生温い暖かさ。

 これが繰り返されたやり取りなのだと。

 こんな毎日が続くなら……。


 彼のその記憶のいびつさと異常さを、今更ながらおかしいと感じるにはあまりにも遅かった。


 きっと今までも、こうして彼が隠してきたのだろう。

 それを私は間近に……触れていたからこそ感じ取ってしまった。


 私のその想像が正しいのだと、彼が困ったように浮かべた笑みで悟る。


「タイチョー!

 アレやりましょう!

 アレ!!」


 キャリアが切り掛かってきた聖騎士の1人を蹴り退けながら、メラクルにそう言い放つ。


「アレってもしかしてアレ?

 スカイブルーが居ないわよ?」

 メラクルは真っ直ぐパールハーバーから目を逸らさず、それでも軽い口調で返す。


「仕方ないです!

 スカイブルーは抜きです!!

 お仕置きでスカイブルーは今度おやつ抜きです!」


 キャリアが示したあまりの罰にソフィアがカッと目を見開く。

「おやつ抜き!

 なんて恐ろしい罰……」


 サリーとソフィアも背合わせで、それぞれ聖騎士とシールスに対峙。

 聖騎士たちの中ではメラクルたちの実力が一歩抜きん出ていることが分かる。


 メラクルはパールハーバーに意識を向けながらなのに、器用に軽い口調のままクーデルにも話しかける。


「あ、クーデル。

 ヒカゲって男拾ったけど、もしかしてクーデルの彼氏?」


「ヒー君!?

 ヒー君は無事ですか!?」


 サリーと相対していた聖騎士の足元を斬りつけ、そのまま回転しながら立ち上がりメラクルのそばに駆け寄るクーデル。

 さながら軽業師のようだ。


「耳元でわめかないで!!

 無事よ! 無事だから!!

 レイリア様の屋敷で元気に療養中よ」


「ヒー君! ヒー君!」

「クーデル、壊れたおもちゃみたいになってるよ……」


 そう言いながらクーデルの援護で手の空いたサリーが、今度はソフィアと相対していたシールスを牽制し、シールスがたまらずパールハーバーのそばまで下がる。


「さあ、そろそろ行くわよ!

 カナリーイエロー! あと何だっけ?」


「クーデルがアマランスパープル、サリーがナスタチウムオレンジ、ソフィアがキューピットピンクです!

 コーデリアがスカイブルーです、タイチョー!!」


 メラクルがド忘れポンコツぶりを発揮し、素早くキャリアがフォロー。


 貴女たちいつもそんな感じだったわね。


「……全部終わったら、スカイブルーを迎えに行くわよ。

 行くわよ! カラフルレンジャー!!」

「了解!」


 私たちはそれをぼーっと眺めてしまった。

 ちなみに、公爵家のアルクたちもモンスター化した父と頑張って戦っている。


 アルクが指示を出し、それにサビナたちが連携してモンスター父をいなしている。


風衝撃制ふうしょうげきせい

 アルクが呟くと剣が光り、竜巻のような小さな風が発生してモンスター父に絡みつき、かまいたちのように切り付けながら動きを封じる。


斬鬼紫光ざんきしこう

 そこにサビナが剣を横薙ぎに。

 夢の中でローラを斬った技。


 必殺技はある程度以上の技能を持った人しか発現しない。

 それは魔導力の奥義とも言うべきものだからだ。


 ……それはともかく。


「……カラフルレンジャーってメラクルの発案だったんですね」

「……ポンコツ戦隊カラフルレンジャーって言うんだ」

「……そうなんですね」


 後、ガイアたちも頑張っているよ?


 パールハーバーと距離を取ったメラクルたち5人は、隙なく剣を構える。

 それぞれがまるで決まったポーズがあるかのようにバランス良く。


 見た目重視で構えているようにも見える……というかそれ以外に見えないけれど、彼女たちの威圧感が増していく。


 パールハーバーたちもその隙を見出すことが出来ないようで、圧倒されて一歩後ろに下がる者まで居る。


 どうなってんのよ……。


 そこでメラクルがおもむろに口を開く。

「我が名は茜の騎士……」

「同じくカナリーイエローの騎士」

「同じくアマランスパープル!」

「同じくナスタチウムオレンジ!」

「同じくキューピットピンク!!」


 ザッと5人が同時に構えを変化させた。

 思わずパールハーバーたちがさらに後ずさる!


「我らカラフルレンジャー! ここに推参!」


 その時、彼女らの背後を強襲しようとした聖騎士たちに密偵ちゃん、じゃなかったミヨちゃんが煙玉を喰らわせる。


 それと同時に黒騎士が彼ら聖騎士たちを天井に跳ね飛ばす。


 パールハーバーたちには、さながらポーズを決めたメラクルたちの背後で、爆発が起こったように見えたことだろう。


 黒騎士もミヨちゃんも絶対わざとだ。

 こっちに向けてピースサインしてるし。


「……見事だ。

 ポンコツ戦隊カラフルレンジャー」


 レッドが感極まったように呟く。

 ちょっと嬉しそう。


 その呟きが何故か聞こえたらしくメラクルが反応。

「ポンコツじゃないわよ!!」


 ウン、何コレ。

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