第184話メラクルバラされる

「なあ、それって優しい、とかのアレ?」

 私は確認も兼ねて横からそう言った。


「そうです!

 メラクルタイチョーが本物だと言うなら、その条件を全て言えるはずです!

 あ、ですから言っては駄目ですよ、ユリーナ様!!

 でも知らない人には残りは言えないですよねぇ〜?」


 キャリアたちを除く全員が、あぁ〜という顔をした。

 当然、私も。


 メラクルはすでに口をパクパクさせて動揺し始めた。


 そんな中、エルウィンと呼ばれた青年が即座に答える。


「あー、それってアレですよね?

 例えばメラクルさんの冗談にも付き合ってくれる、とか?」


「エ、エルウィン、余計なことを言うな」

 アルクが慌てたように制止するが、すでにそれは口から出た後。

 それに当然、キャリアは動揺を見せる。


「ピンポイントでそこ突くのおかしくないですか!?

 そ、そういうのです」

 そういうこともあるのかなぁ〜、と首を傾げている。

 それを皮切りに全員が口を開く。


「あー、上に立っているだけあって、ピンチにはなんとかしてくれますね」

 公爵家の先程、異常なスピードを見せていたちょっと頼りなさげな男性トーマスも答えた。


「せ、正解……って、今、誰かを断定してませんでした?

 つ、次!」

 キャリアが動揺しながら次を促してしまう。


 密偵ちゃん改め、ミヨちゃんが頬に手を当てて思い出すようにしながら。


「得体は知れないけど、イケメンよねぇ〜」


「え? 得体は知れないってなんのことです?

 えーっとイケメンは正解です、はい。


 でもまだあるんですよ?

 タイチョー、マジで理想高すぎ。

 でも仕方ないんですメラクルタイチョーですから。

 え〜っと次」


 調子良く言いながらも、キャリアの戸惑いは深くなっていく。

 ミヨちゃんの隣では黒騎士がこれ以上ないぐらいニヤニヤしながら、メラクルが段々と沈み込む様子を楽しげに見ている。


 そのメラクルの背をローラがポンっと叩いている。


「強い、よね」

 ガイアがそう言い、続け様にラビットも。

「あまり認めたくはないが頭は良いな」


 キャリアは次々と放たれる『正解』の言葉に目を丸くしてキョロキョロしている。

 他の3人は何かに気付いたのか、目をパチパチさせながらメラクルをジーッと見ている。


 刺すような視線から逃れるようにメラクルは手で自分の頭を抱える。


「一途だよねぇ〜」

 レイルズは私を見ながらニヤニヤ。


 明らかに私に向けて言ったレイルズの言葉に、ついにメラクルは片膝をついた!


「……何でメラクル隊長以外が答えているんです?」

 ソフィアが恐る恐る私たちを見回す。


 クーデルが首を傾げる。

「何という正解率!!

 ……というか正解バレてません?」


「頼り甲斐はありますね。

 契約もしっかり守ってくれて信用出来るのも良いですね」

 シルヴァがニコニコと。


 もはや存在しないメラクルの理想の誰かではなく、特定の誰かを指していることにキャリアたち4人も気付いてしまった。


 なので、誰、誰、とキョロキョロと全員を見回している。


 この中にはイナイヨー。


「金持ちだよな……、あまりにも巨大な相手だ」

 セルドアがそう言った時には、メラクルはついに両膝をつき、両手で頭を抱え出す。


「メラクルがあんなに自由にしてられるのだから、包容力がずば抜けているのでしょうね」


 ローラがそう言った時には、メラクルは真っ赤な顔で耳を押さえてしゃがみ込んで、皆を涙目でうーっと睨んでいる。


 全く怖くない、というか……。

 やばっ、可愛過ぎ!


 黒騎士がこれ以上無いほどにニヤニヤしながら、トドメを刺す。


「優しくて、お嬢の冗談にも付き合ってくれて、ピンチの時にはなんとかしてくれて、イケメンで、強くて、頭が良くて、一途で、頼り甲斐があって、金持ちで、包容力があって。

 まあ、ぶっちゃけ……ハバネロ公爵である大将のことだよな」


 メラクルは睨むこともやめて、耳を押さえ真っ赤な顔で涙目で震え出し、ついにはウガーッと悶えだす。


「殺せー! いっそ殺してーーーーー!!」


「さあ、理想の彼を迎えに行こうか」

 ニヤニヤする黒騎士の横でミヨちゃんも笑顔でサムズアップ。


「姫様の前で、どんな拷問よ、これ!!

 誰かー、私を殺してー!

 理想の彼がどうとかのたまう私を消してくれーーーー!

 いっそコロセぇぇぇえええええ!!!!」


 目を丸くしてメラクルのいつもの奇行を見つめるキャリアたち以外の皆が、微笑ましいものを見るようにメラクルを生温かい目で見てしまった。


 キャリアたちもローラにその相手こそ、ハバネロ公爵……私の婚約者であることを教えてもらい、さらに信じられないようなモノを見るような目でメラクルを見る。


「ウッソ! タイチョー!

 随分前に合コンで、姫様の婚約者のところに潜入して、その美貌で籠絡するのが良いって話をマジで実行しちゃったんですか!?」


 キャリアの言葉にクーデルもハッと気付いた顔をして数歩後退り。


「親友だった2人の女が1人の男を奪い合う……、なんて罪深い……。

 これがラブコメ」


 まあ、メラクルは私の恋敵(?)に、なるのかなぁ〜?


 あと勝手にラブコメにしないで。

 コメディ要素何処にあるのよ。


 ……と思ったけど、私は目の前で慟哭しているメラクルを見て。


 コメディはここにあったわ。


 そんな私はメラクルの肩をポンッと叩く。

 メラクルはあからさまにビクゥッ、と反応する。


「……メラクル、皆、分かってたから」

 全員がウンウンと頷く。


 そこでようやく最後の1人キャリアも認めたようで。

「結局、タイチョーだね」

「ぽくない?」

「ぽいね」

「というかそのまんまね」


 隊長ー!! 生きてて良かったーとメラクルに駆け寄る4人。


「遅いわぁぁああああ!!!!」

 メラクルは涙目だけど、いつも通り元気一杯である。


「マジっすかー、っていうか。

 タイチョー、本当に手篭めにされたんですね」


 困ったもんだと肩をすくめるキャリアにメラクルが即座に返す。

「されてないわ!!!」


 ……されてないんだ。

 そのことに本当に勝手ながら、ホッとしてしまった時、自分の心の浅ましさに気付いて胸をギュッとされる。


 迷うな。彼が誰を選ぼうと私が彼を想う気持ちに偽りはない。


 そこでピクッとメラクルが反応して、真剣な顔になって胸元から金属片を取り出す。


「もしもし、サビナ。

 何かしら?」


 ……メラクル、その金属片は取り出さなくても通信出来ること、皆知ってるから。

 あと声も出す必要もないよ?

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