第181話覚悟を示す
「公爵閣下の望みゆえ大公国の民を救うが……。
貴殿らのような勘違い騎士もどきなど、あの方の未来には不要だ。
ここで切り捨てる」
アルクは剣を抜く。
その瞬間、セルドアとローラの2人は明らかに気圧される。
額から冷や汗が出ている。
力量の差が見えるのだ。
真ん中の男アルクは私以上の技量。
両サイドの2人もローラとセルドアより技量は上だろう。
分は悪い。
……それは私に言ってるのだと思えた。
ズクンと胸が痛む。
私がもっと早く本音を彼に
彼も私への協力を頼めたかもしれない。
そうでなければ、彼も言えるはずがないのだ。
私の祖国を滅ぼすことと……私の父を切るということも。
「黙って言わせておけば好き勝手言いおって!」
3流の悪役が言いそうな言葉を、セルドアが言ってしまったのは仕方のないことなのだ。
彼は……不器用なまでに口が上手くないのだ。
普段彼が話さないのは、その不器用さを自分で理解しているからだ。
今、それを無理してでも問いかけているのは、彼なりにこの事態を把握しようとするため。
……本来なら、私がすべき役割だ。
私は敢えてあからさまに大きく息を吸い、深い深いため息を吐き、彼らの意識をこちらに向けさせた。
「言わないと分かるわけないでしょ?
何も言わず何でも分かってよ、……なぁんて神様でも無理なんだから」
彼のあの目を信じるならば……。
それが真実ならば、彼の人質で誰よりも有効なのは私自身だ。
「……どきなさい。
彼の口から真実を聞きます。
その彼が語る言葉を信じます」
そして意地でも、今度こそ。
私はアルクを真っ直ぐ射抜くように言い切る。
セルドアもローラも緊張を滲ませたまま構え、覚悟を決める。
「……力の差はあるが。
されどユリーナ様の騎士である我ら、はい、そうですと諦める訳にはいかぬ」
そう言いつつもこちらから仕掛ける余裕がある訳ではない。
突破口を見つけるため、私たちは構えたまま。
そこに横合いから黒騎士が呼び掛けてくる。
「なあ! 姫さん。
あんたが大将を好きじゃないのは分かってる。
けど、今回ばかりは引いちゃあくれねぇかなぁ。
今回はさあ、大将も余裕ねぇんだから……」
黒騎士は2人の剣を避けながら、それでも私にそう言った。
確かに黒騎士が一緒に行動している間、私はレッドへの好意を見せていなかった、だけど……。
「何を言っているのです?
私をなんだと思ってるのです?
私はレッドを愛してます」
大体、愛してもいない相手に人前でキスを許すはずはないじゃないですか。
なんと失礼な!
「へ!?」
黒騎士だけじゃなく、公爵陣営の全員が目を丸くした。
あらやだ、私、そんなにレッドを嫌いだとでも思われてたのかな?
真相は真逆です。
これ以上ないぐらい愛してます。
「それって……うわっ!?
ガイア、ラビット、ちょい待て!?
お、お前ら、止めろ!
空気読めー!!!」
「うっさい! 死ねー!!」
ガイア、殺しちゃダメよ?
そう止める間もなく、勢いよく体当たりをかましたガイアによって黒騎士の体勢が崩される。
さらに牛のように鼻息荒く剣を振りかざし、ガイアが黒騎士を切り捨てようとしたその時。
ボフンッと何かが破裂するような音と共に、広間一帯に煙が広がり私たちの視界を覆う。
「はい! どーーーーん!!
そこまでーーーーーー!!!!!!!」
聞いたことのある声。
誰かが窓を開けたのか、煙の密度が濃くなかったのか、煙はすぐに晴れ……。
黒騎士を背に庇うようにして立つ1人の侍女姿の黒髪の女性。
戦闘はその場で止まる。
アルクたちは剣を構えたままで、今もまだ戦闘再開の緊張感をはらんだまま。
「呼ばれず飛び出てじゃじゃじゃじゃ〜ん!
ある時はガーラント公爵家の侍女!
ある時は謎の黒づくめの密偵!
麗しき美少女密偵ちゃん、登場!!」
「あら? ミヨちゃんじゃない。
姫様の護衛はどうしたの?
……って、姫様と一緒に来てたのね」
そこにその空気を割るように、黒騎士たち4人の後ろの角から、ひょっこりとメラクルが顔を出す。
本当にひょっこりと。
あ、メラクルだ。
その場に居た全員がそう思った。
そんな感じ。
「あ、あれ? ミヨちゃんみたいに派手にジャジャーンと登場した方が良かった……?」
ちなみにやっぱりメイド服。
その格好、よっぽど気に入ってるのかなぁ。
「……メラクル殿。
威圧しているので、そこで水を差さないで下さい」
「いやだって、あんまりにもマジな感じを出すからさぁ〜。
それで勢い余って姫様傷つけないでよ?
あいつも怒り狂って全部投げ出すし、私もそんなの許せないし」
緊張感のカケラもないそんな口調で、いつものメラクルらしくアルクに話し掛ける。
「本気に見せないと威圧出来ないではないですか……」
アルクは肩を落とす。
空気が完全に弛緩した。
緊張感というかシリアスが完全に消滅したのを誰もが感じる。
ああ、メラクルは変わっていない。
なら私が見たあの時の彼とメラクルは真実だ。
そう信じられる。
「メラクル」
「ん?」
私はニッコリと満面の笑みと共に……自らのノドに愛剣グリアネスの刃を当てる。
だから私は覚悟を示す。
剣を自らの首元に当て。
これで死ねと言われたら、ただのバカだよね、私。
それでもさ、それが私なんだよ。
「ちょっ!? 姫様!?」
「ユリーナ様!」
「ユリーナ殿!?」
「ユリーナ、ストップ!
すとぉぉぉおおおおおぷ!!!!!」
全員が一様に声を上げる。
先程まで敵対行動を取っていたアルクたちまで慌てて。
なんで貴方たちまで?
その中を私だけが微笑む。
「覚悟ならあります。
通してくれないなら、ここで自害します」
「何を……」
アルクが驚愕の顔のまま、手を伸ばそうとすると僅かに私の手が動く。
「ちょちょちょ、待った! 待ったぁぁああああああああああああ!!」
そこを大慌てで両手を全力で振りながらメラクルが静止させる。
「ユリーナ様、マジだから!
本気と書いてマジと読むぐらいマジだから!
この人、一度言い出したら聞かないから、やーめーてーーーーーーーーー!
ちょっ、全員、剣納めて早く早く!
ユリーナ様、分かったから。
それはシャレにならない。
全部終わる!
分かった。案内するから!!
案内するからぁぁぁあああああ!!!!」
私はにっこり笑い、剣をノドから離す。
メラクルはそれでも興奮冷めやらぬのか、自分の両頬を両手で押さえて目を丸くし、何故かヒョーと雄叫びをあげながら背伸びをする。
「血ー! 血ー出てる! ローラ早く手当てして!!」
治療しようとしたローラの手をやんわりと遮り、私は自分でハンカチを当てる。
「さっ! メラクル案内して!
あの人はこうでもしないと本音なんて見せようとしないんだから。
大変な事態になってるんでしょ?
だったら急がなきゃ!!」
メラクルは大きく肩を落として、ぶつぶつと不満げに。
「姫様思い切ったよね……。
そりゃそうなんだけど。
あいつ結局、姫様第一なんだから姫様自身が自分を人質に取れば、何も出来ないわけですけどー」
そこで何かに気付いたように密偵ちゃん改め、ミヨちゃんが何かに気付いたようにハッとする。
若干、ワナワナと震えながらショックを露わにしている。
「どうした、ミヨ」
何かあったのかと黒騎士がミヨちゃんに声を掛けると。
「私の劇的な登場が邪魔された!!」
いやまあ、そりゃそうかもしれないけれど〜。
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