第180話VS主人公(?)チーム後編

 手遅れになる気がした。


 近付けば近付くほど、それが伸ばした手の先で触れることなく砂のように流れ落ちてしまう、そんな予感。

 この予感が何なのか、何一つ根拠になるものはないのに。







 ガイアの聞いた話では最期に彼に付き従っていたのは、サビナ・ハンクールと名もなき近衛兵たちぐらいだったそうだ。


「トーマス、黒騎士の援護に回れ」

「はっ!」

 アルクは後ろに付いている少し線の細そうな兵に声を掛けると、兵は返事をすると同時にガイアたちの方に走っていく。


 早っ!?

 その移動スピードは常人のそれを大きく上回っていた。






業火雷鋒ごうからいほう

 ガイアがボソリと呟き必殺技を放つ。


 それをひらりと避けながら、黒騎士は耳ざとくガイアのその呟きを聞き逃さなかった。


「ワオ! ガイアちゃん、必殺技を声に出してんの〜?

 それって……恥ずかしくない?」


 言われたガイアは顔を真っ赤にして反論する。

「うっさい黙れ! 黙って切られろ!

 必殺技は口に出した方が威力が上がるんだ!!」


 さらに挑発をしようと口を開く黒騎士との間に、割り込むようにラビットが飛び込んでくる。


「ガイア、黒騎士の挑発を真に受けるな

蒼龍乱舞そうりゅうらんぶ』」

「うおっ!?」


 ラビットから放たれた2連撃が黒騎士の顔を掠める。


「……確かに技の発動がなめらかになった気がするな」


「な!? お前、素直過ぎんだろ!?

 よく恥ずかしげもなく、必殺技とか言えるな!?

 それにこっちは1人なんだぞ! 少しは手加減しろ!!」


 そうなんだよね、とガイアは思う。

 ハバネロ公爵への対抗組織の頭目だった割にラビットはその本質は素直なのだ。


 普段はそれを隠しているのだろうが、こういった剣での戦いにはその人の本質が出る。


 同時にガイアはリュークとはやはり違う、とも思う。

 リュークとはこうして肩を並べて何度も一緒に戦ったからこそ分かるのだ。

 必殺技も違う。

 リュークの必殺技は溜めて放つ、割とシンプルで高威力。

 その名は……。


「おっと」

「避けられた!?」

 トーマスが考えことをしていたガイアを背後から強襲したが、難なく避けられた。


「トーマス!」

 何故かそれを黒騎士が叱咤の声をあげる。


 トーマスもそれを不満を現すことなく、黒騎士の横に並ぶ。

 頼りない口調でトーマスが呟く。

「……黒騎士さんたちと違って、手加減とか出来ないんですけど」


 黒騎士は申し訳なさそうに空いてる手で頭をかく。

「あー、そっか。

 わりぃな。

 向こうが勝手に避けてくれるだろ、全力で行っていい」


 ガイアは我知らず目を細める。

 ラビットも同様だ。

 つまりこうして剣を交えながら黒騎士は全力ではないということだ。


「……舐められたものだね、手加減して僕らがどうにかなるとでも?」


 戦場で舐めたマネをするのなら、死あるのみだ。


「剣士として戦うからには、覚悟が必要だと忠告しておくよ……」

 明らかな殺気をぶつけ、ガイアは神剣アルカディアを正眼に構える。


 それに対し、殺気の気配すらも受け流すように気の抜けたように困った顔で、黒騎士はまた頭をかく。


「もっともなんだが……、一ついいか?」

「何?」

「俺、剣士じゃねぇから」


 頭をかいていた手からナイフサイズの小刀が幾本も放たれる。


「ラビット!」

「『蒼龍乱舞』」

 ラビットの剣が難なくそれを弾き返す。






 銀翼傭兵団の連携は他の傭兵団と違い、よく訓練されたものだ。

 これには連携を武器とする流石の元メラクル隊の4人も苦戦を強いられていた。


 しかも傭兵たちは、魚を捕まえるための投網を彼女らの中心に投げ込んだから、さあ大変!


「キャリア! そっちそっち!」

「うわっ!? ちょっとクーデル、援護援護!!

 ぎゃー! 網に引っ掛かった!!

 助けてー!!」

「ちょっ! 私たちの連携プレーを見せ付けてあげるんじゃないの!?」

「いやだって、この人たち強過ぎません!?

 こんな強かっ……、あー!! この人たち高級なパワーディメンション持ってる!

 羨ましい!」


 傭兵たちもふふ〜んと誇らしげにそれを彼女たちに見せびらかす。


 それを微笑ましいものでも見るような目をするシルヴァ。

 対照的にレイルズは頭痛を抑えるように額に手を置いた。


「……あんたさんらは、ほんと何がしたいの?」

「ですから、足止めですよ?

 効果は十分ですね、このまま引き返してくれると更に良いのですが……」


 レイルズの呆れた顔に、シルヴァはこの男には珍しく困ったような顔をする。


「……それはやっぱりユリーナ様に見せたくない何かが先にあるってことかい?」


 シルヴァは沈黙で答える。

 レイルズは油断させるように構えを解き、剣を右手と左手を行き来させて、さらに追及する。


「それってちょっと傲慢じゃないか?」

「……自らの歩みを止めることは出来ない以上、憎まれることさえ覚悟の上。

 ただ出来れば見せたくはない、それだけのことです。

 悪逆非道のハバネロ公爵の汚名を着せられようとも」


 レイルズはなんとも言えないと顔を顰め、また剣を構える。

 一足飛びにシルヴァに近寄ろうとするが、シルヴァも剣を突き出し牽制。


 達人同士であるゆえに、一度始まると幾通りもの互いの剣の応酬が繰り返されている。


 力ではレイルズが、技ではシルヴァが、素早さでは互角。

 互いに剣が交差し、弾き、鍔迫り合いの後、少しの距離を取ると同じタイミングで互いが息を整える。


「……何を考えてんだか。

 こちらはユリーナ様が逢いたいと言っているんだから、逢わせてやりたいだけなんだがね」


 レイルズがポツリと漏らしたその言葉は、この戦いに意外な効果をもたらす。


 レイルズが改めて剣を構えたのにもかかわらず、シルヴァは目を見開きアゴに手をやり考え始めたのだ。


 そしてついには逆に問い返してきた。

「逢いたい……ですか?」

「そうだが……?」


 後ろの方で4人娘と傭兵たちがなんだか楽しそうに(?)キャイキャイ言っている中、レイルズは何かが擦れ違いをしている可能性を感じた。

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