第178話VS主人公(?)チーム前編

 先端を開いたのはガイアの速攻から。

 思えば彼女はいつでも先陣を切っていた。

 思ったよりも好戦的な性分だと言えるのかもしれない。


 カウンターとばかりに黒騎士の剣サンガリオンが白い光を放ち、私たちに距離を取らせる。


「僕に勝てると思ってるの?

 ましてや2:1だよ?」


 ガイアが挑発する様に黒騎士の前で剣を構える。

 合わせてラビットが無言でその横に並ぶ。


「どうかなぁ?

 やってやれなくはないかもよ?」

「……馬鹿にされたもんだな」


 ラビットは軽い口調の黒騎士にそう返す。

 口調一つで生真面目さが分かるもんだよねぇ〜と、黒騎士はさらに軽口をたたく。


 それには応えずにガイアは目を細め体勢を下げる。

 そうしてラビットとガイアが黒騎士に対峙する。






 レイルズと対峙したのは、大戦時に私たちに協力してくれた傭兵のシルヴァとその仲間たち。


「わっかんねぇなぁ、あんたさん。傭兵だろ?

 傭兵ってのは、こんな仕事も請け負うのかい?」

 レイルズはそう言いながら、シルヴァの前に進み出る。


 それ対し、シルヴァはフッとどこか親しげな笑みを見せる。

 傭兵なのだから、昨日の友が今日の敵となることは何度もあったことだろう。

 だから、この状況も彼にとっては慣れたものと言えるのだろうか。


「それはもう依頼が有ればどんな風変わりなものでも。

 帝国宰相の襲撃でも。

 ……ただの足止めでも」

 シルヴァの後ろに5人ほどの傭兵団の面々が並ぶ。


 レイルズの後ろにキャリアたち4人が。


「レイルズさん、ハーレムですね?」

 後ろからソフィアが緊張感を滲ませてそう言った。


「おうよ、役得って奴よ。

 後はそこをすんなり通してくれれば、さらにユリーナ様から褒められてウハウハさ」


 振り返りはせず、目はシルヴァから逸らさずレイルズは口の端を吊り上げる。


 演技がかった仕草でシルヴァはレイルズとキャリアたちを見て、肩を大仰にすくめて両手を広げる。


「なるほど、それは尚更出来ませんね。

 我が主はあれで随分嫉妬深い。

 姫に余計な虫が付いたとなればどんなお叱りを受けるやら」

「おいおい……お前、『我が主』って」

 シルヴァの言い様に珍しくレイルズは本気で戸惑いを見せた。


 確かにシルヴァは傭兵でありながら、どこか騎士にも近い性質を見せるが、よりによってあのハバネロ公爵を自らの主人と決めるとはレイルズは思ってもみなかったのだ。


 それほど大公国内でのハバネロ公爵の悪名が酷いことの証左でもある。


 それについてシルヴァは楽しげな笑みを見せる。


「不思議ですか?

 あれほど色々面白い主は居ませんよ。

 金払いも良いし、貴族でありながら傭兵団と共に酒を酌み交わす。


 銀の騎士なんて傭兵には過ぎたるものですが、あのお方は本当に我々を騎士のように思っておられるフシがある。


 本当に王国の大貴族残虐非道のハバネロ公爵なのかと実物を見れば疑うしか有りませんね。

 まあ、あの方も今回のように無用な責を負われたが故に、ということなのでしょう」


 大公国内でのハバネロ公爵の悪名は、誤解やすれ違い故にとシルヴァはそう言ったのだ。

 レイルズはやり辛そうに渋面な顔をして、頭をボリボリとかく。


「か〜、気になることを次から次へと……。

 足止めとしちゃあ、完璧だよ。

 でもなぁ、何もしなかったと言われるのは、俺もちょっと困ったことになるんだよ。

 おしゃべりはこのぐらいにして、そろそろやり合おうぜ!」


 そう言ってレイルズが剣を構えると、それを合図にする様に両陣営が同時に剣を抜き放ち構える。


「残念ですね。

 では当初の予定通り腕尽くで足止めさせて頂きますよ!」

 互いの剣が交差する。






 真ん中の堂々と佇む黒髪の男、両サイドに茶髪の好青年ぽい男性と心持ち頼りなさげなやや線の細い男性。


 茶髪の青年はレッドが赤騎士に扮して私を助けに来た時に。

 真ん中の堂々と佇む黒髪の男については、公爵家で会ったことがある。

 2人ともレッドの近衛だったはず。


「名を名乗れ!」

 セルドアは剣を構え威圧するが、3人……特に真ん中に居る黒髪の男は一切のブレが見られない。


「話をするのは苦手だが……。

 公爵家に仕える衛兵長アルクという。

 悪いが貴殿らはここで足を止めてもらおう」


「この行為が我が国の主権を蔑ろにする行為だと知っての行動か!」

 叫ぶセルドアに対し、アレクはひどく冷静にこう返す。


「公爵閣下の苦しみと決断を貴様ら如きが計れるとは思わないが。

 さりとて自国の歪みを気付きもしなかったのは、もはや怠慢という言葉だけでは足りぬぞ」

「何?」


 セルドアも今の大公国の内情は知っている。

 知ってはいるが、王国の公爵の兵にそれを指摘されるとは思わなかったのだ。


「公爵閣下が何故、このような強行をせねばならなかったか考えもせぬ主らは。

 自国のことでありながら無責任に過ぎる、と言ったのだ」


「世迷言を!

 悪虐非道のハバネロ公爵の手下が!」


 痛いところを突かれた、それが偽らざる本音だろうが。

 それで、はいそうですか、とはいかない。


 真実はどうあれ、事実、自国の城は他国である王国の公爵に占拠されようとしているのだ。

 それがまかり通るようでは、すでに主権国家とは言えないのだ。


 苦し紛れでも言い放ち、セルドアとローラは同時に剣を構える。


 それに対してアルクは……嗤う。


「ククク、悪虐非道、悪虐非道か!

 ククク、貴殿らはつくづく視野狭窄しやきょうさくはなはだしい!!


 公爵閣下が決断せねば、これより十数年と民に地獄の業火の如き道を歩ませようとしていたというのに。


 何も! 何も学ばず! 何も考えず! それが聖騎士か!

 ただの愚か者ではないか!!」


 アルクは殊更に声を広間に響かせ、戦闘の最中ではあるものの、この場に居る者全員を惹きつける。

 その奥の静かな、だが確かな怒りが滲み出ている。

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