第175話コードネームカラフル
『こちらキ……カナリーイエロー。
異常なし』
『了解、ホワイトの準備が出来るまで現状位置にて待機。
ブルー守備はどう?』
『これ一体何やってんだ?』
『こちらオレンジ。
ブルー! 様式美は守って!』
『はっはっは、こちらグレー。
嬢ちゃんたち楽しそうなことやってんなぁ』
キャリアがカナリーイエロー、クーデルがアマランスパープル、サリーがナスタチウムオレンジ、ソフィアがキューピットピンク、ラビットがブルーで、レイルズがグレー、ガイアがグリーンで、ローラがピンク、セルドアがブラウン、私がホワイト。
もう何が何だか。
断言して言えば、カラーよりも名前で呼んだ方がずっと早い。
アマランスパープルとかナスタチウムオレンジとかキューピットピンクって何?
キューピットピンクはピンクと何が違うの、ねえ?
カナリーイエローとか、イエローで良いじゃない!
そんな疑問を口にしても答えが返ってこないのは分かっている。
返って来ても、フワッとしたものでしかないはずだ。
『コードネームはロマンなんですよ、ユリーナ様!』
「そうね、とりあえず隣に居るカナリーイエローは、通信で話さなくも良いんじゃないかな?」
私はすぐ隣で通信で話しかけてくるキャリアにそう返す。
『いつどこに敵が潜んでいるか分かりませんから!』
いや、それはそうかもしれないけれど。
実際、それを警戒しての隠密行動だ。
現在、私とローラ、ガイア、キャリアの4人は城の様子を周辺から探り、他のメンバーはいくつかの地点で情報を集めている。
「……どうやらハバネロ公爵が公都を制圧しているようですね」
ローラがそう呟くように言った。
所々で揉め事が無いわけではない。
邪教集団に対する捕り物も行われているようで、騒ぎが起こったりしているが、大公国の兵が相手を囲んで足止めしている間に、公爵軍が現場に直行して邪教集団を取り抑える。
無事に確保出来ると大公国も公爵軍も関係なく笑い合っている。
それはとても不思議な光景だった。
『ダメだ。
レイリア様の屋敷が1番公爵の兵が多いかもしんない』
キューピットピンクことソフィアがそう連絡してくる。
それに被せるようにアマランスパープルのクーデルが。
アマランスとかキューピットとか、これ、なんの暗号かしら?
『トロッド様のお屋敷は……多分、トロッド様は居ないみたい。
執事らしき人が時々外の様子を窺っているけど、公爵の兵は全く見えない』
それはそれで怪しい気もするけど、迂闊にトロッドの屋敷の人へ接触することは、隠れているアドバンテージを失うことにもなりかねない。
『公爵兵の中に通信技術を持った人がいる可能性もあるから、無理して近付かずに戻っておいで』
私は皆に呼び掛ける。
もちろんこれは集まるためのただの口実だ。
金属片という道具を使うので、街から離れてもある程度の距離使えたりする。
そのためレッドが本気で私たちの会話を傍受出来るように開発していれば、私たちの行動はすでにバレバレなのだ。
私たちの行動を邪魔する様子がないということは、盗み聞きされていないか、知ってて放置されているか、だ。
そのいずれにせよ、再度、集まって対策の練り直しだ。
周りを警戒してくれているガイアがむーとむくれた顔をする。
「通信の技は僕だけが見つけた裏技だと思っていたのに、ハバネロ公爵も使えるんだ……」
うーん、彼がどうやってその技術を手に入れたのかは全く謎だ。
会えたら聞いてみたいことの一つだけど……。
『出入りの使用人の女性をナンパして色々あって仲良くなったが、有力情報を手に入れた。
ハバネロ公爵が城に向かったと思われる』
グレーことレイルズからの通信。
その色々あってとは何があったのでしょうか?
気になる言葉に悶々しなくもない中、今度はサナチタニウムじゃなかったナスタチウムオレンジサリーから通信が。
うん、もうこの色コードネームで考えるのやめよう。
要するにサリーからの通信。
『こちらも以前、合コンした時に知り合った青年事務官から公爵らしき赤髪を見たって!
あとカナリーイエローというかキャリア〜?
従弟のダート君が心配してたわよ?
ちょっとー、いつのまにー?
たしかに従弟だから、家族間の付き合いで元々仲が良いでしょうけど〜?
私たちに内緒でちょっと良い感じになってない?
ねえ、カナリーイエローキャリア〜聞こえるー?』
キャリア、耳を塞いでも通信は防げないんじゃない?
むしろ通信の場合、集中するから余計にしっかり聞こえてくると思われる。
後、先ほどからナンパしたとか、合コンのとか不思議な枕詞が付いて通信が届くところに、私は思わず首を傾げずにはいられない。
おかしいわね?
私はジゴロや男転がしのチームを組織していたのかしら?
男女関係は情報の宝庫かもしれないけれど、色恋ばかりでまともな話にならないと思うけど?
ダート君の話は興味あるけど。
キャリア、おめでとうと言った方が良い?
サリーの言葉はまだ続く。
『……それとコーデリアに話を聞けました。
今回の騒動に関わらず、家に引きこもったままでした』
キャリアが息を飲むのが分かる。
元メラクル隊のもう1人。
途中加入の副長シーリスを除き、部隊メンバー6人はとても仲が良かった。
特にメラクルとも先輩後輩と呼び合う仲で、子供の頃、レッドが大公国に来た時も一緒に行動したこともある。
メラクルは覚えてなさそうだったけど。
『メラクル隊長殺害を、認めました……』
キャリアは泣き崩れる。
あっ……だから、ね?
『いや、メラクル生きてるから』
私は急ぎ改めて通信で皆にそう告げる。
サリーは通信でも悲しみが分かるように、途切れ途切れで返事をしてくる。
『分かって、います!
だから言ってやったんです。
殺してしまったことを悔やんで、悔やみ続けるコーデリアに言ってやったんです。
馬鹿にするな!
メラクル隊長は、ずっと……私たちの心の中、で……』
キャリアがそれに合わせて泣いている。
私は天を仰ぐ。
抜けるような青空だった。
もう駄目だ……。
本人に会ってもらおう。
私はついにそう決めた。
そうしてしばらく……。
キャリアが泣き止むのと同時ぐらいにサリーは言葉を続ける。
とことんまで息が合っているメンバーである。
そう考えるとメラクル隊とはなんて恐ろしい部隊だったのだ、と思わずにはいられない。
……悪いことではないのだけど。
『コーデリアがパールハーバー背任の情報を洗いざらい話してくれました。
パールハーバーは……邪教集団と繋がっています』
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