第166話リターン32-反乱でも暗殺でも
どうにか出来るもんならどうにかしている。
これがハバネロ公爵の裏の話ってわけだ。
「あくまでゲーム設定という俺の記憶の話だがな。
俺もユリーナ以外どうでも良かったと言うわけじゃない。
他に出来ることが無い。
ただそれだけだ」
俺の言い様が気に食わなかったのか、メラクルは立ち上がり食ってかかる。
「そんな事ない!
いざとなれば反乱でも暗殺でも……!」
それをこいつに言わせたのは、間違いなく俺が悪いんだろうな。
「暗殺なんて、相手の方がずっと上手だ。
後ろ暗い貴族社会をずっと生き残った家が今の貴族だ。
反乱すれば?
兵も物もなくてどうやって戦う気だ?
超常的な都合の良い力が発動して万々歳とか?
そんなもんあるか」
そんなもんあるかと言いつつ、中途半端なゲーム設定という記憶が俺にはあったりする。
ほんと、何なんだこの記憶。
「帝国に援軍とか!」
流石に俺は頭を抱えた。
「内政干渉させて王国を滅ぼせってか?
事実上の反乱じゃねぇか、さっきのと何が違うんだよ。
それに終戦合意したばかりの敗戦国がそれを破って即座に動けば、それこそ帝国という国の信用を無くして、帝国ですら中から滅びるぞ」
それが歪んだものであったとしても国は信用で成り立ってるんだぞ?
「あー、もしかしてメラクル、勘違いしてるのか?
俺が動員出来る兵がどれだけ居ると思ってんだ?」
「1000でしょ?
大戦では最後はもっと指揮してたよね?」
そこからかぁ……。
俺は嘆息する。
「反乱するとなりゃあ、400も居ねえよ……」
「え? なんでよ!
実際、今も300率いてるじゃない。
そこにザイードたちが加われば」
「それしか居ねぇんだよ」
これ……俺が説明しなきゃダメ?
俺自身の人望の無さを説明するとか色々と絶望するんだが?
ダメだよね?
うん、分かってた。
公爵家に限らず貴族の兵は多くが私兵だ。
その土地の予算で賄うのが主だ。
その専属の軍が所謂、騎士団だ。
だが知っての通り、これはかなりの金食い虫でしかも貴族間の縁故採用も加わり、ハバネロ公爵家では残念ながら碌に機能していなかった。
大戦前に俺はそれを解体している。
理由は簡単。
そのままでは使い物にならない上に、裏切る可能性まであったからだ。
覚醒当初にサビナと一緒にそれをどうにかしようと調整してたが、ついには諦めるしかなかった。
代わりにアルクたち衛兵を昇格させて、公爵家独自の近衛兵を結成させた。
これが現状で動けるのが250。
大戦での被害が回復し切るにはまだ随分時間がかかる。
後は訓練中のザイード率いる義勇兵100を混ぜて350。
全体350の内、50はザイードを隊長にして訓練を継続しつつ、警備のためお留守番で残り全軍で大公国に居る。
他の兵?
帝国と戦い祖国を守るという大義名分なしに、悪逆非道の公爵の元に誰が集うんだよ。
悪名ってヤツはそんなに軽くねぇよ。
しかも状況が悪過ぎるから脱走兵が出るのは確実だ。
つまりさらに減る。
金で雇う?
信用出来るヤツが集まる訳ねぇだろ!
シルヴァたちみたいなのは超貴重だぞ?
俺ならその金で集めた兵の中に密偵やらなんやら沢山混ぜるし、それを足掛かりに近衛兵に対しても調略をかけるぞ?
悪名が効果を発揮して面白いぐらいに内部崩壊してくれるぞ?
大戦で稼いだ金は確かにある。
ラビットたちに渡した分を除いてもそれなりに。
だが、それで兵と武器と食糧と拠点の維持費を賄うとなると当然足りない。
領内からの収支〜?
だから悪逆非道の……以下略。
「だから戦うなら掻き乱すしかねぇんだよ。
次に戦うとなったら、相手は何をして来ると思う?」
「何って……公爵領に攻め入って来るんじゃないの?」
そんな単純なら楽だよな。
勝利を重ねて粘れば、状況も変えられる。
「味方の取り込みだよ、あと同時にこちらの内応……つまり裏切りな。
帝国や教導国、それについでに共和国にも援軍の要請だ」
俺が精神的に1番キツいのは、説明した通りユリーナとの婚約破棄だけどな。
「へ!? 帝国は動かないんじゃ……」
「俺からの要請ならな」
国としての正式な援軍要請なら、旨味たっぷりだ。
土地も賠償金についても期待出来るし、俺への恨みを晴らせる。
忘れてるかもしれないが、帝国に1番恨みを買ってるのは俺だ。
「籠城戦で確実に勝利するなら大軍で囲み、補給を絶って内部反乱を起こさせる。
野戦地での戦いなら勝ち目はあるだろうけどよ、それが分かって相手がまともに相手するわけねぇよな」
それに相手には王太子とガラント将軍が居る。
反乱となれば王国の敵で2人は当然敵になる。
味方に〜?
そんな正当性がどこにある?
無能どもを掃討したから、全兵が有能な2人の将に率いられるから、総合的に言えば王国の戦力はアップしている。
勇猛なライオンに率いられた兵だ。
相手にしたくねぇ。
それに兵力も相手は5000以上動員出来る。
貴族たちも帝国との戦いと違い、公爵領という褒美を求めて積極的に群がる。
工作活動も積極的に行うことだろう。
工作といえば勘違いしているかもしれないが、黒騎士たちは確かに有能だが王国が擁する諜報組織が無能ということでは無い。
各貴族共も後ろ暗いことに特化して有能なことだろう。
大公国という小国と比べ、文字通り規模が違う。
情報戦でも勝ち目はない。
「そんなわけで可能性はあると前は言ったが、よっぽどの奇跡が起こって初めて可能性が出るだけだ。
実際は反乱での勝ち目はまず無い。
そんでもって内部工作は相手の方が上手だ」
帝国宰相をユリーナたちが討てたのは、帝国が大胆にも帝都を空にしたこと、俺がゲーム設定の記憶で裏事情と情報を持っていたからだ。
王都強襲を警戒している相手に同じ手は使えない。
むしろここぞとばかりに罠に掛かるだけだ。
「でも相手があんたが考えるみたいに、色々考えつくとは限らないし……」
「相手の無能を期待して戦う時点で負けてるってことだぞ?」
事前に勝てる兵力を集められないのと何も変わらない。
メラクルは眉間に皺を寄せ、何かを我慢する様にうーと唸り、ついにはこう言った。
「……ねえ、私がアイドルとして支援を呼び掛けるとかは、ダメ?」
……追い詰め過ぎたらしい。
まさか自らそんなことを言い出すとはぁぁぁああああ!!!
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