第170話ガイア立つ
昼に差し掛かった頃、ついに追い付かれた。
『先に行ってて、すぐ追い付く』
通信で伝えながらガイアは馬車から飛び降り、50は居ようかという追っ手の前に立ち塞がる。
「……さあて、死にたいやつから掛かって来なよ」
剣を顔の横に、真っ直ぐと相手に突き立てるように構える。
『ガイア!』
『大丈夫、ここは任せて』
私はガイアと短くやり取りをする。
馬車は止まらない。
ガイアを置いたまま。
ガイア・セレブレイトは最強の剣士である。
それは共和国において開かれた世界大会における結果だ。
この世界大会に帝国最強のロルフレットも黒騎士も、当然ハバネロも参加してはいない。
それでもその他、名だたる有名どころは軒並み参加して、その中で圧倒的な強さを見せつけた。
見目麗しいが平民出の小娘と分かりながら、その強さを誰しもが認めざるを得ない。
あくまでもしもの話だが、仮にハバネロたちが参加していたとしてもガイアが優勝していたことだろう。
それほど真っ向勝負の剣技においてはガイアが一歩先をいくのだ。
ただし、ハバネロたちが真っ正面からの戦いを受け入れるかということ自体に、まず疑問がある訳だが……。
しかし、今回ガーラント公爵の兵たちはそういう訳にはいかない。
絡み手を使おうにも、技量自体に差があり過ぎてその隙もないし、そもそもそれを行うべきアイデアを持ち得ない。
それでも兵たちはガイアと相対せねばならない。
ああ、悲しきは雇われ人生。
「せいやァァァアアアア!!!!」
気合いの声を上げ、兵の1人が剣を振り上げて真っ直ぐ踏み込んできた。
襲い掛かるのに不意もつかずに奇声を上げて正面から行ってどうする……と言うなかれ。
相手が世界最強ということは、小国である大公国ですら知られている。
ましてや、その世界最強はしばらくの間、ユリーナの部隊の一員として活躍していたのだ。
知っている者も多い。
声を張り上げることで勇気を振り絞ったのだ。
そんな訳で、そんな相手にガイアがやるべきことは一つ。
何でもないような涼しい顔で剣を振る。
勇気ある彼は一刀のもとに切り捨てられた。
奇声を上げ、勇気を振り絞ったところで全てが報われるとは限らないのだ。
もしも彼の勇気に応え鍔迫り合いの一つでも見せようものなら、彼の紙の勇気に乗せられて周りの兵も一斉にガイアに襲い掛かかれたことだろうが、現実は非情である。
……いや、斬られるだけなので幸運だったのかもしれない。
周りの兵が怯む。
それはそうだろう。
次に飛び掛かった者は今見せられたように確実に地に沈む。
生き残る可能性があるのは、2番目以降だ。
ゆえに戦争では1番槍を誉れとするのだ。
そうでないと誰も敵に突っ込まない。
当然、ガイアがその隙を見逃すはずもない。
畳みかけるようにガイアはためていた力を解き放つ。
それと同時にガイアはボソリと。
「
その烈火の如き魔導力を纏った剣撃により、真正面に居た5人が吹き飛ばされる。
それをもしもハバネロが見ていたならば、狂喜乱舞していた事だろう!
そう、必殺技である!
ついでにハバネロならば、火なのか雷なのか、そもそもガイアの緑髪と名前からすれば
黒騎士だと
ガイアだって好き好んでこんな必殺技名を口にしている訳ではない。
必殺技とはつまるところ、魔導力を溜めて放つ、これである。
その際にイメージした必殺技を言うか言わないかで、必殺技の威力が違うのだ。
いやマジで。
これは体内の魔導力を練るとかどうのこうのというより、スポーツなどでいう集中法ルーティンに近い。
精神と魔導力が切っても切り離せない関係にあることがその理由である。
本気で気合いを入れる時は、大きな声で叫びながら放つとその威力も途轍もないものとなる。
ガイアもこの必殺技で要塞型と呼ばれる超大型モンスターに致命傷を与えたこともある。
では何故、誰も必殺技を叫んでいないのか?
それはそもそも、必殺技を放てる人自体が少なく、必殺技とは特定の才ある者たちのみが使える、ということもないこともない。
それよりも、そもそも必殺技を口にすると威力が増すということを誰も知らないからだろう。
これを提唱したのはガイアの記憶の中にある赤髪の青年リュークである。
彼は何故か必殺技に妙なこだわりを持っていたせいで、必殺技を叫ぶことの有用性を追求した結果である。
ちなみにユリーナの必殺技名は彼が付けた。
舞い散る雪のように美しいから、だそうだ。
ガイアにはよく分からない理屈である。
ふとその日々を思い出して、口の端を吊り上げる。
そのガイアに様子を見て、ガーラント公爵の兵はさらにビクリと反応する。
自分はあの日々が楽しかったんだな、と今更ながらに思い出す。
とにかくそのガイアの必殺技、業火雷鋒により兵たちはたじろぎ、自然と彼女から距離を取ったのでひと睨みして牽制してから、身を翻し走り出した。
全力で走ると、時間を稼ぎそれなりに進んだ馬車が見えて来たので、走る勢いを落とすことなく走る馬車に飛び乗った。
「うわっ!?」
馬の操作を交代して馬車の中で休んでいたキャリアが、飛び込んできたガイアを見て驚きの声をあげる。
特に意識をした訳ではないが、ガイアはグルグル巻きにされているクーデルに目が行ってしまった。
何故かグルグル巻きにされているから、気になるのは当然だけど。
暴走するせいでグルグル巻きにされたクーデルが、ふぐぐー(ガイアー)と呼んだ。
それからあえて目を逸らし、ガイアはユリーナに目を向けて告げる。
「少し牽制しておいた。
けど少ししたらまた追いつかれると思う」
それにユリーナが答える。
「大丈夫、今、通信が入ったわ。
援軍が来るわよ。
次、追い付かれたら皆で撃退するわ」
全員が頷き、クーデルも縄を解かれ馬車を進ませながらもそのタイミングを待つ。
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