第160話逢いに行く

 ……っていうか、騒ぎ過ぎ。

 ガーラント公爵に気付かれちゃうじゃない。


 そう思い、ふと何気なく窓の外を見ると、密偵ちゃんが親指を立てているのが見えた気がした。

 もう一度目を凝らすが姿は見えないのだけど。


 ……大丈夫。

 ガーラント公爵の横やりは入らない。

 根拠らしい根拠もないけれど、そう思えた。


 今ならば4人にも真実を告げることが出来る。


「キャリア、サリー、クーデル、ソフィア。

 よく聞いて」


 私が呼び掛けると、4人は雄叫びを即座に止め、居住いを正して私に向き直り私を真っ直ぐに見つめてきた。


 キャリアたちも優秀は優秀なのよね、ポンコツの気があるだけで。


「メラクルは生きているわ」


 私が4人にそう伝えると、意外にもしっかりと頷き返してきた。


「はい」

「もちろんです」

「分かっております」

「その通りです」


 あれ?

 いつの間に知られてたのだろうか。


 確かにこの4人は大公国接収など情報収集に長けている。

 しかしメラクルのことについてはレッドが情報を統制しており、今までその可能性について気付かれてはいない。


 もし気付かれてしまえば、私たちの状況はかなり危うい。


 何故ならパールハーバーはガーラント公爵とも裏で協力関係にある可能性が非常に高く、野心に気付かれたからと私たちを即座に害する、もしくは監禁するかもしれない。

 今も半ば軟禁状態だけど。


 どこから情報が漏れたのか、それ次第で今すぐ動かなければ。


 限りなく低いが、可能性があるとすれば……。


 ローラたちに目を向けるが全員、首を横に振る。

 だけど、そこでレイルズが口を開く。


「ラビットの手の者から報告があった。

 メラクルの嬢ちゃんが王国の大戦の英雄として名が上がっているらしい。

 なんでも『アイドル』と呼ばれているようだ」


 そう言って一枚の絵姿を見せる。

 ハバネロ公爵家の騎士服を着た凛々しく遠くを見つめる絵姿。


 私はそれを受け取り……思わず崩れ落ちそうになった。

 こんな衝撃は大戦の時にカラフルレンジャーを見せられた時以来。


 ……最近ね。


「何やってんのかしら、あの人……」


 絵姿が出回るぐらいなのだ、個人での仕業ではない。

 仕掛け人は絶対にレッドだろう。


 その様子を見ながら、レイルズが楽しそうに口の端を上げた。


「しかもご丁寧に、それの仕掛け人はマーク・ラドラー、つまりラビットになってるそうだ。

 ラビットの渋面な様子が目に浮かぶねぇ」


 ……なるほど、レッドは本気で大公国を接収する気なのだろう。

 メラクルを前面に出すことにより、大公国接収に対してのイメージ操作を行う気かも。


 同時に大公国内での私の利用価値も上がる。

 大公国内で争っている場合ではないとガーラント公爵たちに思わせられれば、権力の正統性を得るため私の安全はさらに高まる、と。


 もっともハバネロ公爵の悪名はさらに広がることになる訳だけど。

 処刑されるから、もういいとか思ってるのかな……。


 ……そんなことより私を利用してくれた方が良かったのになぁ〜。

 他の人の婚約者になれと言われたら断るけど。


 キャリアたち4人もメラクルの絵姿を覗き込もうとするので、1番近くに居たキャリアに渡す。


 キャリアはそれを受け取り、4人で顔を見合わせ……無言で争奪戦を始めた。


 私はそれを見ながら、彼が何を考えているのか想像がついた。


 メラクルは変わっていなかった。

 だから彼女が私に敵対することがないのはよく分かっている。


 つまり彼は自分が居なくなった後に、協力出来るようにお膳立てをしようとしているのだ。

「……ばぁーか」


 願い通りになんてしてあげない。

 私をなんとかしたかったら、何がなんでも生き抜いて。


 争奪戦の結果、ソフィアが絵姿を持って手を高く掲げている。


「アイム、ウィィィイイナァアアア!!」

「くやちー!」

「でも無理矢理取ったら破けちゃう!」

「共有だからね! 共有!!」


 楽しそうね。

 毒気をぬかれた私は、しょうがないなと息を抜く。


 レイルズは私を一度見て、続きを話して良いかと確認したのち、さらに告げる。


「公都では、パールハーバーの叛意がほぼ確実なようです。

 ヤツの協力者と思われるガーラント公も、ユリーナ様の行動を邪魔してくる可能性はかなり高いはず」


 パールハーバーの叛意。

 その言葉を聞いて、ソフィアたち4人は僅かに息を飲むがどこかで覚悟していたのだろう。


 強く頷く。


 私は4人の様子を見て、全員を再度見回す。

 場合によってはガーラント公爵領を強硬策によって抜け出す必要がある。


「大公都に戻り、ハバネロ公爵に真意を問います。

 どの道、ここに居ても未来は切り開けません」


 そこでふと私は4人に尋ねる。


「そういえばメラクルのこと、どこで聞いたの?」


 私の疑問に4人同時に首を傾げる。

「普通に公都ですけど、ユリーナ様一緒に居たじゃないですか」

 代表するようにソフィアが頷いて、他の3人が頷く。


 ……え?


「隊長は今でも私たちの心の中に生きています」

 クーデルが自らの胸に手を当て、その言葉を噛み締めるように。


 あ、そういうこと?


 キャリアが皆を元気づけるように。

「そうですよ!

 メラクル隊長は冥土でも元気に頑張っているはずです!」


 なんとなくローラの方を見ると、目を逸らされたので仕方なく私は。


「……そうね、メイド(の姿)でも元気に頑張っているわ」


 4人は力強く同意してくれたが……。

 ごめん、そういう意味じゃないんだ。


 4人の様子に私は説明を諦め、とりあえず保留する事にした。


 諦めるのが早いとか言わないで!

 だって!! なんか無理そうな感じするもの!!

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