第145話犯人はお前だ!

 ゾロゾロと部屋に入って来た4人は私の様子をチラチラ伺いながら、今日の合コンの段取りを話し合っている。


 クーデルは最愛の彼氏持ちだから参加しないので、どうしても後1人面子が足りないそうだ。


 そこで何故、私という発想になる!?


 私は窓を眺めながら、ため息を吐いた。

 分かっている。

 私を元気付けようというのだろう。


 こういう時、私を元気付けさせていたのはメラクルだったから、彼女らが代わりを務めようとしてくれているのだ。


 4人は私のため息に反応してギョッとした顔をする。

「ユユユユリーナ様!?

 どうしたんですか!?

 もしかして、もしかして恋煩いというものですか!?」


「えー! 恋煩い!?

 誰!? 誰ですか!?」

 真っ先にキャリアが反応、握り拳まで握って目がキラキラさせている。


「え!? えー!?

 まさかうちの男どもですか!?

 それともこの間のナルシーなイケメン傭兵団長!?

 まさか!? 黒騎士!?」


 サリーの言葉をクーデルが否定する。

「ダメよ、黒騎士は相手が居るみたいよ!

 幼馴染とか」


「幼馴染なら入り込む隙間はないわね。

 でもユリーナ様ならワンチャン?

 ……いえ、幼馴染はやはり無理ね」


 ソフィア……貴女にとって幼馴染は一体どんな存在だと言うの!?


 そこでクーデルがあごに手を当てて思案しながら。

「あのチラッとあった赤騎士とかは?

 変なマスクしてたけどイケメンぽい雰囲気はあったわよ?」


 息を飲みかけたが、私の返事を一切待たずに3人が即座に否定する。


「アレはないわ。

 変人そうだし、何より赤髪といえばアレを思い出すわ」

「あー、アレね」

「ないねー」


 まさにその赤騎士が恋煩いの相手なんですけどね……。

 赤騎士であり、アレとはレッドの事である。

 私はまた一つため息を吐く。


「ユリーナ様、幸せ逃げちゃいますよ……?」

「ごめんなさい、気にしないで?」

 そう言うが彼女たちは浮かない表情。


 ごめんなさい、雰囲気を変えるのも上司の役目、気を遣わせている時点で私は失格なのだ。


「……こんな時、メラクル隊長が居れば」

 ズーンと彼女たちが負のオーラに沈む。


 メラクルはいつも場を明るくしてくれた。

 私もメラクルの笑顔でいつも明るくしてもらって、ごめんなさいとありがとうを心の中で告げていた。


 親友と呼ぶには烏滸がましい気もしたけど、本当にそう思っている。

 死んだと聞かされた時はあまりのショックで、その場で立っていることが出来なかった。


 以前からメラクルが浮かない表情を見せていたが、それが手遅れになる程の深刻なことだと気づいたのは、間抜けなことに全てが手遅れになってから。


 メラクル生きてるんだけどね!


 言ってあげたいけれど、言う訳にはいかない。

 言ってしまえば、彼女たちも含めて危険が及ぶ。


 パールハーバーの命令に従い、彼女を手に掛けようとした犯人は目処が付いている。

 信じられない人物だけど、考えられるのは彼女しか居ない。


 メラクルを最も慕っていたコーデリアだ。


 そのコーデリアはメラクルが居なくなったショックで寝込んでしまい、まだ体調が戻らないままだ。


 騎士学校からのメラクルの後輩で、事件当時、半狂乱に泣き叫ぶ彼女がメラクルが殺されたことに真実味を持たせた。


 誰よりも彼女を慕っていたから、コーデリアがメラクルを殺そうとするなんて思った人は大公国の1人も存在しない。


 メラクルはコーデリアのことを言わなかった。

 ただ、私は何も分かっていなかった、と。

 寂しそうにメラクルは言っただけだ。


 メラクルは私たちの中で、ううん、誰にとっても太陽みたいな人だった。

 綺麗な茜色の髪は温かい夕陽のようで。

 彼女の周りでは誰でも笑っていた。







 あの日……赤騎士と名乗った彼と再会してた日のこと、私は理由も分からず浮かれていた。

 だけど、そんな気分も公都に戻って来たら途端に霧散する。


 メラクルが死んだと聞かされた時、呆然として足元から力が抜けた。

 太陽が消えた気すらした。


 特務任務でしばらく留守にしているのは知っていた。

 任務自体は上手くいかなかったらしいけど、特に怪我らしい怪我もなく、無事に戻ってきたとも聞いていた。


 その頃、私は邪神調査のために出ずっぱりで会えなかった。

 会うのを楽しみにしていた。


 正体は秘密だけど、おかしな赤騎士のことを話したいなとも思ってウキウキしてた。

 もしかしたら生まれて初めての恋バナになるのかな、とか。


 浮かれてた。


 死体は見つからなかったそうだ。

 空の棺の前でコーデリアがごめんなさいと縋り付きながら半狂乱でずっと泣いて、副長のシーリスに引き剥がされていた。


 聖騎士である以上、任務で誰かが死ぬことはある。

 それがメラクルになるとは思わなかった。


 攻めはともかく、守りに関しては大公国で彼女の右に出る者はほぼ居ない。

 ガイアや黒騎士、それにラビットは別格だが、そんな相手でもない限りそうそう遅れは取ったりするはずがない。


「現場にこの剣が」

 泣きじゃくるコーデリアを部隊の他の者に預け、シーリスは一本の剣を私に手渡す。


「これは……。

 ハバネロ公爵家の魔剣……?

 それも品質はかなり上位、市井に簡単に出回る物じゃないわ」


 やはり、と分かっていたようにシーリスは頷く。


「メラクル隊長の血がついておりました。

 おそらく犯人の物かと」

 シーリスは暗にメラクルを殺した犯人が、王国公爵レッド・ハバネロだと告げていた。


 私は知らずよろめく。

 それをローラが支えてくれた。

 あの人、が?


 とても優しい目をしていた。

 とてもそんなことをするような……。


「メラクル隊長はパールハーバー閣下より、公爵家への潜入をしておりました。

 一度は無事帰っては来られましたが、おそらく、その時に気付かれるような何かがあったのでしょう」


 この時、シーリスはメラクルがレッドの暗殺に行ったことを言わなかった。


 後々に分かったことではあるけど、この時のことがあったので確信出来た。


 それはつまり……。

 あんたらが犯人やないかい!

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