第120話リターンEX2-私はメラクル(とある日の記憶)
帝国と王国の大戦の1年前。
いつもの日々のこと。
ども、メラクルです。
メイドじゃないよ?
立派な聖騎士です。
こう見えても大公国で隊長してるよ。
「タイチョー、今日の合コンどうします〜?
連敗記録伸ばします〜?」
今日の訓練が終わり、汗を拭きながらメラクル隊の部下の1人キャリアが私にそう声を掛ける。
「クッ!? もちろん行くわよ!
今日こそは運命に出逢うから、ここで連敗記録は終わりよ!」
横から呆れ顔と共に布タオルを渡してくれたコーデリアが、投げやりな言い方で。
「せんぱ〜い、もう諦めましょうよ?
良いじゃないですか、私と面白おかしく、ずっと華の独身生活ライフ楽しみましょうよー?」
「貴女もそろそろ彼氏ぐらい作らないとマズイんじゃなくてコーデリア!?」
2つ下の後輩のコーデリアは彼氏が居なくても焦る様子はない。
変ね、裏で彼氏でも居るのだろうか、と思うけどその気配は感じない。
特定の彼氏を持たない主義のキャリア。
ずっと付き合っている彼氏のいるクーデル。
貴族の嫡男からも人気なサリー。
彼氏が絶えたことのないソフィア。
それと少し小生意気だけど可愛らしい後輩のコーデリアと私を含めた6人が私たちの部隊、だった。
ついこの間、団長の推薦で副隊長としてシーリスが私たちのメンバーに加わった。
団長からの推薦なので問題は無いと思うが、任務以外で私たちに関わろうとせず距離をとっているのが分かる。
時折り、ひどく冷たい目で私を見ることがあるのが気に掛かる。
様子は見ているが、これが他のメンバーにも及ぶようなら正式に抗議の必要があるけど今のところは大丈夫。
それ以外では、とてもクールなのでクールキャラの私と被ることが問題と言えば問題だ。
だけど合コンには参加して来ないから、コーデリア曰く、致命傷で済んでいるとのこと。
あれ? 致命傷って命に関わる傷じゃなかったっけ?
「どうします〜? そのまま行っちゃいます〜?」
超羨ましいモテ女のソフィアはニコニコとそう言う。
金髪がフワッと広がって慈愛の天使のような容姿だ。
「あ、先に行っといてー。
私、ちょっと姫様の様子見てくるから」
「姫様、また執務室に閉じこもってお仕事ですか?」
「まあねぇー、姫様真面目だから」
ずっと同じ彼氏持ちのクーデルが心配そうな顔をする。
見た目には尽くす系の大人しめの子なんだけど、この子はちょっと執着が強過ぎるところがある。
尽くし過ぎてヤンデレ系?
彼氏の方が受け入れてくれなければ、逮捕されるかも知れない。
名前が体を表し過ぎである。
彼女の両親は伝説の預言者か何かだろうか?
頑張って! 見たことがないクーデル彼氏!
姫様のところに行こうと私が歩き出すと、キャリアが言付けを頼んで来た。
「サリーを見かけたら声掛けておいてください!
さっき男爵家の長男に呼ばれていましたので!」
サリーは貴族に人気だ。
綺麗系で後ろで茶色の髪を一本に纏めて、笑顔も絶やさない出来る秘書系だろうか?
「あいよー。
でも隊長を丁稚に使わないでー」
笑いながら片手を振って城の方に歩き出す。
この5人、彼氏が居ようと居まいと全員モテる。
何故か、私だけモテないのだ。
全員で私のモテ運気取ってない?
気のせいよね……。
途中、サリーに声を掛けて言付けを伝え、私はいつものようにガラガラとお茶のセットを乗せたワゴンを押し、姫様の執務室へ。
「コンコン、姫様〜? 働き過ぎは良くないよ〜?」
「メラクル……、せめて口でノックじゃなくてドアをノックしてから開けてね?」
ペンを片手に姫様が困ったような顔で、しょうがないなぁ、と。
私がお茶を2人分淹れている間も、カリカリと書類仕事を進める姫様。
王国の華やかな貴族令嬢とはまったく違う。
「姫様〜?」
「ん〜?」
「姫様も合コン行く?」
ペンがピタッと止まり、姫様は苦笑いを浮かべる。
「ダメでしょ、それは」
淹れたお茶を姫様の前に置き、自分の分のカップを持ってソファーに座る。
「だってさぁ〜、あんまりじゃない?
姫様が一生懸命仕事している間、姫様の婚約者のヤツはきっと偉そうな顔でふんぞり返って酒でも飲んでいるのよ?
納得いかないじゃん」
ぶすぅと口を尖らせると、姫様もペンを置き私が淹れたお茶を口にする。
「良い香り。
メラクルはお茶を淹れるのが上手よね」
姫様はずっとこうだ。
隣の王国の公爵からの圧力で、大公国はいつもカツカツだ。
金銭面でとても裕福とは呼べず、姫様は大公国の姫でありながら執務に任務に忙しい毎日だ。
唯一の趣味が時々立て掛けてある魔剣を磨くこと。
なんともオヤジくさい趣味だけ。
大公国の貧困の原因の1つともいえる王国のハバネロ公爵の婚約者という肩書きのせいで、自由に恋も出来ない。
誰かに恋をしているという話も子供の頃から聞いたこともないけど。
「メラクルは今日も合コン?」
も、である。
見目麗しいメラクル隊のメンバーのおかげで合コンには事欠かないが、何故か私は売れ残る。
「運命ってなかなか訪れないのよねぇー」
姫様は楽しそうにクスクス笑う。
「メラクルは美人なんだけど、その分だけ理想が高過ぎるのよ。
なんだっけ?
優しくて?」
「優しくて、イケメンで、頭が良くて、私より強くて、頼り甲斐があって、普段は私の冗談にも付き合ってくれて、包容力があって、一途で、ピンチになったら助けてくれて、そして何よりお金持ち!
これだけは譲れないわよ!!」
それを聞いて姫様は更に楽しそうに笑う。
「普通居ないわよ、そんな人」
「居るよ! きっと世界の何処かに!」
「少なくとも大公国内で、メラクルより強い人が限られてくるわね」
最初は否定をしながら、姫様はその後でちゃんとこうも言ってくれるのだ。
「……でもメラクルなら、きっと出逢えるわね」
少しだけ寂しそうな顔で。
だから私は苦しくて息を飲む。
姫様の未来は決まっている。
悪逆非道と呼ばれる最低で傲慢な男の元へ嫁がなければならない未来。
もしも、その未来が変えられるなら……。
私は命を賭けたって構わない。
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