第117話我に力を貸せ
「今だ!
相手は大混乱している!!
しかも分断により我が軍の数が圧倒したぞ。
全軍!! 反撃に移れ!」
とにかく声を張り上げ、突撃を指示する。
この機を逃せば全てが終わるからだ。
俺が合図を送ると、その機を待っていた公爵領の者たちが率先して雄叫びを上げながら駆け出す。
公爵家の兵たちには事前に策があることも分かっていたので、当然動きは早かった。
周りに居た王太子側近の王国兵たちも釣られて走り出す。
戦争は狂気だ。
蛮勇であっても乗せられた方が勝つ。
怯えて縮こまれば即ち死。
反撃の糸口に誰もが縋った。
自らが生き残るために。
王国兵は今までの
帝国兵は見る限りこちらの半分ぐらいになったか?
正確には分からないが、作戦通りこの段階でこちらの方が数が多くなった。
全てはこれを狙って仕掛けていたのだ。
相手が堅実で老練な名将バリウム・グレンダーだからこそ成功したとも言える。
老練故に、渓谷に伏兵が居る可能性を無視しなかった。
堅実故に、想定される伏兵よりも多い兵を渓谷の上に回した。
名将故に、各戦力をこちらより多く配分した。
その分、本隊の兵数は減る。
そこからさらに、落石により兵を半分ほどに分断した。
従来なら伏兵に当てた渓谷に登った帝国兵が、落石などをさせないように動いたことだろう。
バリウムも名将故に、それで対応出来ると判断した。
そこに仕掛けを施した。
その結果がこれだ。
そして勇猛果敢な帝国最強故に。
「王国最強のハバネロ公爵とお見受け致す!
私はこの軍団の総大将ロルフレット・ゲートフリード伯爵だ!
貴殿に一騎打ちを申し込む!」
傷だらけの帝国最強ロルフレットが立ち塞がる。
奴なら軍団の前面に出ていると予想出来た。
最後の仕掛けだ。
さあ! ここで意外な真実!
実はワタクシ、王国最強なの。
……わぁお、王国終わってる〜。
正確には黒騎士が居るが、奴は隠しキャラ的存在。
表に出て来てはいけない存在だ。
トーマス君もいずれは俺に並ぶ可能性はあるかもしれないが、今のところはまだサビナにも届かないぐらい。
能力Cといった程度か?
それでも大したものだが。
なんにせよ、今この場には俺以上の最高戦力は王国には居ないという事情は変わらない。
さあ、そんな訳でここで劣勢の現状を打開するのに、ロルフレットが個の武力に頼るのは至極当然。
まあ、それこそが俺の狙いだったわけだが。
これで総大将が倒れれば、王国の勝利は目はグッと出てくる。
反対に俺が負ければ、まあ予定調和のように王国の敗北が確定する。
さあてと。
ヤリマスカ。
どの道コレに勝たないと未来は無いわけで。
震えながら前に出ようとするトーマスを手で制する。
ガラント将軍も王太子殿下も息を呑んで俺の反応を待っている。
ロルフレットの後ろでは、俺の策にハマってしまい憎しみの籠った目で俺を睨む敵将バリウム。
そんな中、ロルフレットはこの戦場にあって静かに佇む。
能力Sの風格だな。
ゲーム設定のように、現実の強さが数字で表せる訳ではない。
それでも俺と比べ実力に自信があるのだろう。
その通りである。
俺はサンザリオン2を抜き放ちながら、なんでもないようにロルフレットに話しかける。
「ふむ? 軍団長とはいえ、伯爵と公爵。
身分差から見て一騎討ちを願うのは些か、傲慢に過ぎるのではないか?」
挑発とも取れる言い方。
世のイメージのハバネロ公爵の傲慢さをよく表した言い方となっていることだろう。
ロルフレットは怒り出すでもなく、苦笑すら交え穏やかな口調で答えて来た。
「そうですね。
戦場で相まみえた訳ですし、身分の差についてはご容赦願いたいところですが。
どうでしょう?
降伏して頂ければ、待遇を考慮するというのは?」
一応の挑発とも取れる。
ここからでも逆転出来る自信があるのだろう。
俺はふむ、と一呼吸置く。
「我が策に兵の大半を奪われた者の言い回しではないな」
「では……」
話は終わりとばかりにロルフレットが身構えようとしたが、機先を制し更に告げる。
「だが、待遇を考慮するというのは悪くないな」
おやっとロルフレットは表情を、不思議なものを見たかのようにに変える。
彼の後ろに居るバリウムが見るからに警戒感を露わにする。
「我が勝利の暁には、我に協力しろ、ロルフレット。
我は貴様の力を欲している」
「……傲慢な王国公爵らしい言い様ですね。
我が剣、そのように安くはない」
帝国最強剣士であることに誇りがあるのか、殺気がロルフレットから立ち昇る。
おうおう、流石は能力S。
能力Aとの差はでかい。
以前、黒騎士を俺が制することが出来たのは、アイツが本気ではなかったからだ。
分が悪くともやらざるを得ないんだから、いつものことながら詰みすぎですやん。
「だから賭けをしようというのだ。
貴様が勝てば、即ち王国の敗北。
我が勝てば、力を貸せ」
「『俺』に勝てたらな」
ロルフレットが鋭い目付きで身構える。
丁寧語が崩れてんぞ、帝国最強?
挑発に乗りやすいなぁ、これが若さか。
同じぐらいの年だけど。
「忘れるなよ? ロルフレット」
その時までな。
俺もサンザリオン2を構え、待ち受ける。
一瞬かそれとも数秒か、長くはない。
戦場から音が消える。
皆がこの決着を固唾を飲んで見守っているのだ。
爆発的な加速をかけ、ロルフレットが動く。
ゲーム設定上だけだが、ロルフレットの必殺技。
爆発的加速でもって相手に突撃して一撃を加える。
当然、ロルフレットはそれを放つ。
そして……。
「ぬぉぉおおおーーーーーーー!!!!」
雄叫びを上げながらロルフレットは、俺と彼との間に仕掛けられていた落とし穴に落ちていく。
ロルフレットが落ちたところに、俺は魔導力を込めた金属片を取り出し、更にそれに俺の魔導力を込め、赤くなったところで金属片を穴の中に投入。
これは要するにクレメンスと共に開発した新兵器の爆弾であり、渓谷の崖をタイミングよく崩したのもこれを使ったのだ。
「卑怯だぞぉぉおおおお!!!」
穴の底からロルフレットの声が響く。
何かおマヌケね!
どぉんと腹の底に響くような爆発音。
「ぬかせ、勝ちは勝ちだ。
約束は守れよ」
穴の中をちろっと覗くとピクピクと動くロルフレット。
うん、上手く加減出来たおかげで生きているらしい。
俺は迷わず兵に呼び掛ける。
「捕縛せよ!」
穴の中のロルフレットと、流石の名将バリウムと言えど、何が起きたか分からず口をぽか〜んと開け、そのまま圧倒的素早さで動いたトーマスに捕縛された。
縛りつけられながら、卑怯なり! ハバネロ公爵ぅううう、と叫ぶがすぐに猿ぐつわを噛まされ黙らされる。
穴の中のロルフレットも気絶している間に引きずり出され、治療を受けつつ拘束された。
よく見ればトーマスの足にパワーディメンションに似たすね当てが付けられている。
ははぁ〜ん、あの必殺技の効果もアレが有ったからこそだな。
ガタガタ震えていたように見えていたのも、アレが安定しなかったからかもしれない。
何のことはない、クレメンスの秘蔵アイテムは他にも有ったのだ。
報告が無かったから、完全に実験の品だろうな。
あれ? もしかしてトーマス君、クレメンスの実験体にされてる?
まあ、いいや。
「我が軍の勝利である!」
とにかく俺はサンザリオン2を掲げ、王国兵に呼び掛けると公爵領の軍が率先して勝ち鬨を挙げる。
続いて残りの王国兵も。
うん、卑怯だろうがなんだろうが勝ちは勝ちだから。
約束は守ってもらうよ。
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